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半導体チップをシャワーのように冷やすImecの新冷却技術

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高集積ロジックICやパワー半導体を効率よく冷却することは、チップの消費電力を下げることとほぼ同様に欠かせない技術となる。巨大なデータセンターでは、サーバーを冷却する消費電力の方がサーバーの消費電力よりも大きい、という現実がある。半導体チップの新しい液冷技術をベルギーの半導体研究所Imecが開発した。ICパッケージ内を冷却するImecのこの液冷技術を紹介する。(セミコンポータル編集室)

Herman Oprins, Imec

著者:Herman Oprins、Imec主任研究員、機械的・熱的モデリングと評価技術担当


空冷か液冷か

データセンターの電子機器を冷却することは価格に反映されることになる。世界中の電力のほぼ半分が空気を冷やすことに使われていると見積もられている。しかし、電力を消費する応用が増えサーバーの密度が増加すると、すぐ限界に達してしまい、サーバールームは空調機のファンを設けるスペースがなくなってしまう。冷却の設置面積を考えると、液冷は今後の経済的な代替手段となりそうだ。

このため大型データセンターでは空冷から液冷へと進んでいる。このためさまざまな疫癘技術が出てきている。共通するのは冷却板を使うことだ。流路を設けた金属板が液体を導き、半導体チップ上に接着剤で直接くっつける。この場合の欠点は、熱インターフェイス材料(TIM)を用いるために一定の熱抵抗を持ち、チップ表面との間で温度勾配ができてしまうことだ。特に接着剤があると、熱を除去する上で本当の熱的ボトルネックになり、冷却システムを最適化する上で無視できなくなる。そこで、液体をジェットで吹き付ける方法が有効かもしれない。チップの裏面を開け、液状の冷却材をチップに直接コンタクトさせることによって、TIM熱抵抗を除去できる。加えて、縦方向にジェット衝撃を与えると、チップ表面に吹き付けられる液体は、液の出口と同じ温度を保てる。

液冷の経済性

この技術は、チップやスタックした3D-ICチップの裏面に冷却直接吹き付ける方式でありながら、ポリマーで封止するという低コストですませる技術である。カギとなる部分は、チップに吹き付けるシャワーヘッドとなるようなノズルのアレイ部品となる。

このノズルアレイは、ノズル状に液体の入り口と出口を設けておく。入口のチューブは充填部分の入り口につながっており液体をノズルから吹き付けられるようになっており、出口のチューブは、外へ吐き出される液体を集めるノズルにつながっている(図1)。入口と出口での流れの相互作用でキャビティ部分ができ、ここで流体がチップとコンタクトする。


図1 3Dプリンタで作るICパッケージの液冷却器の断面

図1 3Dプリンタで作るICパッケージの液冷却器の断面


実は、この衝撃冷却ソリューションは、kWクラスの大電力パワーエレクトロニクスの大型モジュール(30〜50cm)で成功を収めてきた。チップあるいはパッケージレベルまで集積すると、ベアダイ冷却ソリューションが多数提案されてきたが、ほとんど高価なソリューションに留まっていた。Imecは、低コストながらも、3Dプリンティング技術をベースとした熱効率が良い技術を提案した。ノズルの大きさはSiの微細化技術は必要がない。開口径が小さいほど熱特性は高くなるのは事実であるが、ノズルを通過する冷媒を導くポンプの圧力を強くする必要があるため、結局歩留まりの現愛が来ることになる。加えて、Imecはシミュレーションと測定技術が優れているため、同様な性能はmmサイズのノズルでも十分達成できるので、コストを下げることができる。

チップ冷却にはシャワーヘッドはいくつあるべきか

ノズルの最適な数やノズルのピッチや直径の最適値を評価するため、Imecの研究者たちは8×8cm2のテストチップでシミュレーションした。ノズルが多ければ多いほど、温度が下がり(図2)、温度プロファイルは均一になることがわかった。しかも、チップ面積が一定の場合、ノズルの数が多ければ多いほどノズル径は小さくなる。小さな径のノズルの数が多ければ、熱性能は改善される、すなわち熱抵抗が下がるが、その分、ポンプのパワーが必要になる。


