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65nm以降のEB直描に賭けるイー・シャトル

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株式会社イー・シャトル 代表取締役社長 土川春穂氏

これまでEB直描(電子ビームによる直接描画技術)はいつ来るかと言われながら、その明確な応用がはっきりしなかった。一方、65nmプロセスのマスクセットは2億円にも達すると言われるようになった。マイクロプロセッサとメモリー、各種のIP、周辺回路などを1チップに集積する、組み込みSoC時代がやってくると少量多品種が当たり前の時代になってきた。そのような時代だからこそ、EB直描のシャトルサービスを提供する株式会社イー・シャトルが生まれた。この11月1日に創立満1年目を迎える同社の代表取締役社長 土川春穂氏にこれまでの1年とこれからの戦略について聞いた。

株式会社イー・シャトル 代表取締役社長 土川春穂氏


Q(セミコンポータル編集長):ようやく電子ビーム露光がLSI製造に使われようとしています。富士通からスピンオフしてまもなく1周年を迎えます。この1年を振り返ってどのようにやってきましたか?
A(代表取締役社長 土川春穂氏):イー・シャトルには大きく分けて二つの業務があります。一つはシャトルビジネス、もう一つが電子ビーム露光ビジネス、です。1枚のウェーハに複数の顧客の回路を載せて一度に処理するシャトルサービスは、もともと富士通社内で行っていました。これを一般に開放するわけです。EB露光に関しては、試作品や、数量が少ないLSIの生産にはEB直描の方が光露光よりも安く済みます。
この1年間に行ったことは、まずシャトルビジネスの体制を作ってきました。ユーザーを開拓するため、最大のユーザーである社内部門向けにドキュメントを整備しました。これまで社内の注文なら、共通の言葉でわかることが多かったため、ドキュメントがなくてもLSIを製造できました。しかし、社外ユーザー向けにはこうは行きません。きちんとしたドキュメントで手順や考え方を述べていなければ、誤解を生じビジネス上でトラブルが生じる可能性があります。この1年間で、社外のユーザー開拓に100社ほど回りました。加えて、EB装置の導入が遅れていたのですが、今年の2月に入れました。

Q:アジアの競合メーカーとの差別化はどうしますか。
A:TSMCと比べてEB露光で試作すること自体が差別化です。彼らはEB直描の経験がありません。EB直描はマスクを使わない工程分は安くできますので、コストメリットはあります。ですので、TSMCよりは安く作れると思っています。とはいえ、TSMCはファウンドリの教師です。ファブのキャパシティが違いますね。

Q:シャトルサービスは大学が利用しますが、大学はいろいろな注文をつけませんか。アカデミックディスカウントにしてくれとか、カスタム的にもう1層積んでくれとか。
A:シャトルビジネスとしては定食屋になりたい。配線層数としては2~3種類しかメニューを出さないでその範囲内で何とかやってもらいたいです。しかし、きちんとサポートしなくてはなりません。そこをどう解決するかが問題です。しかし、試作なのだからわがままを聞いてくれとも言われます。こちらとしてはできるだけ良いメニューを提供することが成功のカギとなります。乗り合い方式ですから、オプションには対応できないことをわかってもらおうとしています。

Q:EB露光のメリットは何でしょうか?
A:これまで試作は実験用などのミニファブで行い、量産時に生産ラインへ持っていきましたが、65nmプロセスになるとマスク1セットが2億円もします。試作と量産を別々のマスクで設計していたのではもはや経済的にやっていけません。試作はせめてEBで、量産になったら光露光でやればいいのです。EB露光のデータを光露光へと変換できます。
また、試作でもリソグラフィだけはEBで露光するとしても他のプロセスは富士通三重工場の300mm量産ラインをそのまま使います。すでに65nmプロセスの一部はEB露光を使っています。ですから量産への移行がスムースにできます。試作と量産の違いはリソだけなのです。実際にはEB露光機のスループットはそれほど高くはありません。しかし、ポリシリコンも含めた下層の配線層をEBでパターニングし、上層の配線層を光露光でパターニングするという手を使えば、プロセス全体でみればさほど遅れることはありません。

Q:一筆書きのEB露光だと開発は早くできますか。
A:プロセス全体のTAT(ターンアラウンド時間)で開発の早さは決まります。EB露光が遅いからといってプロセス全体の時間にはそれほど効きません。マスクを作らない分だけまた早くすむというメリットもあります。EB直描を一部だけ使っており結局マスクは作りますので、今のところそれほど変わりません。ただし、EBは作り直しが簡単なので、その分早くできます。

Q:光露光と電子ビーム露光との間でのコンパチビリティはあるのでしょうか。
A:65nm程度になりますと、EBの方がマスク通りに正確にパターンを描けますが、光露光だとOPC(光近接効果補正)で補正しなくてはなりませんし、面倒な変換作業が必要になってきます。そこで、EBのパターンを光のパターンのようにわざと崩して光によるパターンの出来上がりに合わせます。これは量産を意識して、図面を補正しています。

Q:どのような製品をEB露光で設計するつもりですか?
A:まずカスタム品でしょう。FPGAやPLDで試作するユーザーは多いのですが、目いっぱい速度や性能を上げたいと考えているユーザーにとっては物足りないでしょう。そのような場合には専用のチップを開発することになります。この場合の製品はシャトルというよりは1社が1枚のウェーハ全部を使う応用です。
シャトルとEB露光で中小の企業や大学がカスタムLSIを開発するためのバリヤーを下げたいと願っています。秋葉原の学生が自分の専用LSIを作ってみたい、という要望に応えることが理想です。試作レベルで高速のチップを専用のハードで作りたいという要望にも応えたいと思っています。
大手のシステムメーカーがASICを開発する場合、特に開発段階でEBを活用してもらうことを考えています。ASICの仕様が最終決定する前にEBを利用してチップを試作し、仕様が決まったら、光露光を使って量産すればよいでしょう。今のところはまだ製品に至ったものはありませんが、年度内には何とかEBを使った製品を目指そうと思っています。

Q:ここへきてやっと装置もビジネスも動き出しました。その後の見通しはいかがですか。
A:出資者であるアドバンテストとの話し合いによって2年間はトライアル的にやってみようとのことで、その後で将来の絵が描けるかどうかで事業の方向が決まります。最初の1年は準備期間です。この後、自分たちのビジネスモデルを作り直していくつもりです。それは顧客がどれだけいるか、EBの性能がどれだけ上がったから、見通しはあるか、ということを考えて事業の絵を描いていきます。

Q:次の1年への見通しを聞かせてください。
A:資本準備金を合わせてあと1年で25億円です。アドバンテストから装置1台を資本金に組み込み、もう1台をリースで借りるという形を取ります。アドバンテストはもはや数少ないEB直描装置メーカーになりました。撤退した企業が多かったので。もっとEBを世の中にはやらせたいのですが。
しかし、光リソグラフィもX線のEUVも成功するかどうかわからないので、EBに対して業界がもう少し理解を示してくれれば、システムASICの試作ツールとして活躍できるのではないかと期待しています。

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