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英国特集2009・付加価値の高いモノづくりに貢献するために大学が存在する

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Joe McGeehan氏、英Bristol大学教授

ブリストル大学通信工学部教授であり、通信研究センター長でもありながら、Toshiba Research Europe社の社長でもあるJoe McGeehan氏は、2足のわらじをはきながらもそれぞれの業務をきっちりと線引きする。大学が産業界と一緒に研究するため、大学は企業間の競争にアンタッチャブルで、守秘義務をきっちり守ることが産学共同をうまくやるコツだと言う。通信技術を核に大学の在り方を聞いた。

Joe McGeehan氏


Q(セミコンポータル編集長 津田建二): 大学におけるMcGeehan教授の役割は何ですか?

A(Bristol University教授 Joe McGeehan氏): 1985年以来、通信工学部の教授であるとともに、通信研究センター長も兼務しています。その前はバース大学、さらにその前はプレッシー研究所にいました。GaAs半導体、高速デバイスの研究に携わってきました。GaAsレーダーや1970年代には5Gbpsのロジックなども研究しました。1998年にToshiba Research Europe Ltd.にも入りました。

Q: 教授はToshiba Research Europe社の社長も兼任しています。またBristol大学は産学共同を進めています。企業の秘密を守るためにどのようなことを心がけていますか?

A: 大学と東芝での業務ははっきり分けています。東芝でやることは大学ではやらない。大学でやることは東芝ではやらない。はっきりと区分けすると、研究が混じり合うこともないし、内容が漏れることもありません。英国の大学では、エリクソンや富士通、京セラなどいろいろな企業と一緒に共同研究をしています。私の教え子がソニーリサーチのトップになりました。私の周りには常に競争企業がいますので、互いにファイヤウォールを築くことが必要です。さもなければ秘密を守れなくなります。

共同研究している企業の半分は世界中からやってきます。NDA(Non disclosure agreement)契約を結び、秘密を守ります。競合メーカー同士の研究を請け負う場合は、研究者を別々にします。場合によっては教授や研究者を別々に雇い、それぞれのグループに分け、お互いに情報は公開せず、秘密を守ります。ただし、お互い少人数で研究します。

企業がお金を払い、望む研究を大学にさせるわけですから、知的財産権(IPR)に関しても大学はIPRを持たず、各企業がIPRを持ちます。企業は商品化するのが務めですが、大学はIPRがどのように使われようと知るべきことではありません。

Q:日本は大学と産業界が共同で作業していくことはまだ少ないですが。

A:昨年、大阪と京都に行き、TLO(技術移転機構)について議論しました。日本には優れた大学がありますが、実は30年前の英国と同じようにまだ基礎研究に力を入れていて、企業と一緒に働くという意識はありませんでした。

ブリストルには産業界と協力して働くプロフェッショナルなシステムがあります。産業界は数十億ドルを稼ぎ、その一部を大学での研究に費やします。大学における予算は1985年ごろは政府からの予算が70%で、残りの30%が産業界からの収入でしたが、今は政府からの予算は30%、民間企業から70%という具合に変わりました。大学は優れた研究をして産業界へフィードバックしていきます。

Q:通信工学部の教授としてどのような技術分野を見ておられますか?

A:担当分野は、とても広いです。通信センサー、ワイヤレス通信、ネットワーキング、クロスレイヤー・プロトコル、デジタル信号処理、アルゴリズム、ビデオ伝送、放送技術、省電力システムすなわちグリーンネットワーク、超高速システム、ミリ波システム、アンテナ、MIMO、テラビットシステムなどです。またインテリジェントなシステムをどう構築するかについても興味あります。

Q:通信技術を半導体に生かすようなことについては興味ありますか?

A:常に最先端のフロントエンドの技術を目指しますので、半導体の微細化による設計技術も追求します。回路線幅が例えば45nmから22nmへとシュリンクするに従い、配線幅が微細になるだけではなく、その厚さや間隔も狭くなります。キャパシタンスは増大し、配線抵抗が増大します。また細くなることでインダクタンスも効いてきます。

また、人体の細胞と電気回路とのインターフェースをどう設計するかについても研究しています。通信センサーとして物理だけではなく化学についても考えなければなりません。人体の筋肉をどう刺激するか、網膜細胞を回路へどうつなげるか、という課題もあります。

Q:通信分野において電力効率を上げるとか省エネについて研究されていますか?

A:通信のグリーン化についても研究しています。通信ネットワークの省電力化を進めるため、最も電力を消費するパワーアンプの効率を上げる設計法について研究しています。例えば基地局のパワーアンプの効率は以前、4%くらいしかありませんでしたが、これを60~80%に上げてきます。効率を上げると、アンプからの熱は少なくなると同時に、冷却するためのファンなども不要になります。もっと改良してさらに消費電力を減らしていきます。

Q:通信技術は画像処理にも使えますが。

A:医療向けのCTスキャナーなどから本当の画像をどう作るか、というテーマもあります。大量のデータから欠陥をどう認識し、検出するか、が重要になります。CTスキャナーからの大量のデータは、符号化手法やシャノンの限界に挑戦することになります。マルチパスによるフェーディングにも取り組んでいます。ここに大学の出番があります。発展改良型研究ではなく革新型の研究になるからです。

Q:ここのところの世界不況で研究費が削減されています。

A:私自身は金融関係には興味ありません。大学の研究に対しても企業の不況の影響はありますが、産学共同により大学は優れた研究を続けて産業界に貢献していくことが自分の責任だと思います。日本と英国とはよく似た環境にあります。英国にあるホンダのスインドン工場は素晴らしい工場です。私たちの任務は付加価値の高い製造技術を発展させることです。

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