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東工大の益体制、全学挙げて産学協同に取り組む

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東京大学がTSMCとの提携を発表し(参考資料1)、東京工業大学が産学共同を進めるなど、大学を挙げて産業界・社会に役立つ研究を始める動きが活発になっている。東工大は、2019年に就任した益一哉学長(図1)の元、第1回国際オープンイノベーションシンポジウムを開催、IPや特許をコンソーシアム内で共有、優先的にライセンスを受けられるという事業化に向いた方式を提案している。

図1 東京工業大学学長の益一哉氏

図1 東京工業大学学長の益一哉氏


電子部品メーカーの代表でもあるTDKが東工大からフェライト技術をライセンス供与され、ベンチャーとして出発した逸話は有名だ。東工大の加藤与五郎教授と武井武教授が1930年に発明したフェライトは、インダクタ(L)やトランスの磁心、ノイズ抑制シートなどに使われており、スマートフォンやIoTなどの無線回路に使われていないモノはないと言っても過言ではない。エレクトロニクスエンジニアにとって極めてなじみのある電子部品の一つだ。かつて第2次世界大戦中に撃ち落とした米軍機の通信機を解体したところ、中間周波数トランスからフェライトが出てきたと言われている。つまりフェライト材料は国内での評価よりも海外での評価の方が高かったともいえる。TDKの創業者は、米軍機の話を聞きつけ、東工大から特許を譲り受け創業したという。

この逸話話から見られるように大学発ベンチャーの風土がある東工大でさえ、産業界からの遊離に対して危機感を募らせてきた。iPhoneやAndroidの顔認証機能は、写真の顔を認識できないようにするため3次元の奥行きも測定している。複数本のレーザー光を飛ばしその反射光の時間を測定するToF(Time of Flight)技術を使い、顔の特徴部分の奥行や2次元距離を測定する。この技術では、東工大の学長だった伊賀健一教授が発明した表面発光レーザーが欠かせない。複数本のレーザー光を1チップに集積できるからだ。ところが表面発光レーザーは日本のメーカーではなく、米国の2社(Lumentum社とFinisar社)が商用でスマホメーカーに提供している。歴史に「もし」はないが、東工大と産業界の結びつきがもっと密であれば、この技術は日本が制していたのに違いない。しかもiPhoneだけではなくAndriodフォンにも広がっていくことがはっきりしているだけに残念である。

大学は世界的にも産業界との結びつきを求めている。特に米国ではごく当たり前にStanford大学やUC Berkley、MITなどは産業界との結びつきが強い。ISSCCの論文著者の顔ぶれを見ていればそのことはすぐにわかる。産業界の基盤が比較的弱い英国でさえ、アカデミアの代表ともいえそうなCambridge大学や無線技術が得意なBristol大学では積極的に欧州産業界との結びつきを強めようとしている。


Open innovation : From university to campany

図2 誰もが参加できるオープンイノベーションにディスカッションする場をオープンプラットフォームとして提供する 出典:東京工業大学


東工大はまずオープンイノベーションという、産業界から誰でも参加できる仕組みを作り、参加者を募る。大学にはオープンプラットフォームと呼ぶ、みんなが議論できる場を作る(図2)。さらに未来の社会をデザインするためのDLAB(Laboratory for Design of Social Innovation in Global Networks)を2018年9月に設置した。そして描いた未来社会を実現する機構をみんなで議論し、未来のシナリオを20以上創り出し、年表に書き込み、2020年1月に発表した。現在、DLABに参加するパートナーを募集中だという。


Our strategy : Intellectual property solutions (in case of consortium)

図3 コンソーシアム型の共同研究では特許を共有する 出典:東京工業大学


また、これまで特許は全て大学、すなわち文部科学省に帰属していたため、産業界は大学と本気で共同で開発に取り組むことは少なかった。そこでコンソーシアム的な共同研究の場で得られる特許に関しては参加者の共有にしておき、事業化する場合に優先的にライセンスを供与してもらうことにする(図3)。起業したり新規事業を設立したりする場合に特許を使えるようになる。コンソーシアムでは特許検索や競合企業の特許分析を行うチームも作るという。

加えて、大学との独占契約での特許の場合にも言及している。かつては国立大学との共同研究で企業が資金を提供しても、特許は文科省のもの、というスタンスだったため大学と共同で研究開発する企業は少なかった。そこで、東工大は従来の仕組みを改めて、共同研究での契約が特許を独占的に使用するかそうではないか、あるいは第三者が使いたいという非独占的な場合の扱いも発明企業と大学の双方の利害に照らして、特許の扱いをフレキシブルに対応できるように変えた。これによって、これまでのように発明成果を国家に一律に取り上げられることはなくなった。

参考資料
1. 東大とTSMCが包括提携、3nm以下のLSI実現に向けた国際協力へ (2019/11/28)

(2020/03/05)

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