セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

SPI主催 半導体エグゼクティブフォーラム・レポート(4)

|

アーム代表取締役社長の西嶋貴史氏がそのビジネスモデルについてセミコンポータル主催の半導体ビジネス戦略セミナーで語った。「ARM IPビジネスモデルの半導体産業における意味」と題する講演の後半をお届けする。

 ARMのR&D費は、約130億円であり(図6)、プロセッサの開発に投資され、小さなマイコンレベルからマルチプロセッサ1GHzのチップまで開発研究している。ソフトウエアでは、コンパイラ、デバッガ、シミュレータ等を開発している。これらの開発費を200社のパートナーとシェアしていることから、ARMのビジネスモデルは、開発費をパートナー間でシェアするモデルともいえる。


R&Dへの投資をパートナー間でシェア

(図6)


 当然のことながらビジネスをするためには、保守サポート、開発ツールコスト、プロモーション、アプリケーション開発、教育等々多くのコストがかかる。これらをパートナーでシェアすることが重要なポイントである。

 IPのビジネスモデルとは、ARMがIPを開発し、これを半導体パートナーにライセンスする。これにより、半導体パートナーの開発リスクやコストの削減ができる。ARMからライセンスを受けた半導体メーカーは、そのIPの周りに付加価値を付けて顧客に出し、半導体メーカーは、ライセンス費としてARMに支払い、ARMはこのライセンス費を再度新たなIPの開発に投資する。


ARM IPのビジネスモデル

(図7)


 上記のようなモデルに従えば、エンドユーザーは、半導体メーカーを1社に限定しなくてもよく、結果的にマルチサプライヤとなる。「複数サプライヤから購入したいが、しかし共通の仕様にしたい」というエンドユーザーの要望であるが、これをIPビジネスモデルができあがると、複数サプライヤから入手可能となる。

 この結果、OEMは差別化された製品群を開発することができる。一方、ソフトウエアベンダーやツールベンダーは、このエコシステムに投資している。つまり、ARMのこのビジネスデルそのものが、大きなマーケットを生んでいるのである。

 ARMのマイクロプロセッサ32ビットARM7は、2006年には100社にライセンスし、ロイヤリティは10億ドルであった。しかし、実はライセンス開始から5年くらいは製品が出来てこないのである。ARM9も5年かかってロイヤリティが発生した。ARM11も2007年でも1億個に達していないし、Cortexシリーズに至っては、量産製品がまだ出ていない。

 ARMのデジタルワールドとは、ARMのアーキテクチャを介して、半導体メーカー、SoC設計や、ソフトウエアベンダー、製品、エンドユーザーが繋がっている(図8)。最終的にはARMをバリューチェーンのトップにすえそれを1とすると、最終エンドユーザーでは何十億倍にも市場が広がるのである。


ARMのデジタルワールド

(図8)


 また、エンドユーザー1人がいろいろな製品を使っており、その中にARMが使われている。現在、全世界でARMは100億個くらいが、稼働しているといわれている。

 半導体製品は、1ドルから100ドルの価格帯があり、たくさんのマイクロプロセッサが存在するが、ARMは、上位互換のアーキテクチャが特徴である。小さなマイコンで動いたソフトウエアが高機能な製品でも動く。

 次に、共通なアーキテクチャを揃えると成功する例を挙げる(表2)。かつて、IBMのメインフレームが大ヒットした。これは、ハードウエア、OS、アプリケーション全てをIBMが開発した。1社でアーキテクチャを統一した例である。もう一つの例は、Intelである。IBMがPC(ハードウエア)を製造し、アーキテクチャはIntelで、ソフトウエアはMicrosoftである。一方、ARMの場合には、シリコンは半導体メーカー、アーキテクチャのみARMである。ビジネス的には、IBMやIntel & MSは一人勝ちしたのに対して、ARMは、皆でプロフィットをシェアしている。ARMモデルの場合、誰が勝っているかというと、結局最後のコンシューマが良い物を手にして、エンジョイしていることからエンドユーザーになる。


デファクトを支えるビジネスモデル

(表2)


 ARMは、インプリメンテーションをライセンスしている。実装をライセンスしないと互換にはならないが、逆にいえば、これが互換になる条件である。また、ARMは絶対にシリコンは売らない。これも重要だ。つまり、ライセンサーとコンピートするならビジネスモデルはうまくいかない。

 さまざまなタイプのプロセッサを用意している。携帯だけではなく、広い範囲で利用され、最近はマイコン向けの小さな製品も出している。

 32ビットのMCUが伸びており、その伸びは大きい。CAGRで15%、累計で10億個に達しており、MCUは年間2.4倍の伸びになっている。32ビットの共通アーキテクチャがいよいよ始まる。


多様な用途向けにプロセッサを用意

(図9)


 低消費電力も品質の指標と言える。現在流通しているARM100億個が100mW節約すると、1年間で節約できる電力量は、30億KWHとなり、40万人の年間電力使用量に匹敵する。マイクロプロセッサの数は、今後ますます増加する。地球環境を考慮すると、低消費電力も品質の指標になる時代が来る。

 ARMは200社以上に500以上のライセンスを提供し、年間30億個以上を出荷している(図10)。では、なぜARMは、こんなにうまく行ったのか?低消費電力に目を付け、たまたま早く始め、携帯市場が伸びた等、運が良かった。基本的には、スピードが競争力の源泉であり、またソフトウエアが増えたから成功できたのだが、結局は運が良かったともいえる。


各プロセッサコアのライセンス数

(図10)

最後に、水平分業は避けられないと考えている。また、ソフトウエアは実は固く、柔らかくないことから、実装をライセンスすべきである。さらに、一人で儲けてはダメで、エコシステムを構築することが成功の鍵である。

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.