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プラットフォームとエコシステムが今後のカギ

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James Truchard氏、National Instruments, President, CEO, and Cofounder

オシロスコープなどの計測器は、計測部分と、演算・可視化する部分で出来ている。計測部分だけ専用モジュールにして、演算と可視化する部分をパソコンに任せるという測定器だと拡張性が増す。こういった考えでソフトウエアベースの計測器ビジネスを発展させてきたNational Instruments。その創業者であり、今もCEOとして走り回っている、「ドクターT」こと、James Truchard氏(図1)が来日、ビジネス戦略を聞いた。

図1 ドクターTこと、James Truchard氏

図1 ドクターTこと、James Truchard氏


NIは、1976年ドクターTがTexas大学に在籍していた時に創業、以来今年で40周年を迎える。今や2015年の売上額は12億3000万ドルに達し、従業員は7300名、世界60ヵ国で営業・サービスに従事している(図2)。2001年のITバブル崩壊と2009年のリーマンショックの影響で売り上げは一時的に下がったものの、ほぼ右肩上がりの成長を続けてきた。創業20〜30年はモジュラー方式の計測器、30〜40年はLabVIEWを使ったグラフィカルシステム設計、そして今後の10年は、システム設計のプラットフォームとエコシステムの時代になると予想する。


図2 NIの業績はほぼ右肩上がりを継続 出典:National Instruments

図2 NIの業績はほぼ右肩上がりを継続 出典:National Instruments


そのプラットフォームとは何か。理想的なプラットフォームがiPhoneに見られるという。iPhoneのシステムを見ると、iOSがプラットフォームとなり、そのプラットフォームを含むハードウエアがMacであり、iPhoneであり、iPadである(図3)。その基本ハードウエア上で、コンピュータとして動作させたり、音楽を聴いたり、本を読んだり、通話したり、テレビを見たりするデバイスや機能を実現できる。


図3 AppleはiOSをプラットフォームにして必要最小限のハードを使い、幅広いアプリケーションを展開 出典:National Instruments

図3 AppleはiOSをプラットフォームにして必要最小限のハードを使い、幅広いアプリケーションを展開 出典:National Instruments


このAppleのプラットフォーム戦略のアナロジーが、NIの製品でも可能だ。そのプラットフォームがNIのグラフィカル設計を可能にするLabVIEWである。LabVIEWがiOSに相当する。LabVIEWをプラットフォームの設計ツールとして、ハードウエアのNI Compact RIOや、PXIとモジュラーシステム、Compact DAQなどを組み合わせることでさまざまな装置やシステムをテストできる(図4)。製作するハードウエアは、AppleのMac、iPhone、iPadなどと同様、必要最小限に留めている。ハードウエアをカスタマイズしたい場合はできるだけFPGAで対応する。


図4 NIはLabVIEWをプラットフォームにして必要最小限のハードを使い、幅広いアプリケーションをテストする 出典:National Instruments

図4 NIはLabVIEWをプラットフォームにして必要最小限のハードを使い、幅広いアプリケーションをテストする 出典:National Instruments


このLabVIEWプラットフォームとハードウエアを使って、ユーザーは計測したり、テストしたり、モニターしたり、制御したり、組み込んだりできる。この仕組みは、プラットフォームの回りにエコシステムを形成することと同じである。エコシステム(生態系)はアプリケーションなどのソフトを開発するパートナーがカギとなる。カスタマがテレマティクスシステムを構築したいのであれば、例えばレーダーといったハードウエアを開発したり、実際に使うためのアプリケーションソフトを開発したりするパートナーが欠かせない。ユーザーのコミュニティと一緒にNIはサポートしたり、そのためのチャネルを提供したりする。

このプラットフォームの概念を、具体的に第5世代(5G)の携帯電話システムに応用してみると(図5)、LabVIEWを中心のプラットフォームとして、ハードウエアは構成可能な測定モジュールや高速のIOシステム、USRP(Universal Software Radio Peripheral)ソフトウエア無線(SDR:Software Defined Radio)のハードウエアなどを組み合わせることで全てのテストを行う。5G通信では、OFDMやそれに代わるGFDM(Generalized Frequency Division Multiplexing)などの波形観測、最適な無線電波を選別・認識するコグニティブ無線、複数アンテナで感度を上げるMIMO(Multiple Input Multiple Output)、ミリ波通信などの技術が必要となるため、それらすべてを測定可能にする。


