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大幅な赤字になっているスマートフォンの貿易収支

野村證券が発行する国際金融為替ウィークリー誌、3月10日版は携帯電話(含スマートフォン)の貿易収支を紹介している。それによると大幅な入超であり2007年の輸入超過額が1,500億円だったのが、2012年には1兆円規模になった。製造業で競争力の強い製品がある場合、貿易収支は当然ながら黒字になる。したがって、わが国の携帯電話やスマホは国際競争力に問題がある。

しかしながら、スマホ以前は日本における携帯電話の技術は決して低いものではなかった。モルフォの高尾慶二(敬称略)によると、2000年代初頭の携帯電話機の出荷台数は国内でだが、国産が圧倒していた(参考資料1)。例えば、2003年のデータでは全携帯電話機が5219万7000台あり、うち非写メールの携帯電話機は5078万3000台であった。JEITAの2003年の統計では携帯電話全体として、1年間の出荷台数は5931万台、このうち輸出台数が645万台となっているため、国内向けに出荷された台数は5286万台とみなせる。両社の数字は互いに誤差範囲の数字であろう。

NTTドコモ社は、ケータイを使ったネット経由のビジネスサービスのモデルを1999年に始めた。端末が接続するアクセスポイントとしてiモードセンターを創設した。ここでは、NTTの独占に基づくiモード専用ネットワークを、外部のインターネットに接続する。iモードの使用者には情報料として課金するケースもあった。iモードは、商標として第4303252号に登録された。国内で相当に普及し、筆者はこれが世界に広がると期待したが、その予想は外れた。現在iモードを使っている筆者の友人はいない。

そして、2000年には世界で始めて、我が国でカメラを搭載した携帯電話機が現れた。当時、電話機で世界の技術をリードしたのは、ほかならぬ我が国であったのだ。シャープが型番J-SH04のハードを開発し、後にソフトバンクとなるJ-Phoneが「写メール」のサービスを実施した。「写メール」という言葉も流行した。写真を撮影してそのデータを電子メールに添付して友人や家族に送るという楽しみを味わったのは日本人が最初だったと言える。

2003年頃、来日したアメリカの友人の中には、カメラなしのブラックベリーと称する黒いボディの携帯電話を持っている人が多くいた。彼等は写メールを珍しそうに見ているだけだった。そしてよく負け惜しみを言ったものだ、「携帯電話機はポータブルで通話できてテキストメールが送れれば十分でカメラなど不要だ」。このブラックベリーの携帯電話は欧米のビジネスマンの多くが持っていた。ブラックベリーは1999年に世に出たが、カメラ機能は当時なかった。だから、友人たちは、決して写メールに感心したりしなかった。ソフトバンクはケータイメールにおける画像送受信サービスの名称として写メールの商標登録(第4632735号)を行っている。

上に述べた高尾の調査に基づくと、J-phoneとシャープの2社が2000年の春にカメラ搭載のケータイを着想して協力してコアコンピタンスを出しあって開発した。仕様の決定においても2社間で密接な協力が行われた。

「ケータイはポータブルで通話できてテキストメールが送れれば十分でカメラなど不要だ」、こんな言葉にだまされてはいけない。実はそうではなかった。太平洋の彼方のカリフォルニアにいたマーケッティングの天才は、次世代製品の企画設計開発をすすめ、満を持して新製品を出した。その製品が2007年に世に出た初代iPhoneであり、その開発の総帥は、今は亡きSteve Jobsだ。

天才Jobsは、常に次世代の製品を心に描いていた。「携帯電話が普及すると心配なのはiPodだ。」彼のイメージでは次世代ケータイは必ずや音楽プレーヤーを置き換える…An iPod shuffles on your phone。もし、仮に世界の誰かがそんなケータイを作ったらiPodはおしまいだ。Wired誌の"The Untold Story: How the iPhone Blew Up the Wireless Industry"、「iPhone開発秘話」を読むと、Jobsの主な開発コンセプトは、以下の3点だった。

1 本当に革命的な製品を作る
2 タブレットPCのためのタッチスクリーンを駆使する
3 ARM11チップのパワーで、電話、コンピュータ、iPodの機能を扱う

そして、iPhoneはカメラ搭載でタッチスクリーンの画面を大型にする。2007年6月にiPhoneは全米で発売された。その後、世界に広まった。ARM11は、英国アームホールディング社のチップで独自のRISCアーキテクチャを使ったプロセッサだが、低消費電力を実現していて携帯機器に向いている。よく知られるようにiPhoneこそが世界最初の本格的なスマートフォンであると言っても過言ではないだろう。その後携帯電話の市場は、スマホを中心に成している。スマホではない前世代のケータイは、ガラパゴスケータイと揶揄されている。

スマホの大きな波及が市場に与えるマイナスのインパクトがある。それはデジタルカメラだ。デジカメの世界出荷台数は、既にピークを過ぎ、下降が始まった(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140317/261279/参考資料2)。少し考えると当たり前だ。携帯性に優れたスマホを持ち歩けば簡単に写真が撮れる。撮った写真はメールに添付してPCに送り付ける。後で見直して気に入らない写真は捨てる。残った写真をPCでアルバムのアプリで編集したり保存したりできる。PCを持たない田舎のおばあちゃんには印刷して紙で送ることも可能だ。即ちケータイよりも重くて大きなデジタルカメラを持ち歩かずに済む。ケータイならどうせ持ち歩くうえに、薄くて軽い。デジタルカメラメーカーにとっては怖い話だ。

そしてJobsは知的所有権にも全力を傾注した。知的所有権において、特許を1,290件と多く獲得している。中味は、iPhone全般416件、カメラ279件、ユーザインターフェース232件、イメージ、ディスプレイそしてスクリーン関連149件、バッテリーパワー制御88件、などだ。このアップル社を追いかけて世界市場で戦っているのが韓国のサムスン電子で、そのスマホGalaxyを世界中に売りまくっている。3月24日付けの讀賣新聞はその模様を報じている。筆者の調査では、最初に特許侵害訴訟を起こしたのは2011年春、Jobs存命中のアップル社だ。現在、訴訟は解決の道が見えないほど泥沼化しているが、Jobsはその行く先を見ないまま同年10月5日亡くなってしまった。

上記の讀賣報道は現在のスマホ世界シェアを報じている。それを引用すると、サムスン電子 31.3%、アップル 15.3%、ファーウェイ 4.9%、LG電子 4.8%、レノボグループ 4.5%、その他 39.3%としている。我が日本企業はその他に分類されているのだろう。筆者の勉強不足もあるだろうが、我が国企業がスマホ市場を世界で制覇するべく努力した形跡は見えない。冒頭に述べた大幅な赤字になっているスマホの貿易収支がそうなったのは、当たり前の結果なのだ。

蛇足だが、我が国の半導体の貿易収支は黒字なので、貿易収支にプラスの貢献をしている。国の貿易収支は、全輸出額から全輸入額を引いて計算する。原子力発電が止まって火力発電が増加したなどの原因が特定され、昨今の結果は国の貿易赤字が大きくなっている。2月末の時点で20カ月連続赤字だが、長期に渡ると問題が生ずる。政府の赤字国債を国内で消化できずに海外に流れて多く買われたりすることが顕著に起きなければ、問題は大きいとはいえないと考えている。


参考資料
1. 高尾慶二、モルフォ カメラ付き携帯電話誕生秘話
2. 坂田亮太郎 デジカメ王国は座して死を待つのか


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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