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ISSM 2016基調講演ハイライト:半導体工場のアセットライトとスマート化

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半導体製造の国際会議ISSM2016( International Symposium of Semiconductor Manufacturing)が、12月12日〜13日に東京・両国KFCホールで開催される。(Technical Sponsorship by IEEE EDS, 共催:SEMI、一般社団法人日本半導体製造装置協会、Taiwan Semiconductor Industry Association(TSIA)、ミニマルファブ技術研究組合、後援:応用物理学会) ISSMの運営委員である前川耕司氏が、一つのトレンドを表す基調講演について概観している。(セミコンポータル編集室)

ISSM2016


半導体の国際シンポジウムというと、なにやら半導体関係者だけに偏った、専門家だけの集まりという印象があり、どうも居心地が悪そうだ。しかし、ISSM委員会は、近年いろいろな試行錯誤を試みており、半導体関係者のみならず、社会構造の変化をもたらすような“技術革新の流れ”に興味を持っているような人でも、聞きたくなるような内容の講演を増やすように努めてきた。ISSMは、半導体という限られた分野での深い発表の場であるとともに、広く間口を開けて、未来に向けた可能性を見つけるための出会いの場を提供する試みがなされるようになってきている。
ここのところ、半導体業界は、大型の買収案件が矢継ぎ早に発表されている。Avago社によるBroadcom社の買収、Qualcomm社によるNXP社の買収、ソフトバンク社によるARM社の買収、ルネサス社によるIntersil社の買収、ずいぶんとあるものだ。これらのM&Aが、近い未来に、グローバルマーケットに大きな変化を生み出していくことは、間違いがない。どちらかというと、すでにエスタブリッシュされた、半導体ビジネスプレイヤーの間での変化という見方ができる。
目を転じて、私の職場であるシリコンバレーの会社での、半径5メートル以内の世界では、技術の急速な変化を実感する例が出てきている。ビッグデータ収集システムを基幹技術とする、ファウンドリ/ファブレス用のプロセスコントロールシステムの世界的な展開である。卑近な例で申し訳ないが、過去1年間の業績が、それ以前3年間の合計の業績を上回り、契約数が著しく伸びてきている。近年の顧客は、新興のファウンドリ/ファブレスであり、アジアの国々の会社が主である。2年後に、これらの会社から出てくる半導体製品がどのようなビジネスインパクトを形成するか、興味深いものがある。
さらに、目を転じて日本の国内での視点に立ってみると、リストラの時代はようやく終わったのであろうか。日本の半導体製造においても、積極的に投資を行い、他社とは異なる独自のスイートスポットマーケットを見つけていきたいという姿勢が見えてきている。ビジネス的には多品種少量生産のマーケットに参入する戦略を描くところが多い。技術的には、製造コストを抑えて高品質が要求されるマーケットへの対応が鍵である。
ISSM2016委員会では、このような展開にいかなる提言ができるのか、議論を重ね講演の打診をしてきた。以下に講演内容を俯瞰してみる。


原 史朗氏

キーノート講演
"Minimal Fab using half-inch wafers to reduce a fab investment to 1/1,000"
Dr. Shiro Hara
Group Leader, Minimal System Group, Nanoelectronics Research Institute
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門
ミニマルシステムグループ長 原 史朗氏

原史朗博士(産業技術研究所)による基調講演。「究極の少量多品種化」で製品をカスタマの要望通りに製造することを実現するミニマルファブは、2016年4月に実用化を開始した。一昨年、昨年とセミコン・ジャパンでも展示され、評判となった1/2インチウェーハを使った、超小型の半導体製造ラインである。製造装置の大きさは、縦横わずか30cm × 45cm、高さ145cmというものである。巨大な製造空間に、巨大な製造装置をドカンと設置する大量生産型のファブに対して、製造空間のなかに高度にインテグレートされた小型のユニットを多数並べて、多品種の製品を少量製造するファブの構想が考えられる。実はこのような製造コンセプトは、身近に成功例があるのだ。CDや、DVDという音楽や映画の記録媒体が、一時代を画すことができたのは、小さな製造ユニットを多数並べたファブのなかで、品質を確保しながら、多数の品種を少量生産しても、コストバランスを保つことに成功したからなのだ。半導体製造の新しいコンセプトの商用化を世界市場で展開する、注目の講演である。


