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「やはり日本はイノベーションを生み出す」

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「アジアでの生産は活発ではあるが、やはり、日本はイノベーションを生み出す」。こういった声をこの数週間、よく聞くようになった。日本でメディアとの取材会見を開催する外国企業の声である。米国テキサス州にある電子部品商社のMouser社が日本法人を設立、CypressはSpansion買収で日本の売上を伸ばし、MaximはIndustry 4.0を日本に導入する。25年間日本と付き合ってきたCUIは日本へ投資し続けることをコミットした。

図1 MouserのPresident & CEOのGlenn Smith氏

図1 MouserのPresident & CEOのGlenn Smith氏


日本に拠点を置くMouser
半導体製品や電子部品の総合商社として、米Digi-Keyや英RS Components、チップワンストップなどがある。米国からもう一つの大手商社Mouserが東京にカスタマーサービスセンターを開設した。Digi-Keyは支社や支店を全く置かずインターネットと電話だけで注文を受け付ける。RSは横浜に本社を国内の法人を置き、倉庫も持ち社員も数十名いる。チップワンストップは国内のメーカーの部品を中心とした商社。こういった半導体・電子部品商社に対して、Mouserは日本の顧客に特化したサービスを行うために設立された。

これまでMouser全体の売り上げの5割強が米国。アジア太平洋は全社売り上げの20%程度。日本はアジア全体の11%しかない。しかし、成長率が大きい。昨年Mouserは、世界全体で29%も成長させたが、日本の伸びはそれ以上の36%増。円安によるアベノミクスの影響は、海外から部品を購入する上で不利に働くが、それでも同社は日本製の部品を安く購入し欧米などに販売できるというメリットがある。

そして日本の顧客が求めるものは新製品。新製品を入手するには時間がかかってしまうことが多い。Mouserの特長は新製品が入手しやすいこと。ところがこれまで日本のエンジニアはインターネットを通じて申し込むか、アジア太平洋地区のセールス拠点である香港を通して入手するしかできなかった。今回、日本にサポートセンターを設置することで日本のエンジニアにはアクセスしやすくなる。MouserのPresident & CEOであるGlenn Smith氏(図1)は、アジア太平洋地区で11%しかない日本売上はすぐに25%くらいになるだろうと見ている。

日本市場を強化するCypress
Cypress SemiconductorはSpansion買収後初めての記者会見を開き、日本法人社長には36歳と若い長谷川夕也氏が就任したことを発表した。元々富士通とAMDの合弁会社として出発したSpansionであると同時に旧富士通セミコンダクターのマイコンとアナログ部門を買収したため、Spansion全体における日本での売り上げは大きかった。Cypressと一緒になった状態でも全社売り上げの30%以上が日本であるという。Spansionの強かった自動車向け製品には全社的に推進していく。外資系企業で日本市場での売り上げは一般には多い所でも15%程度だから、Spansionの日本売り上げがいかに多いかわかるだろう。CypressがSpansionを買収した後も日本オフィスの拡充をさらに進めていくという。

加えて、Cypressはグローバル市場に強いため、日本のユーザー(電子機器メーカー)が世界市場で勝てるようにサポートしていくという。IoT、自動車、PC周辺機器・OA機器、工業用機器・医療機器など日本の強い分野をさらに強くしていく。

Industry 4.0導入を支援
モノづくり先進国の日本にもドイツと同様なIndustry 4.0を導入できることを示したのがMaxim Integrated。ドイツは日本同様、ロボット大国であり、自動車大国でもある。自動車メーカーOEMを頂点とするティア1からティア2、3へとのサプライチェーンを構築している自動車産業はドイツも日本も共通する。だからこそ、ドイツが提唱しているIndustry 4.0は日本でも通用するはずだ、とMaximは考えた。

モノづくりの自動化は、英国スコットランドのジェームズ・ワットが発明した蒸気機関を工場の自動化に適用することで始まった。いわゆる産業革命である。これを第1次とすると、動力として電気モーターを使って自動化したのが第2次産業革命すなわちIndustry 2.0である。そしてエレクトロニクスで制御して生産効率を上げたのが第3次のIndustry 3.0とすると、イントラネットやインターネットなどのサイバーの世界と、電子制御の現実の世界とをつなげるサイバーフィジカルシステムを使ってさらに生産性を上げようという狙いがIndustry 4.0、すなわち第4次産業革命である。

