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日本の自動車向け半導体で3位に躍り出たInfineon

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自動車用半導体において世界で2位のドイツInfineon Technologiesは、日本市場でもルネサスエレクトロニクス、東芝に続き、3位に浮上した。これは同社自動車事業部門のプレジデントであるJochen Hanebeck氏(図1)が明らかにしたことだが、息の長い分野の自動車において同社は日本市場で着実に地歩を固めている。

図1 Infineon自動車事業部門のプレジデントJochen Hanebeck氏

図1 Infineon自動車事業部門のプレジデントJochen Hanebeck氏


同社は、IDMを維持しながら、微細化技術の開発はしない。この意味では、国内のルネサスやこれまでの富士通セミコンダクターと何ら変わらない。大きな違いは、ビジネス戦略として、消極的な考えで微細化投資をするわけではない、ということだ。現に「28nm以下の最先端の微細化技術は使わないから自社開発しない」と明言する。だからといってCMOSプロセスに対してネガティブに考えている訳ではない。「当社に必要なマイコンは65nmプロセスで十分」とオペレーション部門プレジデントのPeter Schiefer氏(図2)は言う。微細化ノードは彼らが強い分野では不可欠ではないから、開発する必要がないのである。「フラッシュメモリを搭載するICのようにどうしても必要になればファウンドリを使う」(同氏)。フラッシュ搭載チップはコアコンピタンスではないからファウンドリに出す。


図2 Infineonオペレーション部門プレジデントのPeter Schiefer氏

図2 Infineonオペレーション部門プレジデントのPeter Schiefer氏


得意とする応用分野からも微細化は必要がない。同社はIDMとして、「エネルギー効率の向上」、「モビリティ」、「セキュリティ」を社是として掲げており、これらの社是には微細化は不要となる。具体的には自動車、工業用電力制御、パワーマネジメントとその他、ICカードとセキュリティ、しかない。この分野だけで年間売上額は38億430万ユーロ(5326億円)に達する。従業員は世界中で2万9000名と売上規模に相応しい数だ。

製品面から戦略を見ると、メモリとマイクロプロセッサ以外の半導体領域を狙うことになる。この製品市場の持つTAM(total available market)で見る限り、世界全体の半導体の約2/3に相当する(図3)。2013年に3060億ドルの市場に対して、2/3の1970億ドル。今年は2060~2120億ドルになると見ている。


図3 メモリとマイクロプロセッサ以外の世界の半導体市場 出典:Infineon Technologies WSTSとIHS、ガートナー、IC Insightsの統計データを元にInfineonが整理した。

図3 メモリとマイクロプロセッサ以外の世界の半導体市場 出典:Infineon Technologies WSTSとIHS、ガートナー、IC Insightsの統計データを元にInfineonが整理した。


ここまでスリム化するために、例えば通信部門をIntelに売却したが、そのIntelに移った通信部門のチームが実は、ドイツのミュンヘン郊外の本社内に拠点でいまだに仕事している。通信部門のエンジニアは従来と変わらず、ミュンヘンで仕事を続けていたのである。エンジニアが仕事を続けられるようにIntelに掛け合ったようだ。人を大事にする企業風土がInfineonにはあり、その究極は家族である。小学校入学前の子供を預かる保育所と幼稚園が本社敷地内にある。優秀な社員の子供がいずれInfineonに入って欲しいという経営判断からきている。この「魅力ある人材育成」のために女性の管理職を増やす計画もある。現在、ワーカーを除く社員の25%が女性で、その内の管理職は12%しかまだいないが、これを2020年までに20%に増やそうとしている。そのために働く環境を充実させ、子供のケアが重要だとしている。

彼らの自動車事業では、エネルギー効率向上、モビリティ(文字通り移動体の意味)、セキュアなクルマ、という3つの社是そのものからなる。ただし、クルマ向け半導体と言ってもボディやダッシュボード、インフォテインメント、エンジン制御、シャーシーなど多岐に渡る。全て手掛けるわけではない。同社が力を入れる事業は、「クリーン」、「セーフティ」、「スマート」の三つだ。クリーンはCO2排出を抑えたエネルギー効率の高いエンジンやパワートレイン、セーフティはADAS(先進ドライバー支援システム)や衝突防止、歩行者と搭乗者の保護、スマートは利便性とセキュアな接続、プライバシ、究極の自動運転を含む(図4)。これらの売り上げ規模は20億ユーロだという。パワートレイン40%、ボディ30%、セーフティ30%、という訳だ。製品別には、主力はパワー半導体、センサ、マイクロコントローラである。


図4 Infineonの自動車事業は3つの柱 出典:Infineon Technologies

図4 Infineonの自動車事業は3つの柱 出典:Infineon Technologies


例えば、欧州が決めたクリーン化に必要なCO2排出目標を達成するために、アイドリングストップやタイヤの空気圧管理などがあるが、48V化もその一つだ。小型、中型、高級車によって2020年までに最低限達成しなければならない削減目標は、90、100、130g/kmと異なる(図5)。プラグインハイブリッド化はコストがかかるため中型〜高級車では必要だが、小型~中型車では48V化が有効だとHanebeck氏は言う。アイドリングストップで必要な回生ブレーキでは高電圧の方が従来の12V系よりもバッテリ回収率が高い。スタート時の補助でも有効なためだとしている。


図5 48V化はCO2削減のため 出典:Infineon Technologies

図5 48V化はCO2削減のため 出典:Infineon Technologies


さらに電気自動車(EV)やHEV(ハイブリッド車)では、内燃エンジン車よりも半導体コンテンツが倍増する。パワー、マイコン、センサはさらに使われる数量が増える。

日本での売り上げを伸ばすために品質を改善した続けることは言うまでもないが、パワーとセンサの革新的な製品で国内の顧客と共同開発してきたことも効果があった。さらに、パワーとセンサから、クルマ用の製品をもっと広げて共同開発を経てシステムサポートもできるようになった。日本における強みは製品のセールスだけではなく、技術サポートと品質サポートも提供する所にある。2012年には国内トップのティア1サプライヤであるデンソーから技術開発賞(Technology Development Award)を受賞した(参考資料1)。今後の5年間、2018年までに年率15%以上の成長率で日本の売り上げを伸ばしていく計画である。ルネサスはうかうかしていられない。


参考資料
1. 海外企業として初めてデンソーから技術開発賞を受賞したInfineon

(2014/09/25)

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