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オートモーティブワールド2020(2)〜MSなどはなぜクルマに参入するのか

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第12回オートモーティブワールドの最大のトピックスは既報したが(参考資料1)、クルマに参入する企業が極めて増えており、「なぜこの企業が?」といった例をいくつか紹介しよう。まずはMicrosoft、次に計測器のKeysightを紹介する。そして半導体のXilinxも新規参入に近い。それぞれ合理的な参入理由がある。

図1 第12回オートモーティブワールドのひとコマ

図1 第12回オートモーティブワールドのひとコマ

かつて、通信業者の集まりであるMWC(Mobile World Congress)を取材した時に、IBMやOracleなどが出展しており、なぜ通信業界に参入してくるのかを聞いた。この時の答えは、「わが社が出来る成長産業への参入を考えて出展した」、と述べていた。自動車産業も同様に、ACES(A:自動運転、C:接続、E:電気自動車、S:シェアリング)という新しい方向を示しており、その中で「わが社の得意なテクノロジーを成長産業で生かすにはどうすべきか」という命題を掲げている。

パソコンで急成長したMicrosoftは今、クラウドビジネスへと大きく舵を切っている。同社は、Amazon.comがクラウドビジネス部門AWS(Amazon Web Service)で大成功を収めた、クラウドサービスへ大きく投資してきた。その結果、世界各地54地区に設置したデータセンターを光ファイバ網で結び、そのデータセンターは140カ国で利用できる。一つのデータセンターが大学の工学部キャンパス程度の広さを持ち、コンピュータを設置している建物が5〜6棟あるため、そのスケールは極めて巨大である。

Microsoftの狙いはクルマのデジタルトランスフォーメーションだ。それを推進するのはやはりクラウドだが、リアルタイム動作が必要な場合にはエッジ(車内)もインテリジェントにしようという作戦だ。ただし、クルマ業界での競合を避けるため、データは重要だが、これはクルマメーカーに任せる。データそのもので稼ぐビジネスはしない。MSの得意なのはAIの能力であり、セキュアなクラウドMS Azureを提供する。この上で、AIによる解析を提供する。

例えば、Daimlerは、クラウド上でクルマのデータを集め判断に使っているという。またBMWは、MS Bot Frameworkを使って音声認識で操作するシステム(AIスピーカー)を搭載している。また、MS Connected Vehicle Platformを使えば、ルートプラニング機能や渋滞予測サービスなどのテレマティクスやインフォテインメントなどを利用できる。

サイバー攻撃で、脆弱性を評価

測定器メーカーのKeysightは、評価したいデバイスDUT(被試験デバイス)にサイバー攻撃をしかけ、脆弱性がないかどうかをチェックする測定器を開発した。車内ネットワークのCANバスやUSBインターフェイス、車載イーサネットに攻撃を仕掛け、脆弱性を評価する。これからの社外とのコネクティビティも調べるため、セルラーネットワークやWi-Fi、Bluetooth、外部とつながるゲートウェイにも攻撃を仕掛ける。

図2 KeysightのATI Research CenterのシニアディレクタであるSteve McGregory氏

図2 KeysightのATI Research CenterのシニアディレクタであるSteve McGregory氏


特にコネクテッドカーになると社外からも攻撃される恐れが出てくる。クルマのシステムと外とのインターフェイスの役割を果たすゲートウェイが最も攻撃されやすいため、ここは頑丈なゲートを形成する必要がある。ゲートの役割を果たし認証を受け持つ、車両セキュリティモジュールがその役目を担う。「攻撃からの対策として、このゲートウェイで外からの攻撃があれば機能を遮断できるかどうかをテストする機能も欠かせなくなる」とKeysightのATI(Application and Threat Intelligence)Research Center(注)のシニアディレクタであるSteve McGregory氏(図2)は言う。

この測定器ではもし、このツールで攻撃されていることを見つけると、ファジイングという項目でプロトコルに準拠しているかどうかのテストをする。図3のサイバー攻撃テストシステムの右下に示すように、テストしたいプロトコルライブラリをスキャンして、どのテストを行うのか、クルマ全体の接続性をテストするのか、あるECUをテストするのか、どのサービスをテストするのか、などを選択する。その質問をベースに新しいテストを導き出し、見つかるとレポートを出す。もし、このツールで攻撃されていることを見つけると、ファジイングという項目でプロトコルに準拠しているかどうかのテストをする。もしDUT(被テストデバイス)が否と答えると、バグがあると判断する。今のところ、この答えには再現性があるという。バグが脆弱性の要因かもしれないため、開発段階でバグを直しておくことができる。


図3 Keysightのサーバー攻撃をチェックする評価システム

図3 Keysightのサーバー攻撃をチェックする評価システム


XilinxはFPGAならではの応用を発見

クルマ分野へは新規参入ではないが、Xilinxは自動運転に必要なセンサフュージョンチップにFPGAが最有力であることを訴求した。これまでのXilinxが提案してきたステレオ画像での対象物の認識やそこからの距離を計算するためのFPGAは、NvidiaのGPUやCPUでも可能な半導体であった。今回、FPGAでなければ実現はより安全なクルマ作りが難しくなることをXilinxが示した。それはセンサフュージョンの半導体チップである。

運転中のクルマから前方の物体を認識するためにカメラが主に使われているが、カメラだけだと濃霧や吹雪では使いない。このため電波が遠くまで届くレーダーや、レーザー光が周囲物体との距離を測るLiDARなどの画像センサのハイブリッドが、今のところ最有力である。しかし、これらからのセンサデータを判断できるレベルにまで処理するためには高度の演算が欠かせない。

そこで、クルマメーカーはカメラやレーダー、LiDARの数を自社の設計思想に則って決めなければならない。この結果、クルマメーカーや車種ごとにそれぞれの数が違ってくる。すなわちクルマの物体検出は、究極の少量多品種製品になる。こうなると、センサフュージョン専用のASICは使えない。コスト的に合わないためだ。CPUはフレキシブルだが演算処理に時間がかかる。GPUは演算処理専用のプログラマブルチップであるが、各センサに合ったアルゴリズムの開発が必要となる。FPGAなら、センサの数や性能の違い、データを送受信するバンド幅の違いがあっても、比較的簡単に変更できる。FPGAこそ、性能とフレキシビリティを両立できるチップであると、Xilinx社クルマ担当シニアディレクタ&グローバルリーダー、Willard Tu氏(図4)はいう。


図4 Xilinxのクルマ担当シニアディレクタのWillard Tu氏(右) 左はザイリンクス日本法人のクルマ担当の友杉伸一朗氏

図4 Xilinxのクルマ担当シニアディレクタのWillard Tu氏(右) 左はザイリンクス日本法人のクルマ担当の友杉伸一朗氏


これまで試作段階ではFPGAを使って量産段階でASICに焼き直すことがよく行われてきた。しかし、中国の顧客である百度は開発当初はNvidiaで設計し、量産ではFPGAを使っているとTu氏は語る。FPGAのプログラムは量産用に簡単にコピーで作れるためだ。

参考資料
1. オートモーティブワールド2020(1)〜可動部不要LiDARや60GHzレーダーなど (2020/01/17)

(2020/01/22)

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