セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

姿を現わしつつある米国のDX:5G・IoT・APC ・Industry 4.0 (2) DC5Gとは

|

連載第2回~4回は、2020年以降に米国で本格的に始まる5Gについて議論するDC5Gという会議に出席した前川耕司氏が記録したレポートである。出席した日本人は他にはほとんどいない。ワシントンにおいて米国が5Gをどのように見ているのかを知ることのできる珍しい機会となる。(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司

前回(シリーズ(1))は、5G技術の特長によりユーザーとして、どれだけ便利な思いができるかを述べてきた。今回は、新しい技術の実用化のため、どのような仕掛けが行われているのか、舞台裏について述べてみたい。そこにおいて私が見たものは、政治と技術の接点での会話であった。

DC5Gというカンファレンスが毎年一回、11月に、ワシントンDCで開かれている。今年で4回目のカンファレンスだ。この集まりで、目にしたこと耳にしたこと目にしたことから始めたい。

1-1. DC5Gとは?: 政治と技術との接点

DC5G は、5G技術普及のための運動をおこなっている団体である。スポンサーには、米国通信業界の企業、連邦政府機関の名前が見られる。

DC5Gの講演会は、ペンタゴンシティのホテルで2019年11月4日、 11月5日の二日間にわたり開催された。September 11の時、飛行機が体当たりしたペンタゴン(米国防総省)はメトロの隣の駅で、会場となったホテルの目と鼻の先にある。近くには、ホワイトハウス、アーリントン戦没者墓地がある。この近辺のメトロは、実に地中深い所を走っている。メトロの駅は、核 戦争に備えて核爆弾の直撃にも耐えられるよう設計されている。 冷戦時代には核シェルターの役割も持っていた。昔、ペンタゴンはグラウンドゼロと呼ばれ、米国への核攻撃の中心点であった。ペンタゴンに近いこの街も、今では、高級ショッピングモールが立ち並び、華やかな地域になっている。自宅より約50分、メトロの駅に着く。極めて長いエスカレータを登りきったところにあるホテルが会場であった。

カンファレンス参加者数は、300名を超える程度と思われる。14セッションにわたり、パネルデスカッションも行われた。各パネルはプレゼンテーションとQ&Aの時間も含め1時間で、その後に30分程度の休憩時間が設けられており、参加者はその間に、パネリストに質問したり名刺交換したりするという形式である。

この会議の目的の一つは、人脈交流や人脈形成だ。学術的情報交換の場というよりは、ビジネス的な広がりを意図した、連邦政府機関(軍関係も含む)、地方行政機関、企業(技術およびビジネス)との関係構築により、広汎な世論形成を意図する考えだ、と読み取ることができる。

筆者が会話できた人は限られた数であるが、推定できる参加者の職種は、ビジネスデベロップメントマネジャー、技術開発マネジャー、地方行政プランマネジャー、シンクタンクコンサルタント、行政関係公務員、軍関係者、個人及び企業投資関係者と言った所であろうか。筆者には、未だ経験したことのないタイプの会議であった。

International Technology and Trade Associates, Inc.(ITTA)で科学技術担当のRobert Shields氏は、政治・経済的観点より、5G技術の動向を分析している。ITTAは、ワシントンDCを拠点とする、経済・技術系のシンクタンクである。彼は、技術にも理解が深く、多くを学ばせてもらった。米国においては、外国人である筆者には、理解が十分でない部分もあり、彼の見解に助けられている。

以下、パネルデスカッションで語られた内容と参加者の反応、Robertの観測とを織り交ぜながら話を進める。

1-2. 5G技術普及のロードマップ

5G AmericaのPresidentであるC. Pearson 氏は、4G, 5G技術の加入件数の予測を示した (図1.4)。


図1.4   4G, 5G加入予測 出典:Technology & Market Overview : The path from 4G to 5G , Chris Pearson, 5G Americaを基に、筆者が作図

図1.4 4G, 5G加入予測 出典:Technology & Market Overview : The path from 4G to 5G , Chris Pearson, 5G Americaを基に、筆者が作図


