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20年以降の飛躍に向け、働きやすい会社をまず固めるエイブリック

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「社員が働きやすい、快適なオフィスにし、結果を出せば報われる会社にする」。このように固い決意で企業改革を進めるエイブリックの代表取締役社長兼CEOの石合信正氏(図1)。セイコー電子工業からSIIセミコンダクタを経て、2018年1月にエイブリック(ABLIC)と名前を変えて1年半が経った(参考資料1)。石合改革はどこまで進んだのか、聞いた。

図1 石合信正氏、エイブリック株式会社 代表取締役社長兼CEO

図1 石合信正氏、エイブリック株式会社 代表取締役社長兼CEO


企業は人なり。よく言われる言葉である。ともすれば経営者は自分の判断と思い込みに陥りやすい。社員の意図とは異なる買収を繰り返し、迷走を続け、株主総会での合意からわずか3カ月で社長交代に至ったルネサスエレクトロニクスは、社員の想いに耳を貸さなかった経営トップが企業を漂流させ、まさに羅針盤のない船のようだった。これとは正反対に石合氏の経営哲学は「企業は人なり」を大事にする。社員のやる気を引き出す仕事にフォーカスする。

まずは組織改革に着手

働きやすい環境作り、意思決定を素早くするためのフラットな組織作り、努力が報われる表彰制度、公平に挑戦できる仕組み、グローバルな視点で広く見ること、会議体の変革、安全衛生環境、リスクへの備え徹底など、SIIセミコンダクタからエイブリックに名称変更し独立会社に変わってから、組織作りを続け、社員に理解を求めている。社員も自ら働きやすい環境作りに向けて汗を流し労使一体化して進めている。

石合改革は、まず社員の心をエイブリックという新会社に向かわせるため、「戻れない覚悟」を打ち出した。セイコーグループの子会社ではないため、ここに骨を埋める覚悟を決めた。

次に、組織のフラット化を始めた。これまであった営業本部、商品開発本部などの本部を廃止、CEOが各部門(ユニットと命名)を直接管理する。各ユニットから決定のスピードを上げ、重複しない報告ルートを作った。同時にCEOの下にCFOやCMOなどの役職を置き責任体制を明確にした。

どこでも仕事できるオフィスに

さらに社員が働きやすいように、国内拠点、海外拠点を増やした。これまでの幕張本社、半導体前工程の高塚事業所、後工程の秋田事業所に加え、東京営業所や立川オフィス、名古屋営業所、大阪営業所を設けた。これらのオフィスはフリースペースにして、誰がどの場所でも仕事ができるようなスタイルに変えた。さらに海外にも拠点を増やした。これまでSIIの子会社として、一緒に同居、活動していたオフィスを完全に独立させ、エイブリックの現地法人として、全ての拠点を新規に立ち上げた。米国、韓国、上海、北京のオフィスは別のビルに移転させた。

加えて、努力が報われる仕組み作りとして、新人事制度を設けた。これまではエンジニアだと管理職にならないと給料が増えなかったが、フェローのもとで給料を含め評価していくように変えた。管理職に向く人は管理職にし、生産ラインでもマイスターが技能者を評価する。また、これまでは外部に依頼して課長試験などを運営してきたが、できるだけ社内で評価するように変えた。それも以前なら人当たりよく、分析し報告する人を評価していたが、実行力のある、とがった人を評価する方向に変えた。有事に強い性格の持ち主が評価される。こういった面については組合と20数回話し合ってきたという。

チーム表彰制度、グローバル会議などでモチベーション上げる

さらに表彰制度も設けた。メーカーではチームワークが主体となるため、チームに参加して新しいことにチャレンジしていく精神を養うため、加点制度に変えた。今までは報奨制度がなかった。チームで表彰するようにした。半導体メーカーだから整然ときれいに設計されているチップは機能も優れていることが多いため、「Beautiful Chip Grand Prix」という表彰もある(図2)。これはICチップの写真が美しいもの。


イノベーションを奨励!

