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特集:グローバル化を進める(2)――日本半導体メーカーの位置付け

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講演者:南川 明
アイサプライ・ジャパン 副社長、主席アナリスト/ジャパンリサーチ


半導体の牽引役が拡がっている。1997年と2007年を比較すると、民生とワイヤレス(携帯)が大きく伸びている。一方で、産業系、有線通信が下降した。伸びたものは個人もしくは家庭が使うものである。過去の牽引役の商品は、企業が使うものであった。つまり企業から個人への消費のシフトがある。さらに、新しく自動車向けの消費が増えた。

アプリケーションの拡がりとともに、消費市場も、BRICsやVISTAなど新興市場が増えた。GDPの成長率では、中国、インドは高い率を維持している。携帯電話の加入状況を見ると、先進国(米、欧、日、韓国、台湾)が8億人、残りの25億人は、BRICsやエマージングマーケットである。BRICsでは、年収30万円の人が、携帯電話を買える。この人口が年間1億人ずつ増えている。この層の所得が増えている。一方で5万円PC、20万円台の車が出てくる時代。この層の消費が拡大してくる。

中国・インドの成長率 (図をクリックすると拡大表示します)


新興国の携帯電話の加入状況を見ると、サブプライムローン問題が起きた後でも伸び続けている。つまり、ある程度の値段の製品であれば、消費は止まらない。今は世界的な消費が落ち込んでいるという状況だが、昔のように先進国がスローダウンすると世界が落ち込んでしまうという状況でなくなっている。しかし、売れ筋商品が違ってきているということに注意すべきであろう。中国では、内陸部において安価な携帯製品需要が増加している。中国でも二極化しているといえる。

では、こうした製品を誰が作っているのか。これまでのメーカーではなく、最近、急拡大しているのがEMS(電子機器の製造請負)やODM(相手先ブランドによる設計製造)である。台湾のFoxconなどが目覚しく伸びている。

EMS売り上が急拡大、しかし日系セットメーカーは停滞 (図をクリックすると拡大表示します)


これらが半導体の購買に最近は大きな影響力を持つようになってきている。2000年では、EMSやODMが半導体を直接購入する割合は10%以下であった。今は30%。10年間で大きく変わった。EMS経由が3割であることから、半導体メーカーはEMSやODMにコンタクトしなければならないという状況にある。

セットに使われている先端プロセス製品はわずか

海外で売られているセットの中身と、日本で売られているセットの中身に差異が生じている。本当に半導体の先端技術が必要なのだろうか。それぞれ主要製品に含まれる先端チップを比較してみた。

携帯電話のiPhoneには、90nmプロセスのチップを3個搭載している。海外で売られているチップはあまり先端の製品やASICを求めていない。つまり、日系の製品を載せていない。しかも、ASICは使われていない。だから、日本の半導体が入っていないともいえよう。海外のハイエンド携帯電話では、90nmプロセスのチップを4つ使っている。先端チップの数は多いほうだ。しかし残念ながら、日本のチップはない。海外の中レベルの携帯電話になると、日本のチップは入っていない。日本の携帯電話を見ると、先端のチップの数が多い。

携帯電話に使われている日米の部品比較リストを見ると、日本は約800個、海外が350個の部品を使っている。つまり、日本の製品の方がより贅沢な作りになっているのである。iPodNanoは1チップしかなく、日本の類似したものは2チップ搭載している。ポータブルナビ(Garmin)は海外製品の1チップしか使われていない。サムスンの液晶TVを見ると、3チップ載っているが、これらはサムスンの製品だけである。日本の液晶TVは5チップ、キヤノンのデジカメは3チップそれぞれ使われており、特にASICをふんだんに使っている。

共通していえることは、海外で使われているものには高価なASICはなく、安価なASSPを使い、先端チップを少ししか使っていない。つまり、国内と海外とで、環境が大きく異なっている。日本のセットメーカーもEMSを使い始めているが、その比率はまだ少ない。
 
日系半導体メーカーのグローバルポジション

ASSP急増だがASICは停滞

世界のASSPとASICの市場を見ると、ASSPが約2倍の規模になっている。ASICでは日系が60%シェア。ASSPでは日系が16%しか占めていない。成長しているASSPでのシェアが低い。これにはビジネス上のさまざまな要因があるが、今、ASSPが大事であると各社認識し取り組んでいる。しかし、なかなか結果を出せていないというのが現状である。

世界の半導体のトップ10企業がどこで売っているか。日系はトップ10に東芝、ルネサス、ソニーが入っているが、多くが日本市場向けである。もっと、アジアに食い込んでいかなければならない。半導体市場規模としては、アジアが半分を占め、さらに急成長している。売り上げの半分をアジアが占めるというのが自然なビジネス形態であろう。

Top10の海外販売比率

ウェーハプロセス工場を見ると、日系メーカーは5〜6インチウェーハを使っているウエイトが高い。半導体メーカー1社当たりの工場の数を見ると、日系は多い。日系は5工場持っているが、海外は2.0台しか持っていない。日系ファブは小型ファブが多いと言える。今後は統合され、変わっていくだろう。

日系メーカー、古い小規模Fabはどうする

テクノロジー別シリコンウェーハの消費量を見ると、海外の売れ筋セットは、先端プロセスを要求していないものが増えてきている。安ければよいといえる。安い装置を作って、BRICsに売れる。ローテクも大事であることを再認識しなければならない。この部分が有効活用できる可能性もある。

企業価値と利益率はやはり相関関係がある

日系、欧州、米系、韓国系のメーカーの半導体売り上げ、営業利益の20年の変遷を見ると、日系の利益率の低さがわかる。投資も抑制、開発も抑制されてきた。設備投資弾性率では、日系があまりよくない。

投資家の眼から見た企業価値を上のグラフに示した。利益率が高いところが、企業価値に反映されている。

日系企業は、競合相手が多い分野に製品を投入し、かつ世界でナンバーワンのポジションを取っている製品の売り上げ構成比率が少ないという課題点を持つ。さらに、販売会社を見ると、日本の半導体販社のトップ10では、売り上げが3000億円程度であるが、海外の販社では1兆円を越えるところが多い。海外の販社はグローバル化という点で、優れている。日本の販社を使っても海外で半導体を売ることは難しいと考えられる。

それでは、日本の半導体メーカーに打つ手はないのだろうか。そうではない。日本はASICが強いものの、ASSPで海外に打って出られないという。確かに海外のセットメーカーは、EMSやODMに設計や製造を依頼するようになっている。日本の半導体メーカーは、ASSPを持っていないため、売れないといわれている。しかし本当にそうだろうか。EMSやODMはASSPを望んでいるが、それだけではない。トータルソリューションを持ってこなければだめだということもある。しかし、みんな共通のトータルソリューションでは、カスタマイズできない。

ASICビジネスを海外でいかに広げることができるか。その扉は開いてきていると思うので、そこにターゲットをおくことが大切ではないだろうか。

(執筆:2008/09/12 セミコンポータル編集室)

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