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部材がこれからの微細プロセスのカギを握る

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コバレントマテリアル 代表取締役社長 香山晋氏

東芝セラミックスが東芝の関連会社から独立し、社名もコバレントマテリアルと変えて半年が経過した。コバレントを引っ張るリーダーの香山晋氏は、かつて東芝半導体グループのエリートエンジニアであった。東芝の半導体グループから東芝セラミックスへ2004年6月に転出した同氏が、東芝へ別れを告げ、コバレントになって本当の意味での独立を果たした。この後、コバレントをどのようにして引っ張っていくのか。その手腕が試される。渦中の香山晋代表取締役社長にそのかじ取りについて聞いた。

コバレントマテリアル 代表取締役社長 香山晋氏


Q(津田建二 セミコンポータル編集長):香山さんは東芝の上席常務から東芝セラミックスの社長になりました。東芝グループにいる道を捨て、東芝から独立する道を選んだ理由はなぜでしょうか。
A(香山晋 コバレントマテリアル代表取締役社長):まず、コバレントの業績を見ていただきたい。従業員の数を増さないまま、4年目にして売り上げは2倍、利益は10倍に増えました。1年目はほとんど赤字に近い状態でした。今や利益率は10%近くにまで達しました。

この業績を達成するために誰かが全く新しい技術や製品を開発したわけではありません。もともと社員が持っていたエネルギーや技術をベースにして、会社の方向を定めただけなのです。やるべきことをみんなで決めました。

さらにもう一歩先に踏み出そうとすると、どうしてもぶつかる壁がありました。つまり、自分たちの製品や技術領域をもっと自由に大胆に決めるのに制約がありました。人事や組織の作り方、制度上・財務上の問題です。総合電機のような大企業では、グループ全体を最適化するために周辺の関連会社が犠牲になることがあります。コバレントは規模を追求する会社ではありませんが、自分たちが自分たちで決めて成長したいという気持ちが強いのです。

Q:では、どのような分野で成長していくのですか。
A:もともと日本は素材が強いのですが、アセンブリや素材ビジネスではエントリレベルのバリヤーが低いです。バリヤーの低い製品は中国などの発展途上国が作ります。私たちが手掛けるのはアドバンストセラミックスです。ここは参入バリヤーが高いため、私たちの特徴を生かせます。セラミック材料を粉体にしてバインダを混ぜ、成形、焼成、表面処理、含浸、反応、原子レベルでの張り合わせなどさまざまな技術プロセスを通ります。

半導体向けのセラミックなら純化という作業が入ります。高温で処理したり高濃度ガスを使ったり、あるいは危険なガスを扱ったり、そのための装置も汎用のものは少ないです。ないないづくしの組み合わせとして、先端素材産業が成り立っています。村田製作所やTDKなどの先端部品メーカーも同じです。

コバレントは半導体製造装置の中に使う部材を扱います。この部材こそがブラックボックスで、ノウハウが必要なのです。ウェーハ上に流すガスの種類や流量、ウェーハを支えるサセプタの物性などをいろいろ組み合わせて作ります。シリコンを成長させるための炉は従来石英で作っていましたが、昔CMOSのウエル形成用に1200℃という高温でSiウェーハを拡散処理しようとすると、石英チューブがもはや耐えられなくなりました。そこで融点の高いSiC製のチューブを作ることにしました。しかし、ウエルの形成で長時間拡散していくとSiウェーハには積層欠陥ができました。SiCの純度が悪かったからです。そこで塩酸パージや表面コーティングなど、SiCの純度を上げたり、不純物を放出したりしないように注力しました。

当時の東芝セラミックスのエンジニアは大変な苦労をしたと思いますが、SiCを作るようになり初めて大口径化や高温処理などボートのノウハウが蓄積してきました。品質の優れたボートを作ることが品質の優れたSiウェーハを作ることにつながります。ウェーハの機械的強度や表面の結晶性は、ボート自身の熱膨張係数のほんのわずかな違いによっても傷が入るなどウェーハが変化します。サセプタも同様です。細かい表面の形状やセラミックの粒度の最適化に難しさがあります。表面がつるつるしているとウェーハがくっつきます。もちろん、ざらざらしすぎてもウェーハに傷が入ります。どの程度の粒度が最適なのか、見極めることが非常に難しいのです。部材1個1個がノウハウの塊になっています。