伊藤 孝浩氏

キーノート講演
"Toyota's Efforts Toward Realizing a Sustainable Society”
Dr. Takahiro Ito
General Manager, Process Development Dept.,
Power Electronics Development Div. TOYOTA MOTOR CORPORATION

トヨタ自動車株式会社 パワーエレクトロニクス開発部
プロセス先行開発室室長 博士(工学) 伊藤 孝浩氏

久村 春芳氏

キーノート講演
"New Era of Electrification and Vehicle Intelligence"
Dr. Haruyoshi Kumura
Fellow,
Nissan Motor Co., Ltd.
日産自動車株式会社 フェロー・博士(工学) 久村 春芳氏

共に、車載用半導体に関する重要なテーマを述べている。今後の日本の半導体製造を考えた場合、死命を制する内容と考える。2015年にセミコン・ジャパンとの共演で行われた「半導体戦略フォーラムで、半導体のユーザーであるクルマメーカー、モジュールメーカーとの意見交換は極めて有益であった。半導体ユーザーが製造者に何を求めているのか、忌憚のない意見交換が印象的であった。車載半導体ユーザーの声を直接聞くことのできる希な機会である。


Dr. Jonathan Chang

キーノート講演

An overview of smart factories in Industry 4.0 implementation.
Dr. Jonathan Chang
Senior Director, Backend, Factory Integration, SCM,
Infineon Technologies

冒頭述べたように、ビッグデータ収集システムへの近年の関心の高まりを実感している。ビッグデータ収集システムを技術の基本におくIndustry 4.0の展開が、具体的な形を現しつつある。ここ米国においても、Industry 4.0に関する論文がビジネス関係の研究誌にもポツポツ登場してきている。最近も、MIT Sloan School (MITのMBAスクールである)が、交通管制システムの例を紹介している。半導体製造での応用例という意味では、注目の講演である。


Dr. Jack Sun

キーノート講演
"Toward Sustainable Nanometer Manufacturing Technologies in the 2020s"
Dr. Jack Sun
VP of R&D and CTO,
TSMC

チップ搭載のトランジスタ個数は500億個を超え、サブ5nmテクノロジーノードのナノメーター製造時代が始まる。3次元低電圧トランジスタの開発とともに、システム設計や材料におけるブレークスルー技術の開発が必須となる。サブ5nm領域では、µmからナノメーター、オングストームへ、10億分の1から1兆分の1のディフェクトレベルへ、フィードバックからフィードフォワードへ、チップからモジュラーシステムレベルのEDA/CAD設計・テスト・信頼性へと、発想や論理の転換が必要となる。2020年以降のスマート社会に向けて、半導体のイノベーションを予測する。


Mr. Heinz Martin Esser

セッションキーノート講演
An overview of optimized automation of 8-inch fab manufacturing lines
Heinz Martin Esser
CEO
Roth & Rau - Ortner GmbH、
Board Member of Silicon Saxony e.V

Mr. Peter Kailbauer

セッションキーノート講演
Challenges and Innovations in a 200mm Wafer Fab
Peter Kailbauer
Senior Manager Fab support and strategy, Fab B
ams AG

この2件は共に、200mmセッションの基調講演である。日本の半導体製造の特徴的な点は、200mmラインでのウェーハ製造量の多さである。現状では、かなりのファブが、数年先まで満杯の状態となっていくと思われる。200mmラインでの半導体製造をいかに特徴付けるかによって、 新たなる未来への展開が開けていく。古い製造装置を使用しつつ、グローバル市場でも対抗できるような製造コストの壁、製品特性ばらつきの壁を乗り越える必要がある。IoT、ビッグデータ収集システム等、革新技術を既存のファブに適用するというのは、実に一考に価すると考える。
以上、基調講演について、現時点での情報より概観してみた。また、チュートリアルセッションの概要も下記に示す。


