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姿を現わしつつある米国のDX:第3部APCとIndustry 4.0 (1) 米半導体の変遷

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AEC/APC Symposium Japanの前川耕司氏が米国におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)事情についてレポートしてきた。第1部では次世代携帯通信5G、第2部では、IoM(Internet of Manufacturing)とIndustry 4.0について議論した。第3部では、米国連邦政府が見る半導体産業と、最新APC/AECカンファレンスについてレポートする。この第3部の最初は米国議会のレポートを紹介している。(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司

筆者のDX(Digital Transformation)の旅も、最終目的地に到達しつつある。今回は、米国半導体製造業でのDXを眺めてみる。米国議会のシンクタンクが発行したレポートが近年の米国半導体製造のマクロ的変化をよく表している。第3部前半では、このレポートを基に、米国での半導体製造が、米国内外での位置付けをどのように変えてきているのかを俯瞰したい。これにより、連邦政府や議会が、米国半導体製造をいかなる見方で捉えていたのか、これからどのような方向を目指そうとしているのかが、見えてくると思う。

第3部の後半では、APC(Advanced Process Control)カンファレンスでの議論より、半導体産業でD X技術がいかに発展してきたか、今後どのように進んでいくのかを示してみたい。このカンファレンスは、1990年代よりマイクロエレクトロニクスのプロセスコントロールという命題に特化し、DX技術を長年にわたり議論してきている。参加している企業は、半導体装置メーカー、半導体デバイスメーカー、および彼らへのサプライヤーである。半導体プロセスに特化した、技術集団のカンファレンスである。

ちなみに日本では、AEC/APC (Advanced Equipment Control/Advanced Process Control) Asiaが、2007年11月に熊本で、第1回目のカンファレンスを開催している。AEC/APC AsiaはAEC/APC Japan Committeeの元、隔年ごとに東京で開催されている。AEC/APC Japanは、ISSM (International Symposium on Semiconductor Manufacturing) Japanの下部組織に当たる。

目次
第3部APCとIndustry 4.0
3-1. 米国半導体産業の姿 --- ワシントンDCからの視線
3-2. IMA-APC --- エリート技術集団の孤独と最近の変化
3-3. NXP 、半導体デバイスメーカーとしてのスマート化への視線 ---- DXによる微細化ビジネスからの脱出とその未来
3-4. TEL 、装置メーカーとしての視線---DXを使ったスマートファブ化とクラウドサービス
3-5. 技術的ロードマップ --- オピニオンリーダー達の見解
3-6. DXの旅の終わりと未来への目

3-1.米国半導体産業の姿 --- ワシントンDCからの視線

1990年代から米国半導体業界は、世界的半導体業界再編成の最中、どのように変化してきたのだろうか?そして、どのような方向へ進もうとしているのだろうか?1980年代、米国半導体業界にとって、日本からの影響は、無視できないものであった。30年の時を経た今日、米国半導体産業を米国の内側から見たとき、何が見えてくるのかをある程度理解した上で、APCに触れたいと思った。まずは、米国半導体製造業を米国内部の視点から、俯瞰することから始めよう。

米国議会は、シンクタンクをその組織内に持っている。日本では、米国議会調査局と呼ばれているようである。このシンクタンクは、委員会で議論される議題について分析を請けおい、報告書を発行している。公的なシンクタンクで、約600名の職員を有する。所在地は、ワシントンDCである。かつては、すべての報告書が機密扱いであったが、近年になり、かなりの報告書を公開するようになった。

手元に、U.S. Semiconductor Manufacturingと題した報告書がある。 2016年6月の発刊である。23ページほどの、オバマ政権時に発行された、簡素な報告書である。米国半導体産業に関し直接に言及した報告書としては最後で、今日に至るまでに新たな報告書は発行されていない。

この報告書をもとに、ワシントンDCから見た、米国半導体製造の姿に触れてみたい。何分にも、米国内市場についての、ワシントンDCの見解である。贔屓目の解釈も目につく。さらに、公文書による報告である。一見、まっすぐな道のりを述べているように見える。現実の複雑な経過を押しつぶして埋め立ててしまい、その上をアスファルトで舗装したかに見えるが、注意深く読んでいくと、何気ない記述の裏に、進行していった現実が少しずつ見えてくる。とにかく進めてみよう。なお、報告者が使用している様々なデータは、2015年当時のものであるため、今日とはいささか状況が異なる面がある。今日の姿を捉える目的のため、データに関しては、SIA(Semiconductor Industry Association:半導体工業会) と米国国勢調査より、最新のものを使った。

