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Qualcomm、IoT/組み込みへ本格参入

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ファブレス半導体トップのQualcommが戦略を大転換する。これまで、携帯電話やスマートフォン用のチップやライセンスビジネスに特化してきたが、これからは一般市場にも参入することになった。同社はIoTと組み込み市場に向けた製品の出荷とサポートにも進出することを決め、日本市場ではArrow Electronics Japanの流通を使い参入した。

図1 Qualcomm CDMA Technologiesのマーケティングおよびビジネス開発担当副社長の須永順子氏

図1 Qualcomm CDMA Technologiesのマーケティングおよびビジネス開発担当副社長の須永順子氏


Qualcommはこれまで、携帯やスマートフォンメーカーを対象とした顧客にアプリケーションプロセッサやモデムチップ、特許などを販売してきた。これらの市場は、限られた顧客が大量に生産するという市場だった。SnapdragonなどのAPUやモデムチップを一般流通経路に販売していなかった。これからのIoTや組み込みシステムといった広い市場へも積極的に参入していく、という戦略を立ててきたのである。「これまでのモバイル市場とIoT市場とは全く違う」(Qualcomm CDMA Technologiesのマーケティングおよびビジネス開発担当副社長の須永順子氏)ため、流通も考え直すことにした。

Qualcommが世界戦略として、決めたディストリビュータはArrow Electronicsだった。幸い、日本にも日本法人アロー・エレクトロニクス・ジャパンは設立されている。しかもその社長である高乗正行氏(図2)はチップワンストップの社長でもある。すなわち、試作・開発時はチップワンストップから1〜100個単位で購入でき、量産時にはArrowを通してサポートを得ることができる。日本では、クアルコムジャパンがアローを通して一般売り市場に参入できることは本社の意向とも一致する。


図2 アロー・エレクトロニクス・ジャパン社長兼チップワンストップ代表取締役社長の高乗正行氏 手に持っている開発ボードはカードサイズのDragonBoard 410c

図2 アロー・エレクトロニクス・ジャパン社長兼チップワンストップ代表取締役社長の高乗正行氏 手に持っている開発ボードはカードサイズのDragonBoard 410c


IoTや組み込みシステム向けの製品として、今回リリースしたのは、すでに携帯電話向けに搭載されているSnapdragon 410/600の組み込み版である410E/600E(製品名はそれぞれAPQ8064E/APQ8016E)チップセットである。Snapdragon 410Eチップセットは、APUとパワーマネジメントIC、Wi-Fi/Bluetoothコンボチップ、GPSの4チップからなる。APUにはARM Cortex-A53クワッドコアプロセッサを集積しており、ハイエンドのプロセッサである。これは、IoTと組み込みシステム向けのチップセットであり、LTEなどセルラーネットワーク向けのモデムは含めていない。

IoTでは、ワイヤレスセンサネットワークのようなメッシュトポロジー、Wi-Fiによるインターネット接続、新IoT向けの規格RoLaやNB-IoTによるセルラー接続など、つなげる相手が異なるさまざまな規格のモデムを対応させなければならない。このため、顧客によって対応していくが、今回はWi-Fi経由や、Bluetoothからスマホを経由してインターネットにつなげる方式の開発キットを提供する。

Qualcommの基本戦略は、あらゆるモノをワイヤレスでつなげること、である。IoTはこの戦略に沿った新しい応用であり、この市場を見逃すわけには行かない。これまで同社は、電気自動車用のワイヤレス充電や、ヘルスケア向けのワイヤレス端末などセルラーネットワーク以外のワイヤレス通信分野にも展開してきた。IoT分野にまともに来たのは今回が初めて。しかも顧客は一般ユーザーであり、これまでのビジネスモデルが通用しない。携帯ビジネスは、開発期間が短く、生産続ける期間も短い。しかし、IoTは最低でも10年は動作することが求められる上に、開発期間の短縮の優先度は高くない。

IoTシステムは、センサ端末からクラウドでのデータ解析やアプリケーション制作、データの情報への変換など極めて広範囲に及ぶため、パートナー作りが極めて重要な役割を持つ。今回はArrowのような販売パートナーだけではなく、ボードやソフトウエアのパートナーとも手を組み(図3)、開発ボードの販売、サポートの体制も作った。


図3 パートナーを揃えた 出典:アロー・エレクトロニクス・ジャパン

図3 パートナーを揃えた 出典:アロー・エレクトロニクス・ジャパン


今回提供する開発ボードには、クワッドコアのARM Cortex-A53のAPUを搭載した高性能な製品である。デザインルールは先端の28nmプロセス。この高性能チップが狙う用途は、監視カメラや高解像度の医療画像、ホームセキュリティなどだが、発売して1週間強経つが、引き合いは強いという。まずはこの市場から参入し、さらにCortex-Mシリーズのような制御系のCPUコアをはじめとして、これからのIoT仕様に関しては、Qualcomm社内で議論しており、さまざまな展開を検討していくことになる。

(2016/10/14)

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