図5 5Gシステムの開発でもLabVIEWをプラットフォームにして、必要最小限のSDRや再構成可能な計測器をハードウエアとして使い、全てのテストを行う 出典:National Instruments

図5 5Gシステムの開発でもLabVIEWをプラットフォームにして、必要最小限のSDRや再構成可能な計測器をハードウエアとして使い、全てのテストを行う 出典:National Instruments


ハードウエアの構築に半導体技術は欠かせない。ムーアの法則に則って半導体の集積度が上がりコストは下がってきた。この恩恵を受けて高性能なAD/DAコンバータやCPUやFPGAの価格が下がり、RF関係の半導体も高周波化が進んできた。この傾向は今後も変わらないと見る。

しかし、半導体側では、ムーアの法則はもはや限界に近づいたと言われている。ドクターTは、カリフォルニア大学バークレイ校(UCB)の諮問委員会にも出席し、Intelの委員とも話を交わしているため、ムーアの法則の限界論に関しても熟知している。確かにCPUやFPGAなどロジックやデジタルICでは最先端の7nmが話題になっている。しかし、アナログICでは、微細化に関してはずっと遅れ、65nm程度が最先端商品で、28nmはまだ研究フェーズである。またiPhoneにはMEMSセンサが多数搭載されており、高周波回路でもRF MEMSフィルタもある。これらの線幅も太い。デジタルIC以外の微細化はこれから進むため、当分半導体の限界が来ることにはならない、とドクターTは述べている。

新コンセプトを生み出す秘密

こういったNIが考えるソフトウエアベースのコンセプトは、どのようにして生まれたのか。日本企業がこれから生み出すうえで参考になる考え方は何だろうか。気になることをQ&Aセッションで聞いた。

セミコンポータル: ドクターTは、ソフトウエアベースの測定器やプラットフォームという柔軟な概念を生み出しましたが、それはどのようにして生まれたのでしょうか?
James Truchard氏: 当時Texas大学でソナー(超音波探索器)のテストをしていました。ソナーのパルスを計測するためのテスターがありませんでした。ADコンバータの性能はまだ不十分で、市販の測定器が手に入らないため、テスト技術をいくつかに分けてみました。デジタイザとタイミングトリガー、テスト、です。それぞれを製作することは大変でした。一方で、GPIBはユーザーベースのインタフェースであり、コンピュータを使っていたユーザーが多かったのです。コンピュータは、ソフトウエアを追加することで、計測という機能を実現します。だからコンピュータ利用のフレキシブルな測定器を生み出しました。

セミコンポータル: 現在の状況に、この当時の考えを当てはめてみると、どのようなイメージになるでしょうか?
Truchard氏: 今だと5Gで考えてみればよいでしょう。5Gはまだ研究開発フェーズですから、デザインとテストの仕方を考える必要があります。そのためにはエコシステムを作って、パートナーの力を借りてテスト法を構築することが重要でしょう。
また、自動運転も研究開発フェーズですから、試作・テストをしなければなりません。そのための技術としてレーダーや画像処理技術、テレマティックスなどの総合技術が必要になります。さまざまなテストを全て一つのプラットフォームでテストする方向で考えています。テクノロジーのコンバージョンです。
IoTも同様に考えています。IoTでは、物理世界の測定と、ワイヤレス技術の計測、そしてクラウドによる解析、これらすべてをテストできるようなプラットフォームを作るのです。

セミコンポータル: ドクターTは社長兼CEOなのに、一般社員と同じフロアで、一般社員と机を並べて仕事しています。社長室をなぜ作らないのですか?
Truchard氏: 私はテクノロジーの会社を作りたいと思って起業しました。好きな仕事はエンジニアとディスカッションして、新しいテクノロジーの方向を探すことです。社内だけではなく、社外のエンジニアともディスカッションします。UCバークレイでの諮問委員会でのディスカッションもその一環です。とにかくいろいろ歩き回って、エンジニアとディスカッションしたいのです。囲い込んだ社長室にいると、エンジニアと気軽にディスカッションできません。だから社長室は必要ないのです。

(2016/04/13)

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