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青の奇蹟(後編)

前編では中村修二の青色LEDの発明に関して述べた。そして、半導体技術で日本人が 世界的な貢献をした例は他にも存在する。1958年にエサキダイオードを発明した江崎玲於奈と1984年にフラッシュメモリーを発明した舛岡富士雄だ。

これらの事例について、日本人は誇りを持って良いと思う。重要なのは種々の束縛に しばられずに自由競争できる環境を作ることであろう。そのような場があれば、日本人が世界レベルの成果を出して大きく貢献できる。半導体ビジネスにおいて、最近は韓国や台湾企業に押され気味の日本国ではあるが、技術のブレークスルーではアジアの中で断然のトップを走っていると、言える。韓国や台湾において江崎、舛岡、中村に匹敵する成果を筆者は知らない。実際、そのような例が存在するだろうか?
江崎は神戸工業の時代に構想を抱き、ソニーの前身であった東京通信工業に移ってゲルマニウムの特異なPN接合を研究した。即ち極端に狭い遷移領域を有するPN接合を創り量子力学的なトンネル効果を電気特性的に目に見えるようにした。結果は負性抵抗を有するダイオードのエサキダイオードが実現した。
その頃の半導体技術は黎明期で、どのような現象やデバイスが出来ても不思議でなかった。その後、残念ながらエサキダイオードは実用性に欠けることが判明したが、世界はその業績を称え、江崎はノーベル賞を授与された。
東芝の総合研究所で研究成果を出した舛岡は、1984年フラッシュメモリーを米国で開かれた国際会議に報告した。その評価は高かったが、日本では東芝を含めてあまり注目されなかった。妙な話だ。日本人が抱える問題の一つは、他人(特に日本人)の業績を正しく評価する力がないことだ。
ただし、今や半導体事業でトップを走る米インテル社が舛岡を追い、フラッシュメモリーを実用化した最初の企業になった。インテルが偉大なのは発明者舛岡に心から敬意を表したことだ。
舛岡に倣ってこの新しいメモリーにインテルはフラッシュの名を踏襲した。一時は不思議なことにインテルが舛岡を賞賛し、東芝が舛岡を冷遇したこともあった。
日亜化学工業と東芝は互いに業態の全く異なる会社だが不思議にも共通点がある。それは優れた発明をして貢献した従業員を、共に十分に評価しなかったことだ。報道によれば共に不満を抱いた発明者が訴えて訴訟沙汰になった。
このことは、大変に残念な事態だと思う。強い立場にある会社側が反省し考えなくてはならないことだと思う。強い者が大人の対応をすることが不可能だったとは、到底思えないからだ。
さてブレークスルーは、雰囲気が大事であることも述べてみたい。例えば1960年代の日本は現在と比べて、不思議にもR&D志向が強い時代であった。
ショックレーが有名なショックレー研究所を運営し、R&Dに専念していた。今から50年前の話である。そこに働いていたゴードン・ムーア、ロバート・ノイスら8人は叛旗を翻しフェアチャイルド・セミコンダクター社を興した。彼らは世界に先駆けてプレーナートランジスタを育てた。そのプレーナ構造とプロセスが後にノイスによる集積回路の発明につながった。
一方、テキサス州ではジャック・キルビーが全く別のアプローチから集積回路を特許出願した。今では集積回路の発明者はこの二人とされる。後に、ムーアとノイスはベンチャー企業のインテルを興した。
これを見ていたのが太平洋のこちら側にいた日本人達であった。時代はMOSデバイスが生まれる前であった。1960年の初頭になってもMOSはなかなか実用化できなかった。日本の若者はそれらの事実に多いに刺激を受けた。
MOSが実用化できなかったのは酸化膜が不安定であったからである。当時、C-Vカーブのデータを最も多く取り続けたのは日本のエンジニアであったといえる。その一人であった山崎舜平も、MOS構造でC-Vカーブにヒシテリシスを見出していた。
山崎が他と異なるのは仮説を立てて、酸化膜中に存在するシリコン・ナノパーティクルが電子やホールのトラップセンターなるに違いない、と考えたことである。そしてこの原理に基づくデバイスをシリコン・クラスタ・メモリーデバイスとして発明し、それを昭和45年に特許出願をしている。山崎の発明はこのように早かった。
山崎はこの発明がフラッシュメモリーの先駆であると考えている(山崎、IEEE第16回強誘電体応用国際会議)。この発明が舛岡のデバイスと異なるのは単一デバイスとランダムアクセス回路の違いであり、数百万デバイスをワンショットのフラッシュのように一度に消去する発想は、舛岡を待たねばならなかった。


大和田敦之 エイデム 代表取締役

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