Industry 4.0では、スマートファクトリ(賢い工場)とも呼び、工場の生産性を上げるため、少量多品種にフレキシブルに対応し、保守の回数を減らしてコストダウンを図り、従来の「Kaizen(改善)」に代わり、もっとインテリジェントに生産する。工場を賢く動かすためには、大量のセンサを導入が不可欠。そしてパワフルなプロセッサも欠かせない。工場の自動化ではPLC(プログラマブルロジックコントローラ)をシーケンス制御の標準品として使う訳だが、これまでのPLCは据え置き型機械程度の大きさだった。このため全ての機械に使うことはできなかった。


図2 Maximが開発した手のひらサイズのPLCを使ったロボット搬送作業のデモ <br />
ビールコップに個人のサインをインクジェットで印刷し加熱乾燥させる制御に使う

図2 Maximが開発した手のひらサイズのPLCを使ったロボット搬送作業のデモ
ビールコップに個人のサインをインクジェットで印刷し加熱乾燥させる制御に使う


Maximは、手のひらサイズのPLC(図2)を、同社製のシリアライザや60Vのレギュレータ、絶縁耐量±35kVのProfibusトランシーバなどのIC製品を使って試作し、Industry 4.0に活用できることをデモして訴求した。マイコン以外は全てMaxim製品だという。

効率の高いデジタル電源
「日本における成長機会はこれからだからこそ、期待できる」。こう述べるのは、デジタル電源メーカーのCUI社CEOのMatt McKenzie氏(図3)。デジタル電源は、PMBusプロトコルを通して、外部から電源電圧をこまめに制御できるという機能を持つ。例えば、Intelのマイクロプロセッサは1V前後の低い電圧で動作させながら、10A近い大電流を流す。消費電力は電圧の2乗で表されるため、消費電力の削減には電圧を下げることが有効だ。このためIntelのプロセッサは少しでも電圧を減らせる状態では、10mV単位で電圧を落としている。


図3 来日したCUI社の幹部 右がCEOのMatt McKenzie氏、左はGlobal Marketing担当のJeff Schnabel氏

図3 来日したCUI社の幹部 右がCEOのMatt McKenzie氏、左はGlobal Marketing担当のJeff Schnabel氏


PMBusプロトコルは、電源メーカーと半導体メーカーが決めたデジタル電源専用の通信プロトコル。デジタル電源は、従来のアナログ電源に比べ、効率を高くできるのが特長。低電圧・大電流は一般には効率が悪くなりがちだが、CUIの電源モジュールや部品は、例えば最大電流90Aで出力電圧1VのDC-DCコンバータでは91.4%という高い効率を確保している。

同社が日本市場を狙うのには、デジタル電源は医療機器や産業機器、民生など幅広いOEMが多い。広い範囲の応用には小規模のOEMが多く、日本は信頼(トラスト)を大事にするから、同社のビジネスには向いている、とMatt McKenzie氏はいう。同氏は、日本の顧客とは25年の付き合いがあり、日本市場の厳しさも知っている。しかし、ローカルサポートをしっかりすれば、期待できると考えている。

実際、同社は村田製作所とEricsson Power Modules社とAMP(Architects of Modern Power)Groupという標準化団体を設立している。3社のデジタル電源モジュールは、ピン配置や数と、通信プロトコルを共通にしているため、顧客(OEM)にとってはセカンドソースとして扱うことができる。ムラタはCUIにとってコンペティタであるがパートナーでもある。同氏は、Cooperative Competitionと呼んでいる。ここでも日本との関係を作っている。

米国ではDoE(エネルギー省)によって電源の消費電力に規制が加えられるという動きがある。レベルVI(シックス)と呼ばれる消費電力レベルをクリヤしなければ、日本の電子機器を米国へ輸出できなくなる。来年2月には施行される予定だ。「電源モジュールでこの規制をクリヤするお手伝いを当社が日本の企業のために行いたい」とMcKenzie氏は言う。

(2015/6/23)

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