装置内を真空状態から常圧に戻すときに使うブレークフィルタにもノウハウが詰まっています。真空を破る時にガスの置換が行われています。そのたびに埃が舞うわけです。ゆっくり真空を破ればホコリは発生しにくいでしょうが、スループットは落ちます。外からダストを入れずに均一にリークさせる必要があります。そこで、フィルタとして使う多孔質セラミックの穴の大きさや密度などを最適化するわけです。

Q:いろいろな製品を作られているようですが、コアコンピタンスともいうべき領域をどこに求めていますか。
A:半導体に軸足を置き、周辺を広げていきます。半導体ウェーハのステージに使っている部材を産業用にも広げていけます。医療用の人工骨などもポーラスな構造は半導体用のセラミックとよく似ています。

ただし、中心はやはり半導体向けです。半導体の市場の伸びよりも私たちの企業は伸びています。新しい工場ができれば新しい装置や部材が入ります。さらに景気さえよければ、新工場ができなくてもどんどん消耗部材が回ります。加えて、半導体メーカーがクリティカルな製造をやればやるほど、大事をとって部材を頻繁に取り換えます。だから、半導体市場の伸びよりも部材の伸びのほうが大きくなるのです。

加えて、既存の炉の中が進化しないとウェーハの微細化対応ができなくなります。SiCのボートは300mmの既存のラインで石英からどんどん置き換えられています。200mmも同様な傾向がありますが、200mmでは値段の問題になります。200mmだと石英でも対応できますが、300mmはSiCがマストです。

Q:300mmウェーハの先にある300mmプライムに対してはどのように対応されていきますか。
A:JEITAの提言は、本質をついているものがあります。4階層からなる階層的なファブのコントロールで考えてみようとしています。

最上の階層は、統合プロセスであり、例えば酸化膜厚の測定に関係します。これは装置間にまたがって一定のパラメータをコントロールしていけばよいので対応できます。

2番目の階層は、例えばエッチングレートは装置内の出来栄えによるという表現をしています。エッチレートの中心値だけではなく、バラつきも含むため、モデル化することが難しいのです。エッチングレートをコントロールし、その再現性を考えると、部材の状態は変化していないか、を考慮する必要があります。

3番目の階層は、装置を動かすためのパラメータです。ガスの流量や再現性ですので、パラメトリックな管理をすればいいわけです。ただし、インターフェースの問題は残ります。

4番目の階層は、装置を動かすパラメータが精度よく管理されているかどうかをチェックします。しかし、流量計のような計器が信頼できるかどうか、装置のメンテナンスに関わります。

この中で私たちにとって最も厄介なのは2番目の装置内の出来栄え管理です。装置やデバイス、部材のメーカー3社が協力しなければ解決できません。装置メーカーとデバイスメーカーだけでは、プレートやボートなどの部材について話が抜けてしまいます。例えばサセプタは装置間でバラついてはいけません。実際にプロセスを組み立てていく場合には装置と装置の条件を律速するのが部材ではないでしょうか。もしサセプタの熱的な均一性を保てという要求がきたとしましょう。熱伝導率に関しては、サセプタの熱はどこから奪われ、熱はどこから供給され、熱はどこへ逃げるのか、など実際のプロセス条件を無視しては語れません。加えて、機械的な精度や合成、光の反射などの特性要求も来ます。何よりもダストの生成は困ります。それもウェーハと擦れ合うのではなく、内部の機構部品同士が発生させることもあります。熱やガス、温度など部材のパラメータがからんできます。ボートでは、ほんのわずかな熱膨張係数の違いなのに、上に載っているウェーハにホコリが降りかかり、わずかの傷が入り、ついた傷がウェーハに欠陥を入れるということも起きます。 ですから3者のコラボレーションが必要なのです。