報告書は、米国半導体産業のグローバルマーケットの中での位置づけから始まる。2018年度のグロバルマーグローバルマーケット,700億 ドル(47兆円)だ。大変に大きいマーケットである。過去20年間のCAGR(Compound Annual Growth Rate)は、9.5%である。シリコンサイクルによる変動はあるものの、長期的な展望に立てば、半導体産業は、高い成長を長年にわたり遂げており、また将来も高い成長の見込まれる有望なマーケットである(図3-1)。


Global Semiconductor Sales

図3-1 グローバルマーケットでの半導体売り上げの歴史 出典:SIA(Semiconductor Industry Association) FACTBOOK 2019を基に、筆者が作成


図3-2は、半導体売り上げに基づく、各国半導体企業のマーケットシェアを示す。売り上げの元になる各企業の国籍は、その本社の所在地として定義している。グローバル化の進んだ半導体ビジネスとしては、あまり意味がある定義のようにはみえない。しかし、ワシントンDCは異なる見方をする。ワシントンにとって米国籍企業とは、別名、米国ブランドだ。米国ブランドの影響力を見たいのだ。


Global Market Share (sales base)

図3-2 国別半導体売り上げマーケットシェア 出典:SIA(Semiconductor Industry Association) FACTBOOK 2019を基に、筆者が作成


今日、米国ブランドのマーケットシェアは50%弱あり、過去20年間、安定している。このデータには、IDM(垂直統合の半導体企業)もファブレス、ファンダリもすべて含まれている。近年の米国半導体売り上げのうち、約30%弱はファブレスによるものである。

ファブレス, ファンダリおよびIDMを、半導体製造業という同じ分類にするのはいかがかと思うものの、米国ブランドと言われれば、確かにそうだ。ワシントンにとっては、成長の続くマーケットの50%が米国ブランドだと言いたいわけだ。しかし、2016年以降になり、中国、アジアからの挑戦が見えてくるようになる。

報告書はその後、米国内マーケットに踏み込んでいく。図3-3に半導体デバイス製造業の、米国製造業の中での位置づけを示す。米国国勢調査で製造業に分類されるNAICS code は、511件あり、その中でのランクを書き出した。輸出額では第4位、年間売上額では第68位、職種の数では第72位。いずれも、上位15%以内に当たる優良産業だ。従業員一人当たりの売り上げでは、第116位に沈む。しかしながら、従業員一人当たりの年間賃金では、第3位である。ちなみに、賃金に関しては半導体装置製造が第1位である。


米国半導体製造の位置づけ(半導体製造、NAICS code-334413)

図3-3 米国半導体製造業の位置付け 出典:SIA(Semiconductor Industry Association) FACTBOOK 2019、2017米国国税調査を基に、筆者が作成


半導体産業は随分と高給だ。結構、妬けるじゃないか!報告書は高給の点を気にしているのか、製造業でありながらファブレスの給与形態が年間賃金を大変押し上げていると述べている。半導体製造産業の、米国産業の中でのエリート的な位置づけを物語る。さらに、2001年から2015年にかけて、半導体製造業の職種数が38%減少している点を述べている。大規模なリストラがあったわけである。この間、IDM構造から、ファブレス-ファンダリ構造への変化、多数のM&Aにより、産業構造の大幅な再編成があった。

次に、R&D費用についての記述がある。図3-4にあるように、半導体製造業のR&D費用対売り上げ比率は17.4%だ。Pharmaceutical & Biotechnologyの20.1%に次ぎ、第2位である。2015年12 月に、米国議会は、長年の懸案であった半導体製造業に関するR&D Tax creditと呼ばれる、開発対象の税金優遇の法案を可決している。

R&D Expenditure as Percent of Sales

図3-4 R&Dコストvs売り上げ 出典:SIA(Semiconductor Industry Association) FACTBOOK 2019を基に、筆者が作成


さらに、米国ブランド企業の半導体ファブが東アジアに多数存在する点を挙げ、TPP(環太平洋パートナーシップ)への関心を示唆する記述も見られる。

その後、報告書は約半分に当たる11ページを割いて、「Global Competition, The Federal Role in Semiconductors, National Security Concerns」と題して米国ブランドがどのように変化してきたのか、連邦政府が米国ブランドをどのように守り抜いていくかを述べている。この中では、中国、日本、韓国、台湾、欧州の各地域につき、現状認識の記述がある。中国については、2ページ近くを割いている。他の地域に関しては、合計で1ページほどである。中国に関する、極めて高い関心が読み取れる。

この稿では、2016年の米国議会報告書を基に、米国半導体産業が、グローバルマーケットで、マーケットシェア守り抜いてきた点を述べた。そして、半導体製造業が米国内産業の中でいかなる位置付けであるのかを俯瞰した。次回は、グローバルマーケットでの、待ち受ける新たなるチャレンジについて述べたい。

(続く)

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