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姿を現わしつつある米国のDX:第3部APCとIndustry 4.0 (2) 国際競争

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米国議会のシンクタンクである米国議会調査局のレポート「U.S. Semiconductor Manufacturing」は、いよいよ外国半導体企業と各国での状況について触れられている。米国政府が、各国とその半導体企業をどう見ているか、興味深い。(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司

前回、米国半導体産業が、グローバルマーケットで、なんとかマーケットシェア守り抜いてきた点を述べた。その米国半導体産業に、新たなるチャレンジが襲いかかってきている。連邦政府、米国議会はいかなる対応を取ろうとしていくのか。2016年に発行されたこの報告書は、そのなかで現在より近未来に至る示唆を述べている。

“Global Competition”

中国 --- あくまでも、2016年当時の状況である。2020年の今日とは、若干違和感のある部分が見られるものの、警戒感をにじませた記述である。図3-5 に示されるように、2000年代になり、組み立て工程を主とする民生用電子部品製造の中心がアジア地域に移動して以来、アジア地域での半導体売り上げは、顕著な伸びを見せる。2014年において、アジア地域における、半導体電子部品の売り上げは、全世界の売り上げの50%以上になっており、 中国地域だけでも、全アジア地域の半分以上を稼ぎ出している。中国マーケットは、米国のみならず、全世界の半導体製造業にとって、大きなお客なのだ。しかもこの当時、中国ブランドの半導体製造企業は、弱小であった。報告書では、中国半導体製造企業は、技術力も生産能力も低い。Made-In-Chinaの半導体は、ローエンド品と決めつけている。量的にも、中国での将来の半導体消費をまかなうことはできないとの記述が見える。


Regional Semiconductor Market (sales)

図3-5 地域別半導体売り上げ 出典:SIA(Semiconductor Industry Association) FACTBOOK 2019を基に、筆者が作成


しかしながら報告書は、2014年に中国政府が承認した、野心的な計画に注目する。2030年を目標に、中国国内での半導体製造を世界のトップレベルに押し上げるべく、中国政府主導の半導体国産化計画である。2025年までに、中国での半導体消費の70%を国産化する、つまり中国ブランドで賄う構想である。マッキンゼー社の報告書では、中国政府は1000億ドル〜1500億ドル(10 – 15兆円)を中国半導体技術の育成に投入すると述べている。対象となる企業としてSMIC、HMLC、XMC が上がっている。

また、これ以後、中国は米国半導体関連企業の買収を試みている。ターゲットになった米国企業として、Micron Technology, Western Digital, Fairchild Semiconductor社、韓国企業としてSK Hynix社等の名前が見られる。

これらの買収計画は、全て現実とはならなかった。報告書は、この過程においてCFIUS (Committee on Foreign Investment in the United States)の関与があったか否かは不明であると、わざわざ断りを入れている。

2018年の今日、中国地域における半導体売り上げは、金額ベースで全世界の33.8%に上っており(図3-5)、その他のどの地域よりも、急速な成長を遂げている。2045年までには、この率は50%を超えるという観測もある。

米国にとっては、今も将来も大きなお客である。しかしながら、中国政府は近年、中国ブランド会社による半導体製造を加速している。また、海外ブランドの半導体を使った、中国ブランド先端電子製品は大量に輸出され、米国の貿易赤字の一因となっているし、安全保障上の懸念を米国内で深刻化させている。

報告書では、2015年以降の300mm新鋭半導体ファブの建設予定に触れている。アジア地域での中国、台湾ブランドの新鋭ファブ建設予定に比べて、米国ブランドの建設計画数は少ない点に懸念を示している。資料によっても異なるが、中国ブランドでは10件, 台湾ブランドは4件、韓国ブランドは3件に比べ、米国ブランドは1件にとどまる。 

欧州--- STMicroelectronics, Infineon Technologies, NXP Semiconductorの名前を見る。EU域の半導体産業の特徴として、車載および産業用電子製品向け用途への特化を挙げる。European Commission(欧州委員会)によれば、EUは、車載用電子部品で全世界50%、産業用電子部品で全世界35%の市場シェアを持つという。車載用半導体、IoMすなわちIIoT ( Industrial IoT)向け半導体としては、ターゲット市場が足元にある形である。

2013年5月、European Commissionは, 一つの計画を承認する。ヨーロッパブランド半導体企業のR&Dに公的ファンド、私的ファンドを通じて、110億ドル(100億ユーロ、1兆1000億円)を資本供給するというもの。期間は、2014年より2020年に渡る。この資本投下は、その後10年の間に、1100億ドル(11兆円)の新たなる投資を関連製造業に呼び込むという構想である。

