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日立、スマホカメラだけで指静脈を認証

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日立製作所の研究開発グループは、指の静脈をカメラで撮影した画像を認証に使える技術を開発した(図1)。カメラはIR(赤外線)ではなく一般のスマートフォンのカメラを使う。従来のIRを使う認証システムでは専用のIRリーダーが必要だった。銀行のATMやオンラインバンキング、入退出管理などに使いたいとしている。

図1 スマホのカメラによる指静脈認証 出典:日立製作所

図1 スマホのカメラによる指静脈認証 出典:日立製作所


個人認証では、秘匿性や永続性(変わらないこと)、操作性(使いやすさ)も求められる。指紋だとコピーされると秘匿性を失ってしまう。体内を流れる静脈ならコピーできない。そこで、これまでは赤外線を使う専用のリーダーを使っていた。血液中のヘモグロビンが赤外線を吸収するため、指内を反射あるいは透過するIRが変わることを利用していた。赤外線リーダーは、専用デバイスであるため、限られた場所でしか使えない。

スマホのカメラは非常に普及しているため、カメラ画像から静脈を検出できれば使い勝手は極めて良い。しかし、画像から静脈を検出することは難しい。このテーマに挑戦したのが日立である。

同社は、可視光の画像から静脈パターンだけを抽出するため、三つの技術を利用した。色情報を使う、指だけを検出・認識する、さらに冗長性を持たせ1本ではなく複数本の指を用いる。指は背景の形状と色によって指だと認識するようにする。形状の検出には指の先端と根本の形状を抽出し、背景とは色で分離する。背景とは、指の色と背景の色との違いや指の形状をマシンラーニングで学習することによって、分離する(図2)。


図2 複数の指を背景から識別する

図2 複数の指を背景から識別する


指の色と背景色を区別するためのマシンラーニングでは、600種類の画像データを学習させた。画素数も加味するとデータ量は、600×画素数となるとしている。さらに指の姿勢を正規化しているため多少回転しても相対的な形から指を見分けることができるとする。

色情報から静脈を抽出するには、色をR(赤)G(緑)B(青)に分解し、その統計をとった(図3)。静脈部分は指全体の平均的な色よりもRの強度が弱く、また指のしわの部分は、指全体の平均よりも赤が相対的に強く全体的に暗い。つまり、指全体の平均的な色、静脈の色、しわの色、それぞれのRGBを求め比較して、静脈の色を判断する。これをさらに画素ごとに分解して静脈らしさを計算している。


図3 画像をRGBに分解し、各強度分布から指平均の色、静脈の色、しわの色を識別

図3 画像をRGBに分解し、各強度分布から指平均の色、静脈の色、しわの色を識別


最初に本人と他人を登録しておく。上に述べた判断基準を元に、本人の認証を1000回試行し、他人の認証を1万5000回試行した。あらかじめ登録している画像と、試行したミスマッチ率分布で本人と他人とは明確な有意差が見られる(図4)ことから、本人確認として使える技術になると日立は判断した。


図4 ミスマッチ率の分布から本人か他人かを識別する

図4 ミスマッチ率の分布から本人か他人かを識別する


この認証に用いる指は基本的に4本とし、その内の2本が一致すれば本人と認証する。冗長性を持たせることで精度を上げるとしている。

今後、実用化に向けて、指の写真を撮るさまざまな場所でも実験し、被験者をもっと増やしてデータをさらに蓄積する、などの実証実験を進めていく。加えて、セキュリティレベル団体の規格レベルに適用できるようにする。またビジネスモデルとしては、認証サービスをライセンス提供などオンラインバンキングなどへの応用も狙っていく。ハードとしては認証処理をスマホ側で行うかクラウド側で行うか、いずれにも対応できるとしている。

(2016/10/25)

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