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パワー半導体で世界をリードするニッポン

次世代リニア新幹線などの車体を制御するパワーエレクトロニクスでは、大きな電気的負荷を駆動することが求められる。負荷に大電力を印加し、かつ停止するスイッチ動作を行わせる必要がある。そのためには、MOSFETなどのスイッチング素子が有効であろう。

1,000Vを越える高電圧の場合は炭化珪素(シリコンカーバイドSiC)で作られたMOSFETが検討され、実用に到る見込みだ。炭化珪素はシリコンと比べて高耐圧のみならず高温という過酷な環境でも優位である。しかも熱伝導度においてもシリコンを大きく越える。我が国の半導体業界はSiC MOSFETにおいて先進的であることは、2009年のこのセミコンポータルの記事(参考資料1)でも見られる。

高温特性の理由は、禁止帯の幅にある。即ち、シリコンのバンドギャップは1.1eVなのだが、炭化珪素のそれは4H-SiC型結晶の場合、3.26eVと高い。それ故に周囲温度によって励起される少数キャリアは大幅に少なくなる。結果は、シリコンの場合の動作温度150度に対して炭化珪素では200度を越える高温動作が可能になった。そして高い禁止帯幅は高耐圧特性をもたらす。四戸孝氏が執筆した東芝レビュー誌(参考資料2)によると、炭化珪素の3種の結晶型のうち六方晶系の4H-SiCは、上記に示した大きなバンドギャップに加えて、1,000 cm2/V・secとシリコンに近い電子移動度をもっている。このため、4H-SiC型炭化珪素結晶のMOSFETが有利である。

半導体材料は、よく知られているように電力制御などに最適なデバイスを生み出せる。もちろん、半導体を越える電力制御デバイスは現時点で存在しない。半導体販売ランキングで上位にあるインテル、TSMC、クアルコムなどはパワー半導体においては市場で競争できるデバイスや技術を保有していない。海外で炭化珪素デバイスの開発で知られている企業はドイツのインフィニオンだ。同社はシーメンスの半導体部門が独立した会社だが、炭化珪素の接合型(J)FETとショットキーバリアダイオードを販売している。

パワー半導体において今後はMOSとJFETが陣取り合戦をするだろう。筆者は偏見かもしれないが、以下で述べるトレンチ形状をU型構造にして耐破壊性を高めた日本の技術が勝利すると考えている。この構造は電界を分散して集中しない工夫があるので破壊に対して先行技術に比べて有利だと思う。しかし、インフィニオンのJFET については内部構造がわからないのでトレンチの優位を強く断定できなくて歯がゆく思っている。

10月22日、日本経済新聞は三菱電機が作った次世代型MOSFETを紹介した。MOSFETの優れた特性で電力損失が抑えられ節電に大きく寄与できる。しかしながら破損の問題があって過去には実現しなかった。この記事によれば、三菱電機は新しい技術を開発し600V以上の高電圧を問題なく、数十nsの短時間でオン/オフする実験に成功している。デバイスの内容は特許の明細書に公開されているはずだ。

公開する法的根拠となる特許法の第64条には、「特許庁長官は、特許出願の日から1年6月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない」と定めている。公開する目的は何か?発明を出願した技術に限定してその個人もしくは会社に排他的な独占権を与える見返りがあるからだ。この公開によって、最先端技術を無償で学ぶことができる。したがって特許法はテクノロジーの発展を加速させる。公報から学んだ人は触発されて更に高度の発明をすることになるかもしれないのである。

この公開制度のお蔭で、筆者のように無知な輩も高度な発明の内容を学ぶことができる。筆者はウェブで特許電子図書館を調べて当該発明と考えられる公開公報を読んだ。発明の特徴はゲート電極がU字型のトレンチに埋め込まれたトレンチ絶縁ゲート型半導体装置(MOSFET)であり、構造は縦型であることがわかった。

トレンチは1990年頃DRAMなどのLSIに多用されて広まった。半導体製造技術において世界で最初にトレンチを導入して米国特許の明細書で公開したのは、IBM社だった。1974年5月、バイポーラトランジスタの製法発明だ。我が国のトレンチを含むデバイス構造の発明は1991年なので1970年代〜1980年代の米国における集積回路技術は優れたものが多々あったと言うべきだ。

三菱のトレンチゲート型の発明の要は、製造方法が比較的にシンプルで製造しやすい点のみならず、ゲートに加える電界がそのU字構造に助けられて分散し、集中しないようになっているため、破壊されにくいようだ。

三菱だけではなく、ニッポンの精鋭ローム並びにデンソー(参考資料3)においても炭化珪素デバイスが開発されていて、頼もしい限りだ。当たり前だが半導体ランキングで上位でなくてもこれらの会社が世界の繁栄に寄与している度合いは偉大なものがある。

参考資料)
1. シリコンカーバイドの登場 (2009/12/11)
2. 東芝レビュー Vol. 59 No.2, 2004
3. ンソーテクニカルレビュー Vol. 16 No. 8, 2011

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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