3GPP (3rd Generation Partnership Project)は、すでに3GPP Release-15すなわち ブロードバンド用の5G技術標準化を発表している。IoT、C-V2X向けの、新しいインフラおよび産業向けの Release-16は、2020年Q1(第1四半期、1月-3月)の完了を目指している。商業化推定時期は、2020年後半である。


5G Evolution to Deliver the 5G Vision

図1.5 5G技術ロードマップ 出典:Technology & Market Overview : The path from 4G to 5G , Chris Pearson, 5G America


Verizon社のPublic Policy 担当のVPであるD.Yang 氏は、5Gの加入件数の飛躍的な増加が、すでに始まっていること、5Gの増加傾向は、4Gよりも飛躍的に早いと述べている。5Gのサービスが、全世界で44件に上っている。やはりヨーロッパが先行しているが、米国が追随し始めている。米国では、4社が5G技術のブロードバンドサービスを2019年に開始しており、2020年より全国的に展開する計画だ。この背景には、 最近になりFCC(US Federal Communication Commission)連邦政府機関の後押しが始まったためでもある。

しかしながら、4Gから5Gへの切り替えが、一度に起こるはずもなく、今後、時間をかけてスムースな変更が必要だ。今後も5G技術普及のため、連邦政府、州政府、地方行政、民間会社による、相当の継続的投資が必要であり、このような投資は、100年に一度とも言える、社会構造の変化をもたらすという基本的見解を示した。

いずれのパネリストも熱っぽく語り、2020年での5G技術の飛躍的普及に対する期待を感じる内容だ。

随分イケイケの話に聞こえる。しかしながら、筆者はこの時点で、微かな違和感を覚えていた。図1.4を再度、見ていただきたい。5Gの2023年までの加入件数予測では、北米地域はグローバルマーケットでは、主役ではないのだ。主役となる地域は、中国、ヨーロッパである。後日、2019年11月に発刊された最新の「Ericsson Mobile Report 」では、米国での5Gへの加入件数は、2023年頃までに中国、ヨーロッパ合計の加入件数の15%-25%程度と推測できる。このカンファレンスでの期待感の高まりは、このような現実(米国にとって不都合な現実?)を踏まえた上でのことかもしれない。

複数のパネリストが、10年サイクルでの世代技術の更新(G1→G2, G2→G3, G3→G4への技術更新が10年ごとに起こってきているということ)を口にした。2020年での飛躍的普及論の根拠の一つというわけだ。半導体関係のムーアの法則を連想してしまった。

脱線するが、休憩時間ないしはランチタイムでの、いろいろな人たちとの会話や別の角度から、この点に触れてみたいと思う。やはり、参加者の2020年度への期待感は高く、ビジネスの成長に繋がって行くという、前向きな観測の声を聞いた。しかしながら、筆者は彼らの口調の中にやや違和感を覚えているのも、事実である。

一つ、記憶に残る、会話がある。彼は、某社のエンジニア(匿名を希望)であった。この会社は、5G用の中継用のタワーやその周辺装置を設置するビジネスを行っている。彼らは、過去3年間、中国市場への参入を試みている。彼自身、何度も中国本土に出張を重ね、パイロットプロジェクト的な施工を行ってきたという。ところが、ある時点になると、それ以降のプロジェクトの認可がおりないという。

彼は、「まるで中国政府と話をしているようになってしまい、結局、あるところからは、一歩も進められなくなってしまった」と述べている。彼の表情に、疲労とも言える影を感じ取った。もし、中国でのこれ以上のビジネスの展開が考えられない場合には、米国市場でのビジネス開拓が、鍵となってくると述べていた。

5Gが本格的に始まる2020年に向けて、期待が高まる、一つの舞台裏の事情を物語るような、会話であった。

すでに、大きな投資が行われてしまったため、さらに米国にとって不都合な現実のため、手遅れになる前に手を打つという意味で、2020年以降の、米国における飛躍的な市場成長を話題にしているのかもしれないという疑問は、個人的な観測として筆者の中に残った。

1-3.ファイバ、ファイバ、そしてファイバ:社会的インフラの構築

5G技術を米国全土に展開するためには、巨大な社会的インフラの構築が必要になる。その投資の規模は大きく、民間レベルだけではなく、連邦政府規模のサポートが必要だ。このあたりから、5Gの普及、およびそれを使ったスマート化は、国家的プロジェクトの色彩を帯びてくる。

