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並列プロセッサIPのソフトウエアモデムでLTE、WiMAX、LTE-Advancedに対応

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Charles Sturman氏、英Cognovo社ファウンダ兼バイスプレジデント

昨年11月に設立、LTEやHSPAなど新しい携帯電話モデムをソフトウエア無線で提供する英国のIPコアベンチャーCognovo社のセールス&マーケティング担当VPのCharles Sturman氏がセミコンポータルを訪問した。ソフトウエア無線を利用するモデムを実現するシリコンの開発プラットフォームである。その狙いを聞いた。

英Cognovo社VPのCharles Sturman氏

英Cognovo社VPのCharles Sturman氏


Q1(セミコンポータル編集長): 携帯電話用モデムのIPではGSMのノウハウを持つTTPCom社が有名ですが、Cognovo社との関係はありますか。御社の背景とビジネスモデルを教えてください。
A1(Cognovo社VP Charles Sturman氏): かつてTTPComにいた経営陣が設立しました。資本構成は6名のファウンダとARMなどです。その内訳を詳しく言えませんが、ARMの出資分はマイノリティです。社員は現在30名で、ケンブリッジ郊外のRoystonにオフィスがあります。2006年にTTMComはモトローラに買収されましたが、私たちが考えだした新しいソフトウエア無線技術(Software defined radio)にフィットする技術を探していたところ、ARMがかつて米ミシガン大学と共同開発していたSODAと呼ばれる技術と似ていることがわかり、ARMからスピンオフする形にしてCognovo社を設立しました。
私たちのビジネスモデルはARMと同じIPベンダーです。ソフトウエアモデム技術のIPを半導体チップメーカー、ピコセル/フェムトセルメーカーにライセンス供与して収入を得るというビジネスです。顧客が生産を開始すると、今度はロイヤルティをいただきます。これもARMと全く同じビジネスモデルです。
さらに、ツールセットも提供し、ソフトウエア開発を支援します。コンパイラや命令セットシミュレータ、コードプロファイラなどを提供します。


6人のファウンダはベテランぞろい

6人のファウンダはベテランぞろい


Q2: 御社のソフトウエアモデムの特長を教えてください。
A2: 従来のモデムは、GSM、GPRS、W-CDMA、WiMAX、LTEなどさまざまな通信方式に対応して半導体ハードウエアチップを開発してきました。しかしこれでは微妙に変わる仕様に対して作り直さなければならず開発に3年もかかることがありました。浮動小数点アルゴリズムのシミュレーション開発から始め、固定小数点シミュレーションに変換し、RTLを作り機能を設計した後、トランジスタレベルの設計に落とし、検証へとつなげていかなければなりませんでした。もしミスが発見されたら設計し直しです。
そこでそれぞれの通信方式に応じた機能をソフトウエアで表現し、それをフラッシュメモリーなどに貯めておけば、ソフトウエアを替えるだけで、たとえ通信方式が変更されてもすぐに対応できます。これがソフトウエアモデムです。しかも通信専用のプロセッサ構成にしていますので、従来のハードウエア方式よりもチップ面積は半分、コストも半分になります。

Q3: ソフトウエアモデム用のプロセッサだと、マルチスレッド方式のIcera社、超並列DSPコア方式のpicoChip社のプロセッサもソフトウエア無線方式です。御社の技術は何が違うのでしょうか。
A3:  Icera社はチップとして売りますが、当社はIPベンダーとしてIPコアを売ります。ARMからの技術は消費電力が極めて低い技術ですので、これも大きな特長です。
picoChip社と比べると、picoChipの製品はインフラ系に注力した高価、消費電力のやや大きいICです。プロセッサエンジンを5000個集積したpicoChipの製品は消費電力が大きいと思います。
これに対して、当社のエンジンはLTEの場合に2個のベクトルプロセッサだけで済みます。

Q4: なぜそんなに少ないエンジンで高性能が得られるのでしょうか。
A4: 高速化のカギはベクトルシグナルプロセサ(VSP)です。これは従来のDSPとは違って、命令の並列処理とデータの並列処理を行えるプロセッサです。命令を動かすのはVLIW(very long instruction word)アーキテクチャです。
この技術のハードウエアの基本構成は、VSPユニット、スカラーユニット、コントローラユニットからなり全体をVLIWアーキテクチャで動かします。すなわち、多数の命令セットをある1クロックで処理してVSPユニットへ送ります。スカラーユニット、コントロールユニットも同様です。スカラーユニットは通常のDSPと同じ計算を行います。
このエンジンを使って通常のCコードでプログラミングしコンパイルすると、非常に速い動作が可能です。というのは、たくさんの並列処理を同時に行うからです。このようにして高い性能が得られるという訳です。VSPユニットでは、大変効率のよいDSPを多数持っているようなわけで、例えば32ビットの複素数のMAC(積和演算)は毎クロックごとに行えます。
1個のVSPユニットには、掛け算と足し算、さらに複素共役がありますので、一つのエンジンに2個のVSPユニットを持つとすると、1サイクル当たり64MACの演算を行います。500MHzのクロックで動作するとなると、32GMAC/sになるという訳です。非常に高速です。


VSP(ベクトルシグナルプロセッシング)2個集積するモデムエンジン

VSP(ベクトルシグナルプロセッシング)2個集積するモデムエンジン


Q5: このアーキテクチャをARMが作ったのですか、それともTTPComですか。
A5: このグランドデザインはARM内部で行われました。ARMは米ミシガン大学と共同でSODAと呼ぶ論文を発表しました。ミシガン大学にはプロセッサ研究に強いグループがいたからです。
 いろいろなワイヤレス通信モデムのアルゴリズムを解析し、さらにそれを数値計算できるようにテーラー展開などのMAC形式に直し、RISC命令セットにまとめたのです。それをベクトルシグナルプロセッサと呼びました。今回の技術は最初のSODAとは異なりますが、SODAをベースに作られました。

Q6:  日本の携帯電話市場はガラパゴスと揶揄されています。TTPCom時代にはGSMを日本のメーカーにライセンス販売の活動をされていましたが、日本のメーカーは採用しましたか。
A6 シャープにGSM用のプロトコルスタックを売ったり、東芝やルネサスにも無線技術を販売しました。TTPComとしては日本市場では成功しました。

Q7:  TTMComからライセンスを受けてGSMのノウハウを取得したのに日本のメーカーはなぜGSM市場向けに携帯電話を出すことができなかったのですか。
A7  ライセンスした時期が遅かったからです。さらに携帯電話業界の再編があり、低価格のシリコンチップメーカーが現れました。台湾のメディアテックや中国からも登場しました。彼らはODMとして、チップを販売しました。

Q8:  では、今回のIPは日本のメーカーが早期に採用して携帯電話を作れば、今度は欧州さらに世界市場へリーチできますね。
A8: はい。必ずできると信じています。これはHSPA+やLTE、LTE-Advancedなどが各社各国ごとにスタート時期がずれるからです。今はちょうどよいタイミングだと思います。日本以外の国のメーカーもこのソフトウエアモデムに注目していますので、遅れないようにすることが重要です。

(2010/07/02)

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