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フォトボルタイック、古くて新しい市場

PV市場が熱くなって来た。PVはフォトボルタイック(Photovoltaic)という英語の省略形である。別の言い方ではソーラーバッテリーあるいは太陽電池ともいう。最近、PVが新たに舞台の中央に登場して来たのはグリッドパリティが視野に入ったためだといえよう。

グリッドパリティとは何か。これを理解するには、Total Cost of Ownership、すなわち「装置を購入して運営する際に発生する全コスト」から考えるのが良いだろう。一方、PVは発電するのでオーナーには電力会社から売上金が入るようにできる。よって装置の生涯を考えて計算し売上金と全コストのTOCがバランスした時に「グリッドパリティ(GP)が達成された」と称する。GPを越えればPVのオーナーは投資からのプラス収益が得られる。即ち、PV投資はブームになる。

GPをイメージするために数学モデルを考えると次のようになる。

TOC = 電力の売上金 ------------------(1)
TOC = 装置コスト+設置の初期費用+PVのメンテナンス費用+金利+PVの消費電気料金 --(2)

TOCは、装置購入と設置の初期費用に、年に一回のPVのメンテナンス費用、更に金利とPVの消費電気料金を加えたものである。これを賄うために銀行で15年のPVローンを組んで例えば、360万円を調達する。この源資で上記の全費用を支払う。利子込みの均等払いで月に2万円を返却するというモデルで、年に24万円返せるから15年でローンは完済されるのだ。式の右辺は、PVが発電する電力の売上金である。この金額は季節や時間など変動要素が大きいが、初年度売上が27万円、次年度は23万円....等々となる。PVの性能が良く電力売上が順調に伸びて、ほぼ15年後にはグリッドパリティ達成のお祝いが出来ることになる。一部の国々ではそのような時代が間近になってきた。GP達成後は売上金がほぼ全て収入になる。

グリッドパリティは興味深い指標で、場所依存性がある。米国の砂漠地帯アリゾナは、6月に梅雨が来る東京よりも断然有利だ。同じPV発電機が東京でグリッドパリティに達しなくてもアリゾナでは楽勝になったりする。

もう一つ重要な因子はPVの寿命である。これは年々改善され、最近では30年に届くレベルとされている。もちろんGPは寿命期間以内にしか実現しない。即ち、天候が不順だったりすると電力売上が低くなってGPに30年以上要する場合だと、GPは未達に終わる。

ノルウェーのPVメーカー、REC(Renewable Energy Corp)グループのP.バソール氏は今年の新年にSEMIのランチ会合で次のように述べた、「最初は日本の複数の企業が開発をリードしたが、その後は西独とEUのプレーヤーが参入して来た。次にはカリフォルニアの市場が成長する」。雨の少ないカリフォルニアが有利であることを示唆したのだ。

PVに関する報道は過熱していてこれをバブルと呼び、先行きを懸念する人々が出始め、「2010年にはPVバブルがはじける」などと言っている。だが筆者はグリッドパリティの実現が多くの地域で見えて来た今、バブルが2010年頃にはじけることはない、と考えている。PVにとって順風も吹いてきた。原油価格の高騰で1バレル当たり100ドルを越えた現在、原油は高値安定が見込まれる。
結果、火力発電コストは上昇し電気代も高騰するだろう。しかし、PVを導入した家庭では自家発電した電力を自家消費しているため、石油に頼っている割合は低い。しかも、グリッドパリティ 達成後には安い電力を使えるようになる。このため、PVの長寿命化が重要になる。日本メーカーはこの点で外国勢を差別化できるはずだ。

旧通産省は1994年に「サンシャイン計画」を打ち上げてPVを家庭に導入するのを支援した。この結果、わが国のPV導入量が連続世界首位になって2004年には世界のPV生産台数の5割を越えた。だが不思議にも翌2005年、国は補助金制度を打切り、流れを止めてしまった。

一方、ドイツは2006年の統計で900メガワットの市場を育て同年の日本市場(300メガワット弱)の3倍になっていると日経ビジネス誌は報じた。これは上記のように日本政府が補助をやめ、ドイツがFeed in Tariffと称する補助を広げていることに起因する。世界トップだった日本のPVがドイツの3分に1に落ちた。Feed in TariffはPV発電電力を電力会社が通常電力価格より高く買取る法制である。

単位時間当たりの通常電力料金が0.18ユーロ(約28円)に対してPV電力料金は、0.38〜0.54ユーロとするので計算すれば倍率は2.1から3倍になる。だから電力会社はPVが普及すればするほど、高いPVからの電力を、義務として他から購入しなくてはならない、一方通常電力の販売価格は低く抑えられる。こんなことをされてはわが国のPV業界はたまったものではない。従って、ドイツではグリッドパリティがこの法制で達成しやすくなった。ただし、ドイツの電力会社は内心不満のはずだ。

電子ジャーナル誌によると、アプライドマテリアルズ社の担当副社長であるC.グレイ氏は2005年から2010年にかけて「PV市場のCAGR(複合年間成長率)が30%に達するだろう」と、述べた。同社の2007年度のPV事業は7億ドルを越えた。PV市場がますます熱くなる。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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