Q:Siウェーハビジネスそのものは、どのような戦略で信越半導体やSUMCOなどの大手と競争していくつもりですか。
A:コバレントの強みはアニールウェーハです。ウェーハ結晶大手は、例えばニアパーフェクト結晶と称している製品に対して、アニールウェーハはゲッタリング層を持つ、スループットが高い、などの特長を持っています。アニールウェーハは、平滑な表面形状、完全結晶の活性層、不純物を捕らえて溜め込むゲッタリング層、そして機械的な強度を保つための基板維持層からなります。
出発材料としての生のウェーハがどんなに完全な結晶だとしても、半導体製造プロセスではさまざまな熱工程を通過します。これによって表面層が変化したり、無欠陥層(denuded zone)が変わったりします。私たちはシミュレーションによってその様子をユーザーに訴えています。熱履歴を最初から最適化したアニールウェーハは実際のプロセスには有利だと見ています。
一方、エピタキシャルウェーハは、これまでCMOSのラッチアップを回避する手段として用いられてきましたが、設計技術が進んできたため設計でラッチアップを回避できるようになって来ました。もともとエピウェーハは価格が高いため、ラッチアップ対策でエピウェーハを使うのならもはやそのメリットはないと考えています。それでも要求があれば、エピウェーハを供給します。
コバレントは、大手とは違い、熱履歴を考慮して最適化したアニールウェーハを20〜30枚生産するビジネスを行っております。
実はこのアニールウェーハビジネスに加え、アニール炉に使う炉芯管やボートなどもビジネスにしているため、アニールウェーハのすべてを知っているという強みがあります。コバレントにはセラミック技術者、単結晶技術者、デバイス技術者などの技術者集団ですから、それぞれのノウハウを持ち寄っているという強みがあります。

Q:パワーエレクトロニクスや特殊環境デバイス用のウェーハとして注目されているSiCウェーハにはどのようにアプローチしていますか?
A:最近、新日鉄が100mmのSiC単結晶ウェーハを開発したと発表しましたが、私たちはヘテロエピタキシャル成長によるSiC単結晶を提供しています。Si基板上にSiCやGaNなどの結晶を成長させています。青色LEDやレーザーなどの光デバイスや、高耐圧パワーデバイス、高周波デバイスなどの用途がありますが、私たちはパワーと高周波に向けています。

東芝が発表しているSiCデバイスはコバレントのウェーハを使っています。SiCビジネスはスループットを上げて、コストを下げなければ成り立ちません。今はMOCVD(有機金属を使った化学的気相成長技術)で結晶成長させている状態ですからコストはまだ高いです。リーク電流や耐圧のレベルもまだ物足りない状態です。

Q:シリコンウェーハやポリシリコンを作るためには電力コストがかかります。なぜ電力コストの高い日本で作るのですか?
A:セラミックやウェーハの製造には膨大な電力を使いますが、そのほかに水や塩素ガスも必要です。電力がただ同然の中東で作るとしても、これらのインフラが充実しているかどうかが問題でしょう。
電力コストを下げるためには例えば、シリコンプロセス用の高度なセラミック製品を作っている、山形県の小国事業所では自分たちの水力発電所を持ち、発電機で電力を賄っています。私たちでダムを管理して、2基の発電機を備えています。ただし、他の事業所では火力とコジェネを使っているため原油コストの上昇は響きます。

Q:コバレント(covalent)はシリコンなど4価の半導体を象徴する共有結合(コバレント・ボンド)からきています。シリコンやSiCなどはまさに共有結合です。結晶学的に安定な共有結合を利用する半導体の王道を行く企業だというイメージがありますが、どうやってこの名前を付けたのですか。
A:全社的に募集し、みんなで決めました。みんなで協力してビジネスを進めていくという意味もコバレントには含まれています。まさにコバレントです。

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