図2 モチベーションを上げる 出典:エイブリック


特許制度も社員に報いるため、社長の年収を超えるような報奨金をもらえるように設定した。今、社員は燃えているという。

グローバル化はもはや必然であるため、海外のチームとの一体感を得るため、「Global One Team Seminar」を開催している。各地の拠点から数名参加して人材を養成するもので、営業担当のGlobal Sales Conferenceも始めた(図3)。これも海外拠点から来てみんなで情報を共有し一体感を持たせるという目的である。営業だけではない。世界の広報をつなぐ「Corporate Communications Unit」を発足させた。


グローバル・ミーティングの充実!

図3 グローバル会議で一体化 出典:エイブリック

グローバルな人材育成と共に女性の意見を積極的に取り入れるため、A-WIN(Women Initiative Network)と呼ぶプロジェクトを立ち上げた。まず、会議の効率化や働き方改革などを提案してもらったという。女性の意見はストレートで、妥協しないため、パワーあるいは破壊力がある、と石合社長は述べる。合計160もの提案が上がってきたため、一つ一つ改善していく。この組織の長でもある石合社長は部課長に改善を進める指示を出した。

また、会議はできるだけ短く、50分以内を目指す。そのために出席者を最小限にし、ファシリテータを事前に選定、資料は事前に確認することなどを施策に掲げた。

2018年は改革優先で売上は横ばい

2018年はこういった改革を行いながら、売り上げを確保した。「社員自らが働きやすい職場環境を作りなど組織作りに励みながら、売り上げをほぼ横ばいの319億円を確保し、営業利益率も13%の33億円というまずまずの業績を上げた。P/Lだけではなくバランスシートも改善し、キャッシュフローの面でも無借金にした」と石合社長は誇る。彼の根底にあるのは社員に対する想いと感謝だ。エイブリックに変わった1年間は社員の力を見ることのできた1年だった、と言う。

さらに、2018年の前半から中盤までの旺盛な需要で生産が間に合わないという状況から一転、10〜12月期には今度は需要が急速に落ちたため、生産ラインの平準化がままならない年でもあった。「苦戦の連続だった」と言う。一方で調達コストが上がったため、不採算製品の製造を中止した。これは大量生産品で安価な製品だったが、要求される数量を生産できなかったため、顧客とコミュニケーションを取りながら生産中止を伝えた。その代わり新規受注が必要になる。

幸い、エネルギーハーベスティングを利用するClean-Boost製品はサンプル出荷までこぎつけた。この製品は、電気エネルギーの小さなエネルギーハーベスティング技術でエネルギーをチャージポンプの要領で徐々に蓄えながら高めていく技術。この製品を顧客と共にソリューションを追求していく。

エイブリックは、電源用ICやタイマーIC、センサ、メモリ(EEPROM)、アンプに加え、用途別に車載用ICや医療用IC、CleanBoost、といったカテゴリもあるアナログ半導体メーカーである。使用温度範囲が厳しい車載用ICには電源ICに加え、磁気センサでもあるホールICやドライブレコーダ用IC、LEDヘッドライトモジュールなどもあり、今後の有望な市場として期待が大きい。医療用ICには超音波診断装置や内視鏡向けのセンサやアンプなどもある。超音波回路は魚群探知機にも使われる。

製品ポートフォリオを見直し、製品ごとの収支は、その進行状況を毎月厳しくチェックする部隊を創設した。これがグローバルワンチームだ。毎月、顧客の情報をチェックし、海外チームを含め全員で、顧客の声を素早く取り上げ情報を共有する。これによって売れる商品、売れない商品がよく見えるようになる。毎月チェックしているため精度が高まり10%くらいの誤差に減ったとしている。

2018年から始まった中期計画の中で、19年は収益を底上げし、将来への種まきをする時期だという。このため、2018年売上額319億円(1ドル=105億円の場合)、営業利益33億円よりは若干良い、2.5%増の売上額327億円、営業利益34億円を見込んでいるが(注)、飛躍するのは20年以降で22〜25年度に500億円規模をM&Aも含めて目指している。社員数927名のエイブリックには東芝をはじめとする大手半導体メーカーからきた社員が少なくない。社長の想いを理解している社員は多いようだ。

参考資料
1. エイブリック、楽しく持続的に成長できる会社へ (2018/08/28)

(注) 2018年の為替は1ドル平均110.7円だったため、売上実績は329億円になった。2019年は同105円として売上額を327億円とみているが、2018年と同じ110.7円とすると、売上額は345億円となる。

(2019/07/09)

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