5G技術の全国展開には、光ファイバの設置が必須となる。「なんだって? 5G技術はワイヤレスなのに、なんでまた、光ファイバの話なのだ?」。こう思われる読者がいるだろう。この点は、米国および北米地域の固有の事情かもしれない。日本ではファイバを使ったネットワークへの接続率が70%を超えていると言われるが、ここ米国では、12%に過ぎない(図1.6)。アジア地域でのファイバ接続率は高い。しかし、北米では、接続率は低く、ヨーロッパは、その間に位置する。

近年、我が家の周りも含め、米国至る所で目にするのは、ファイバの埋設工事である。


FTH* AND FTTB**

図1.6 ファイバ接続の現状 出典 FTTH Council Europe – Panorama, March 2019, IDATE を基に筆者が作図


5Gはワイヤレスなのに、ファイバはどこに必要なのだろうか。Ciena社State/Local government部門Education & Healthcare Industry担当Senior Advisorの
Danniel Loffreda氏が使用した資料が、大変わかりやすい(図1.7)。


Impact of 5G on Wire line Networks

図1. 7 5Gネットワーク 出典:5G & Connected Communities, Daniele Loffreda, ciena

5Gのシグナルを最終的に受けるのは、ユーザーである。ユーザーはRAN(Radio Access Network)の中でワイヤレスの状態で受信する。しかしながら、末端のRAN以外は、光ファイバを使い、タワーやスモールセルと呼ばれる中継用の装置へデータは伝送される。

タワーやスモールセルと呼ばれる中継用のデバイスへの接続には光ファイバが使われる。図1.8は、タワーやスモールセルと、それらを結んでいくファイバの概念を示している。


Our Infrastructure is the foundation for 5G and smart city technologies

図1. 8 ファイバ設置の概念 出典:Crown Castle DC5G, Mark Reudink , Crown Castle


どのくらいの数のスモールセルが必要で、どのくらいの距離のファイバが必要なのだろうか?約80万基のセルが必要との試算がある。 図1.9に示すように、タワーも、立地条件に合わせて、カモフラージュされている。

筆者自宅の地域をカバーするタワーは、森の中にあり、周りの木々と同じように見える。近所の隼のつがいが巣でも作らないか?やや、気になるが。


Implications of 5G Deployment

図1. 9 5G設置の現状 出典: wireless associations CITA, 5G&Connected Communities, Daniele Loffreda, Ciena


Fiber Broadband Association のCEOであるLisa Younger氏のプレゼンテーションは、印象的であった。図1.10は、毎年、新たに地中埋設ないしは空中に設置されたファイバケーブルの距離に関するデータだ。米国のファイバ距離は、毎年伸びる一方である。近年スモールセルへ接続のためのファイバ距離が急速に増加しており、近い将来、急成長するとの見解だ。2018年度のファイバの埋設距離は、400キロマイル(約64万キロメートル)である。

想像するのが難しいので、他のデータと比較してみよう。例えば、2018年度での、光ファイバ海底ケーブルの全世界における総延長は120万キロメートルと報告されている。(日本経済新聞、ネットの海の道、地球30周分、米中しのぎ削る。2018.10.29)。

2018年度での、米国でのファイバ埋設距離は、図1.10より64万キロメートルだ。地球30週分の海底ケーブルの半分の距離に当たる。この距離のファイバが、米国内において、毎年設置されているのだ。


Total Fiber Deployment at Record Levels And Small Cell is Just Beginning

図1. 10 ファイバ埋設距離 出典: Funding 5G Infrastructure – Fiber, Lisa Youngers, Fiber Broadband Association


ここでは第一ラウンドとも言える、ブロードバンドレベルでの5G技術の事業化を巡り、米国の立ち位置を述べた。さらに、ブロードバンド以降の展開を視野に納めた舞台裏とも言える、社会インフラ構築の実情を述べてきた。

次回では、社会インフラにさらに踏み込み、第一ラウンドの後のラウンドへの取り組みを、述べてみたい。

(続く)

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.