韓国--- 近年、メモリ半導体ビジネスとして半導体グローバル市場に明確なポジションを確保している。大きく成長している半導体製造業としてSamsung、SK Hynixの社名を見る。両社とも、政府による資金援助および財閥構造による長年の安定した資金調達を述べている。なにやら、米国ブランドへの警戒感を思わせるような記述とも思える。

台湾 --- 半導体グローバル市場におけるファンダリビジネスとしてのリーダーであるとの認識を示す。TSMC、UMCを業界のリーダーとして挙げている。両社とも私企業である。しかしながら、直接の低利の資金融資等、台湾政府による長年の手厚い保護に言及している。

日本 --- 1986年の日米半導体協定、1987年の米国におけるSEMATECH設立ののち、1990年代日本ブランドが急速にグローバル市場シェアを失うと共に、半導体製造企業の数も減少したとの記述が見える。2016年の時点で、トップ20社に入る企業として、東芝社(現在、キオクシア社)、ルネサス社、ソニー社の名を見る。日本政府による半導体産業へのサポートについては、記述がない。 

この辺り、報告者の意図が見えてくる気がする。再度、断りを入れておきたい。この報告書の目的は、立法府でありかつ予算を承認する議会に対して、連邦政府の立場を示すことと考えられる。ある意図がさりげなく強調されている点を忘れてはならない。報告者の意図は、1990年以降に発展してきた半導体製造業と政府の関わり具合である。真意は、連邦政府による技術革新への積極的な関与、半導体技術開発の保護が今日の米国ブランドの維持につながっている点への言及にあると考える。

日本の読者に置かれては、違和感をお持ちになるかもしれないが、米国では、国家プロジェクトは決して歓迎されているとは言えない。政府は金も出すが、大いに口も出す。民間の資本家にとっては、うるさい存在なのである。2016年のこのタイミングで、過去の例を掘り出す理由は何か。何を目指しているのであろうか。議会のシンクタンクが、連邦政府の立場で、報告書を書くのはなぜだ?疑問が心を過ぎる。

最後に、この報告書は、半導体産業の連邦政府の役割と、国家安全保障に関する懸念とを述べている。

“The Federal Role in Semiconductors(米国半導体製造業への連邦政府の果たした役割)”

1960年代以来、順風であった米国ブランド半導体にとって最初の大きなチャレンジは、1980年代に日本からやってくる。日本ブランド半導体にグローバル市場シェアのトップの座を奪われた1980年代、米国Defense Science Boardはタスクフォースチームを組織する。米国半導体が市場シェアを失うことによる、米国技術の世界的な位置づけの変化が議論される。半導体市場を失う理由は、先端技術開発力の相対的な低下のためであり、ビジネス的競合の話とは異なるという見解が出る。半導体技術開発力の低下は、長期的観点からすると、米国の将来の先端技術開発力のリーダー的な位置づけを失わせるとの結論に達している。この時代、東西冷戦の時代であったのを思い出す。結論として、タスクフォースは、連邦政府の資金による、官民連合の技術開発型コンソーシアムを提言する。

当時、日本が行っていた、手法を参考にしたとの記述をする文献も見られる。米国議会は先端半導体R&D目的の予算を承認し、1987年SEMATECHがテキサス州オースティン市を拠点として創設される。8億7000万ドル(880億円)規模の予算が、1988年より1996年にかけてDARPA(Defense Advanced Research Project Agency)より供給されている。第3部の後半で触れるAPC(Advanced Process Control)は、SEMATECHに所属していた。

しかしながら、連邦政府の規制は厳しかったようである。SEMATCHのメンバー会社は大手企業に限られ、情報はメンバー会社のみに限り共有されている。初めから、特定企業だけの生き残りを考えた策だったのではないかとの記述も見える。

SEMATECH は、1998年を最後に、連邦政府からの資金援助を拒絶する。わざわざ、拒絶と書いてある。その後は、米国民間企業と米国以外の企業からの投資に資金源を移している。2015年にIntel社やSamsung社が離脱したのちは、活動を縮小しState University of New York Polytechnic Instituteに吸収される。

米国政府会計事務所の報告が見られる。「SEMATECHは、政府および民間企業とのR&Dコンソーシアムとして、他のケースに転用できるかどうかはともかく、先端テクノロジー開発による米国産業の発展に貢献した」。SEMATECHの半導体以外の製造業へのインパクトについては、評価が分かれるようである。いささか、奥歯に物が挟まった言い方に見えなくもない。

