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5Gの進化は止まらない、FWA、WWAN、強化学習AIなど新技術続出

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5G通信は、これまでの携帯電話通信から、IoTまでをも包含するように大きく拡大していると同時に、革新的な技術も数多く登場している。3Gまでは携帯電話に特化していたが4Gあたりから広がりを見せるだけではなく5Gでは基地局仕様が大きく変わり、FWAやSA(Stand alone)化、LPWA、ワイヤレスWAN 、AR/VR、ミリ波、ビームフォーミング、マッシブMIMO、クラウドRAN、デジタルツインを使うAIなど、新技術が登場してきた。

方式別の世界のモバイル加入数推移と予測 Ericsson Mobility Report

図1 5Gアクセスの広がりはこれから 出典:Ericsson Mobility Report


これは、通信機器メーカー大手のEricssonが年2回発行しているEricsson Mobility Reportの最新号で明らかにされたもの。現時点での5G導入は世界的にまだ1割以下。モバイル加入者数は80億に達しているが(図1)、その内の5G加入者数は2021年末に5億8000万加入が予想されている。全世界のまだ7.3%にすぎない。2026年に向けて徐々にその数を増やしていく。予想では、2026年に35億加入になると見ているため、日本企業にもチャンスは十分にある。また、6Gも結局はミリ波のような延長技術がコアとなるため、5Gをしっかりやっていかなければ6Gの機会も失うことになる。

5Gから始まる新しいサービスではないが、5G時代はモバイル通信だけではなく、固定電話へのアクセスFWA(Fixed Wireless Access)も活発になっている(図2)。4Gの終わりごろから5GにかけてFWA加入者が増えている。FWAは光ファイバが敷かれていない地域へのブロードバンドサービスを提供するもので、最も有名な米国におけるミリ波サービスはFWAで提供されている。いわばラストワンマイル問題をワイヤレス通信で解決する。


世界のFWA接続数の推移 Ericsson Mobility Report

図2 FWAは伸びる  出典:Ericsson Mobility Report


日本では、電柱から電柱に沿って光ファイバがかなり普及しているが、欧州など美観を重視する国々では電柱がなく電話線や電力線を地下に埋め込んでおり、光ファイバを地下に敷設するのはコストが高すぎる。このため、光ファイバは通信インフラ幹線以外、ほとんど普及していない。無線でブロードバンドが可能になる4GあたりからFWAがラストワンマイルの決め手となっている。米国ではミリ波(28GHz帯)がFWAとして使われてり、マッシブMIMOとビームフォーミングを組み合わせることでワンマイル(1.6km)の距離は届きそうだ。

エリクソンジャパンのCTOである藤岡雅宜氏によると、国内でも楽天モバイルやUQモバイルなどが5GのFWAを進めているという。新たに光ファイバの敷設工事をするよりもFWAの方が安く済みそうだ。FWAはラストワンマイルだけではなく、小型基地局(スモールセル)向けにも使われているという。

加えて、5G当初は4Gと5GのミックスとなるNSA(Non-Stand Alone)方式が中心となっており、Ericssonはそのために時分割で4Gと5Gを切り替えられるダイナミックスペクトラムシェアリング技術を開発、すでに12万局以上の基地局に導入されているという。

ただし、FWAのデータトラフィックの伸び率は20%で伸び続けるが、モバイルデータトラフィックの方が伸び率は大きく、年率53%で伸びていくと予想している。こういった伸びを推進するのがやはりスマートフォンやIoT機器などの5Gデバイス。デバイスが増え、データ量も増えると見て、ミリ波技術がこれから広がり、マッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナと共に世界的に拡大していきそうだ。

IoTデバイスも着々と伸びており、IoT専用の遅いLPWA(Low Power Wide Area)回線だけではなく、ビデオ画像の伝送を中心としたブロードバンドIoTもこれから伸びる傾向を示している(図3)。Wi-FiやBluetooth経由でインターネットとつなげる近距離IoTが現在は最も多いが、伸び率はブロードバンドIoTとLPWAにおいて共に23%の成長率が見込まれている。


セルラーIoT接続の増加 Ericsson Mobility Report

図3 IoT専用回線であるLPWAやブロードバンドIoTの成長が見込まれている 出典:Ericsson Mobility Report


5Gの通信周波数を低い側にも広げて、5Gの普及を促進しようという動きも出ている(図4)。これは、従来のサブロクと呼ばれる6GHz以下の周波数帯をミッドバンドとして、ハイバンドのミリ波(28GHz/39GHz帯)に加えて、ローバンド(600MHz帯)も加えるもの。周波数が低い方がデータレートは遅いが、カバレージは広くなるからだ。技術的には難しくない。


全ユースケースに対応した完全5Gネットワーク/3つの周波数帯利用 Ericsson Mobility Report

図4 3種類の周波数帯で5Gの促進を図る 出典:Ericsson Mobility Report


ローバンドは5Gというより4Gに近いが、ローバンド以外届きにくい地域をカバーし、低遅延を提供できる。さらにデータレートの遅さは、例えばローバンドとミッドバンドの両方の帯域を使うキャリヤアグリゲーション技術でカバーする。加えてマッシブMIMOで電波の感度を上げることも可能だ。

工場や港湾、流通倉庫、大病院、空港など広い土地を持つ企業や工業団地での使用が盛んなローカル5G(ワイヤレスWAN)も今後進化が続くだろう(図5)。


5GによるWWANの進化 Ericsson Mobility Report

図5 ワイヤレスWANでの利用が見込まれている 出典:Ericsson Mobility Report


EricssonはさらにAIを使ったネットワークの最適化を進めている。5Gの通信トラフィックには教師データがないため、教師なし学習を使い、参照信号受信電力やバッテリ充電状態、ダウンリンクのスループットなどを最適化する。その一つ、強化学習(Reinforcement training)と呼ばれる学習方法を使ったAIでは、デジタルツインを利用してまずシミュレーションで事前トレーニングを行い、それを実際のネットワークに適用してトレーニング・学習・トレーニング・学習を何回か行い、最適値を求めていく。

事例の一つとして強化学習で、5Gのアンテナの角度を遠隔で調整する場合の最適角を学習させることを行っている。スペイン通信業者MasMovilは、11月はじめから12月に渡り学習させた結果、アンテナの角度をトラフィック量に応じて最適な角度を自動で調整できるようになり、ダウンリンクのスループットを12%改善したという。また、スイスのSwisscomでの事例でも同様にして、ダウンリンクの送信出力を平均20%削減したとしている。

参考資料
1. コロナ禍での通信量の増大を裏付けたEricsson Mobility Report (2020/07/14)

(2021/07/16)

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