◆Tutorial Session◆ チュートリアルのみ日本語講演(同時通訳付)
久保 哲也氏

チュートリアル講演
「日々変化する半導体製造の生産管理システム」
株式会社 東芝ストレージ&デバイスソリューション社
IT推進部 分析・高度データマネジメント推進担当 グループ長
久保 哲也氏

NANDフラッシュメモリは、微細化と生産規模の拡大による継続的なコスト削減により、低価格化が進み市場が急拡大してきた。この生産規模拡大を支えてきたのは、数千の最先端半導体設備と数万ものロットの流し化を実現する自動化システムであり、その基本と発展の変遷を説明する。近年では、ビッグデータの活用、機械学習の取り組みも始まり、日々変化する最新の状況も紹介する。

高木 信一氏

チュートリアル講演
「半導体とバンドダイアグラム」
東京大学 大学院工学系研究科
教授 高木 信一氏

近年の半導体技術においては、様々な半導体材料が実デバイス向けに検討されており、またそのサイズもnmオーダーの寸法のものが多用されるようになってきている。ここで、半導体材料のバンドダイアグラムは、その物性を理解する上での基礎である。本ショートコースでは、典型的な半導体材料に対して、このバンドダイアグラムの物理的な意味の基礎的な理解およびバンドギャップや有効質量などの基礎的な物理量とバンドダイアグラムの関係について紹介する。ここでは、学部から大学院修士レベルの物理の知識を使って、その性質を導くことを行う。加えて、ナノメーターサイズの材料の物性を理解する上で極めて重要な、量子サイズ効果がバンド構造に与える影響についても紹介する。

今年のISSMは、例年になく多分野に渡り講演を試みている。当日のプログラムはISSMウェブサイトに掲載。ご参加の上、ぜひ交流範囲を深めていただきたいと思う。

PDF Solutions、ISSM 運営委員、前川耕司
(2016/11/22)

ISSM2016


◆参加費用
 早期登録(11月27日まで)40,000円(通常登録 50,000円)
 学生   無料(プロシーディングスは有料、学生特別価格)
 上記価格はチュートリアルセッションも含んでおりますが、
チュートリアルセッションだけの聴講も可能です(10,000円)
プログラム、ご参加はこちらへ 

ISSM委員による別の寄稿・用語解説も是非ご一読下さい。

★インダストリー4.0の本質に迫る!〜共有型社会へ向かう
インダストリー4.0の先頭に立つ半導体製造業。半導体製造では、製造装置に取り付けたセンサからのデータを企業内のサーバに送りプライベートクラウドで解析し、装置に情報としてフィードバックし、次のロットへの情報をフィードフォワードする。歩留まりを上げる上で、もはや欠かせなくなった。半導体製造の学会であるISSMのプログラム委員がインダストリー4.0を解説する。(続きはこちらよりご覧ください)

★日本半導体産業復活のために〜ISSM は製造戦略を再定義
半導体製造プロセスにおけるノウハウをサイエンスにしようというコンセプトで始めたISSM(International Symposium of Semiconductor Manufacturing)。日本の半導体メーカーはファブライトへ転換し、重要な半導体製造の力を弱めてきた。米国ではファブレスのQualcommでさえ、半導体プロセスの技術責任者を置き、その重要性を認識している。ISSMの情報発信タスクフォースはISSMを再定義し始めた。ここに日本復活のカギがある。(続きはこちらよりご覧ください) 

★ISSMが網羅するエリアの詳細説明
ISSMがカバーする技術のポイントを、専門知識をもっていらっしゃる技術者向けと、異業種の方で半導体技術を活用されようという方向けの解説の両方をご覧いただけます。(続きはこちらよりご覧ください)

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