SEMATECH後、連邦政府は、CMOS技術の微細化の物理的限度を予感する。これが、連邦政府による、CMOS以降の半導体技術開発への努力のきっかけとなる。

2015年7月、オバマ大統領は大統領令を発表し、15年に渡るHPC(High Performance Computing)技術開発を目指しNSCI(National Strategic Computing Initiative)を設立する。この中には、次世代型コンピュータのみならず、それに必要な半導体開発も含まれている。大統領令はDOE (Department of Energy:エネルギー省), NSF(National Science Foundation:全米科学財団)、DOD(Department of Defense:国防総省)という複数の機関に渡っている。

“National Security Concerns(安全保障上の懸念)”

先端半導体の米国内での製造は、長年にわたり、国防上の議論であった。誰しもが、先端半導体の国内製造は、国防上必要と考えるが、国内生産された高価な半導体を使うことは、それを使った兵器のコストアップを招く結果となる。長年に渡る議論の末、2004年にDODは、Trusted Supplier Programの元、重要な国防上の用途に限り、米国企業に兵器の発注を決定する。当初はIBM社に発注予定だった先端半導体は、IBM社半導体事業のGlobalFoundriesへの移行により、もめることとなる。GlobalFoundries社の資本がアラブ資本のためだ。すったもんだの挙句、最終的にDODはGlobalFoundriesと2023年まで有効な、半導体供給の契約を結ぶ。この辺り、CFIUS(The Commission on Foreign Investment in the United States)の名前も見える。

2015年10月、US House Armed Services Subcommittee on Oversight and Investigation(米国下院外交委員会)は聴聞会を開く。米国本土にある、米国ブランドのマイクロエレクトロニクス製造企業の減少とそれに伴う半導体産業の新しい在り方について意見を求める。非USブランドの採用から、連邦政府直轄の先端半導体ファブまで含む、幅広いオプションを含んでの議論を求める。これを受けて、DODは、半導体をも含めたマイクロエレクトロニクスの調達元である、Trusted supplierについての調査を開始する。

ここで、唐突に報告書は終わっている。この報告書の日付より約半年後、政権はトランプ政権に交代する。米国議会下院の与党は、共和党から民主党に変わっている。その後、2020年の今日に至るまで、米国議会には、半導体開発製造に関するオフィシャルな新たな報告書は出されていない。

この報告書から、連邦政府の姿勢として見えていることは次の通りに集約できる;
・半導体技術開発を、米国産業の技術革新のバロメータとして捉えており、ビジネス的な成功には言及しない。
・DODの姿が常にちらつく。先端半導体の安全保障、国防上の位置づけを理由としてのR&D費用援助を述べることにより、議会を動かしている。

さて、先にも述べたように、2016年のこのタイミングで、このような報告が議会になされた目的はなんだったのだろうか。報告書を読み終えて、唐突な終わり方だなと思った。締め切りに間に合わず、時間切れだったのだろうか。このように考えさせられるような、いささか唐突な終わり方である。報告書の作者たちは、結論を示さないことによって、将来への示唆を強く込めたのかもしれないとの思いが頭をよぎる。答えを探す代わりに、その後に引き続き起きたことを、列挙しておく。

・2019年4月、SIAは、「WINNING THE FUTURE – Blueprint for Sustained US leadership in Semiconductor Technology」と題した報告書を出している。この中で、半導体R&Dへの連邦政府予算を従来の3倍である年間50億ドル(5,000億円)への増額、それに関連する、材料科学、コンピュータ科学等へのR&D費用の倍増を提言する。この中には、人材育成および米国外からの人材の招致のための移民法への言及、IP保護、開かれたグローバル市場の形成の概念が含まれている。結論の文の中に、SEMATECH 設立の経過とその結果についての記述を見る。機会があったら、別途ご紹介したい。

・2019年11月、IEEEは、米国本土での先端半導体ファブ建設に関し、談話を発表し、連邦政府による早期の決断を促す。2019年より米国中国間の貿易摩擦は表面化する。

・2020年、新型コロナウイルスパンデミックが起こり、米国内における中国政府への不信感が高まる。

・2020年5月、ウォールストリートジャーナルは、トランプ政権はペンタゴン(DODの別称、国防総省のこと)からの要請にもとづく、米国内での新鋭ファブの早期の建設の可能性を観測事項ではあるものの、独占記事として報道する。その翌日、TSMCは、アリゾナ州に新鋭半導体ファブ建設計画を発表する。この中に、米国連邦政府よりの、資金援助の記述が見られる。

現在、米国議会では、民主党、共和党の党派を超えた形で、先端半導体ファブ建設についての、さらなる議論が続いている。マジシャンの帽子の中から、この次はどんなウサギが出てくるのだろうか。この流れのいきつく先は、いまだ見えていない。

(続く)

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