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2期目を迎えた東北大CIESセンター

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東北大学のキャンパス内に2012年に設立された国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)が昨年に続き、今年も技術報告会であるCIES Technology Forumを開催した。今年は第2回となる。CIESは、文部科学省ではなく、民間企業からの出資を受けて構成された研究所であり、民間企業が求めるテーマを中心に研究されている。現在センター長である遠藤哲郎氏(図1)にこれまでの研究所やコンソーシアムとの違い、成果などについて聞いた。

図1 国際集積エレクトロニクス研究開発センターのセンター長である遠藤哲郎氏

図1 国際集積エレクトロニクス研究開発センターのセンター長である遠藤哲郎氏


これまでの国家予算に頼るプロジェクトは、途中でテーマを変えることはできない。これはテーマの正当性を議論したうえで決めたことであるから、そう簡単には変更できない仕組みになっている。しかし、IT分野はその時のトレンドが変わることも多い。例えば、わずか3年前の2013年におけるITの4大トレンドは、「クラウド」、「ビッグデータ」、「モバイル」、「ソーシャル」だった。しかし2015年には、この内ビッグデータはIoT(Internet of Things)にとって代られた。今はIoTシステムの中の一つの分野としてビッグデータ解析がある。

遠藤氏がセンター長に就任したのは2012年10月。2012年10月設立からの3年間を第1期として、2015年10月からの第2期も遠藤氏が担当することになった。CIESがこれまでの研究所と違う点は、CIESコンソーシアムを形成し、国内だけではなく海外企業も参加している点、さらに産学共同プロジェクトとして産業界と同じ300mmの生産ラインを使って互換性を維持しようとしていた点、特許に関しても共同研究する企業との保有権に関してはフレキシブルに対応する点、などである。

CIESコンソーシアムへの参加企業は海外の3〜4社を含め50社。海外企業とも共同研究を行うのは、企業レベルではグローバルな提携は常識になってきたからだ。トヨタでさえもBMWと共同開発し、プジョー・シトロエンからのOEM供給を受け、Tesla Motorsに出資する、など海外企業と連携しており、ルネサスエレクトロニクスもTSMCと共同でプロセス開発するなど企業同士の連携は活発に行われている。もちろん、海外の競合企業はもっとグローバルな提携を結んでいる。このような中で大学だけが国内企業だけにこだわっている訳にはいかない。

特許に関しても、これまで登録ベースで200件以上所有しているが、共同開発プロジェクトとその参加の関わり合いの度合いや契約内容によって特許所有に関してフレキシブルに対応している。大学が取得した特許はこれまで、文部科学省が保有し、関係した企業が簡単に使うことができなかった。「だから大学とは共同研究したくなかった」と述べた企業も少なくなかった。かつて特許庁にいた大嶋洋一氏をCIESの戦略企画部門長に招へいした。同氏は、IPマネジメントや契約、研究企画などを管理している。

特に、オープンイノベーションプログラムで企業と共同研究が始まると、その契約によっては他企業を含めないクローズドな研究も行う。この点は欧州のIMECと同じ。半導体の薄膜製造装置はほとんどがコンピュータ制御であるから同じ装置でもオープンとクローズを区別できる。例えば、IDとパスワードがなければ、コンピュータ画面からクローズドな研究のホルダーは見えないように管理され、セキュリティをかけている。装置のチャンバだけを部外者が見ても何のチャンバなのか特定できない。測定器でも同様にコンピュータ制御であるため、情報のファイヤーウォールがかかっている。クローズドな共同研究では専任者を配置している。オープンとクローズドな二つのシステムを共存させるやり方はIMECと同様である。

テーマはスピントロニクス関係が4件とシステムVLSI関係3件の合計7件について産学共同研究を続けており、さらに国家プロジェクト(文科省JSTのACCELプロジェクト、内閣府のImPACTプロジェクト、そして経済産業省のNEDOプロジェクト)3件の研究を運営している。スピントロニクスに注目するのは、スピンの向きだけで記憶させたり、スピンの流れを電流に見立てて、スピン波を伝送したりしても電流を消費しない。すなわち、消費電力が極めて小さいデバイスができる可能性がある。

具体的には、STT-MRAMの開発や不揮発性素子をベースにしたマイクロプロセッサ、TMR磁気センサや無線通信による3次元ICの開発、画像処理、セキュリティダイナミック再構成可能なICなどがある。さらにスピントロニクスICの連想プロセッサやGaN高耐圧双方向トランジスタなどの研究に加え、ITや自動車向けデバイスの開発などもテーマに上っている。

第2期では、仙台地区には優れた技術を持つ小さな企業があり、ITと自動車産業を中心とした地域企業と、大学が一緒に組むことでネットワークを広げビジネス拡大につなげようとするプロジェクトもある。地方の中小企業には、とがった技術を持つところが多い。しかし、知名度を上げる工夫や日本中に宣伝する力がないため、知られていない。例えば、平面平行度100nm以下の鏡面加工できるティ・ディ・シー社、わずかに酸化する状態を捉えるケミカルルミネセンス分析装置の東北電子産業、3次元の熱解析を行う装置の東杜シーテック社など技術力の高い地元企業がある。さらに、アルプス電気やケーヒンなどの大手企業も宮城県に事業を展開している。東北大学とのコラボは企業・大学双方にメリットがある。

このCIESセンターは、宮城県/仙台市から税制優遇を受けている特区になっている。学内でも東北大学とは契約を結び、特区扱いになっている。これまでの文科省傘下の大学という位置づけではない、新しい産学共同のあり方として日本のシリコンバレーになれるか、期待する声は大きい。

(2016/04/06)

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