図2 ポンプのパワー(Wp)が一定なら、8×8ノズルアレイを超えると熱特性は飽和する

図2 ポンプのパワー(Wp)が一定なら、8×8ノズルアレイを超えると熱特性は飽和する


同様に、流量を増やせば、熱性能は良くなるが、圧力はもっと高くなる。熱特性(熱抵抗)とポンプのパワーの間のトレードオフを考えると、mm2当たりの1個以上のノズルを増やすとエネルギー効率が高くなることがわかった。この結果、1mm2ユニットセルあたりのノズルの直径は性能が飽和する時点では数百ミクロンの範囲になる。このシミュレーション結果は、8×8mm2のテストチップを作製し、テスト用衝撃冷却器で確認した。

冷却能力の高い材料とは

ノズル数とノズル径の選択が必要な製造技術に影響を及ぼすことになる。微細なノズル径だともっと高価なプロセスが選択肢となる。8×8mm2のテストチップと、それの伴うノズル径に対して、3Dプリンタ技術が実行可能な選択肢となる。この技術の最新の進化では、直径100µm〜1µmの範囲で構造をプリントすることができる。シリコンのプロセス技術では直径10µm以下の穴をあけるのにDRIE (Deep Reactive Ion Etching) 技術を使えば製作できる。しかし、シリコンプロセス技術は他の方法に比べコストが高い。その上、ノズルの直径をさらに小さくする必要がないことがシミュレーションでわかっている。熱性能が飽和するからだ。

ポリマー製造技術がシリコンプロセス技術よりも安くできるが、これは同じ性能規格に合っているだろうか?結局、ポリマーはシリコンよりも熱伝導率がずっと低い。この結果、熱抵抗、熱特性が悪い。このため、CuやAiのような熱伝導率の高い導体が放熱フィンなどに使われている。ポリマーのような絶縁体とは全く反対の特性を持っている。ところが、実際にはポリマー冷却器はシリコンや銅の冷却器と同じ性能を持つことがシミュレーションで示された。この場合の徐熱は、冷媒による強制対流が支配しているからだ。このため選択肢としては、ポリマーベースの低コスト製造技術(図3)を使うことになる。


図3 Imecが開発したジェット衝撃冷却器 ノズルアレイのスプレイ冷却液がチップの裏面に直接達し、チップを冷やす 出典:Imecの厚意による

図3 Imecが開発したジェット衝撃冷却器 ノズルアレイのスプレイ冷却液がチップの裏面に直接達し、チップを冷やす 出典:Imecの厚意による


Imecのチップ冷却器はどのくらい冷えるか?

この冷却器の見通しはどうか。これまで公表されている他の衝撃冷却器のデータを熱抵抗とポンプパワーに関して比較してみた。冷却器はいくつかの材料で作られた;シリコンとセラミック、金属、プラスチックである。Imecの冷却器は8×8のノズルアレイに1000ml/分の流量、入口と出口での圧力の低下が0.3barという条件で、0.13cm2K/Wと最も良い熱特性を示した。すなわち、この冷却器を用いるとチップは100W/cm2の電力を消費しても、熱は13°Cしか上がらないのである。この電力は標準的なプロセッサの典型的なパワー密度である。通常は、プロセッサの温度限界は100°Cだから、この熱性能があれば、500W/cm2の冷却能力が可能になり、これまでの冷却器の中のトップクラスの熱性能だということになる。

唯一、µmピッチのノズルを持つSiベースの冷却器だけがこれに勝てるだろう。しかし、これらの冷却器はポンプのパワーを5倍に上げ、さらに高価にもなる。今日現在、価格も重要なベンチマーク評価の指標の一つである。ある製造法や材料で選択することが、ポンプのパワー当たりの冷却能力を上げるという目標に従うことになる。しかし、それは冷却器の価格を決めることでもある。さもなければデータセンターのエネルギーコストを巨大にしてしまう。これら冷却技術の新発見は、巨大なデータセンターの「暑い」部分の節約に加えられるだろう。

(2020/03/31)

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