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産総研が大きく変わる;研究成果の社会実装に力を注ぐ

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産業技術総合研究所の石村和彦理事長がメディア向けの懇談会を10月末に開催した。株式上場している民間企業では、四半期ごとの決算発表をしている企業が多いが、産総研も民間企業がやっている情報公開を行うべきだ、との石村理事長の理念から初めての理事長懇談会となった。元AGCの社長・会長を経て産総研の理事長に就任した同氏は、産総研としてコミットしたことを確認するような機会を増やしたいと述べている。

図1 産業技術総合研究所理事長の石村和彦氏

図1 産業技術総合研究所理事長の石村和彦氏


独立行政法人となってはいるが、「研究所でも研究論文を書くだけではだめで、良いと思われるテクノロジーを社会実装することで研究所の価値が生まれる」と同氏は述べている。そして研究所は社会課題を解決するため、企業から見て強みを持つことが重要だとする。研究成果を企業が採用しない場合には、自らスタートアップを起こしてでも良いと思われる技術なら社会実装すべきだと主張する。これまでの国立研究所から独立行政法人となった今、産総研のステークホルダーは国民であり、組織としてコミットしたことを確認する作業が必要だと考え、そのためのメディア向け懇談会をこのほど開催した。今後も3〜4ヵ月に1回の頻度で行っていくとしている。

まず、同氏が狙う目標は、研究成果の価値を高めること。産総研の価値を高める指標の一つが民間資金(収入)を増やすことだとして、まずはこの目標を設定した。2019年に約90億円、2021年には100億円と少しずつ上がってきたが、2024年に200億円を目標に据えた。これは2022年には130億円を見込めることから、200億円という切りの良い数字を掲げた。長期的には、研究成果を社会実装することで1000億円規模の市場を作り出したいとする。

組織的には、株式会社と同様に、会社経営をチェックする取締役に相当する経営部門と、実際の業務を遂行するリーダーとなる執行役、を分離した。経営部門には8名の理事(内非常勤3名)を配置し、執行役員には研究部門の長やその他間接部門の長を置いた。職員全体として2,945名、と大所帯である。

産総研は、元々工業技術院の流れをくむ組織だが、全国各地にある旧工業技術試験所11カ所を結ぶ総合研究所であり、その拠点はつくばだけではない。東京近辺だけでも、つくばに加え、臨海副都心センターと柏センターの3拠点ある。研究対象となる7つの領域の垣根を超えた研究を目指し、応用研究から社会実装までカバーする。この7つの研究領域とは、エネルギー・環境領域、情報人間工学領域、エレクトロニクス・製造領域、生命工学領域、材料・科学領域、地質調査領域、計量標準領域である。

世の中のニーズをマーケティングによって拾い集め、社会にどのようにして実装するか、最終実装まで伴走するチームとする。そのためには時間がかかるが実装まで見届けたいとする。大学院の博士課程を修了して研究しても身分が安定しないポスドク問題に対しても、これまでの5年間の試用期間を経て正式採用、という不安定な制度を改め、今年の4月から一般企業と同様の採用に代えたという。

加えて、研究のための研究ではなく、社会の役に立つ研究を目指すため、産総研内のイノベーションスクールを設置しており、ここを卒業すると80%が民間企業に採用されるようになった。従来は20%しか採用されなかったという。民間企業に産総研の価値を認めてもらうようにすることをこれからも続けていくと石村理事長は述べる。

(2022/11/10)

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