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300億トランジスタからなる1チップ LSIは脳に匹敵

8月15日は、第68回の終戦記念日だ。よく言われて来たことだが、ほとんど焼け野原の状態から我が国の復興は始まった。強い日本のベンチャー企業が何社も立ち上って来た。例えば、パナソニック、ソニーそしてホンダなどの企業は、ゼロからスタートし、今や大企業として世界的に活躍している。そして戦前から続いて来た重化学工業と共に、早い段階でアジア最強の経済を作りあげた。

昭和39年にはアジアで初の東京オリンピックが開催された。このオリンピックは当時史上最大級の94カ国、7500名の選手、役員が参加し大きな成功を収めた。他にも戦後の復興を示す事象は多い。世界初の時速200kmを達成した新幹線。信号が取り払われそのために高速で走ることを可能にしたアジア初の高速道路網など。このアジア最強の経済は、三菱、日立、東芝、NECなど半導体メーカーの躍進も加わり1990年頃まで続いた。このように成長し進展した昭和30年代を懐かしむ声は多い。

ただ、バブル崩壊後の経済はスローダウンし最近の日本メーカー群は、自動車とその関連を除くと、一般論であるが停滞気味であると言わざるを得ない。半導体などの日本のメーカーは技術レベルが高く開発力もあるのだが総合的経営力に問題があると筆者は感じている。マーケットが欲する製品を迅速に大量販売して市場での占拠率を高め新たな製品を市場に投入し続ける経営力が必要だ。1990年以降に台頭した海外メーカーの三星やTSMCなどは日本の同業を凌駕する発展を示し現時点でその勢力は衰えていない。

日本にも、上記の3社と同様にゼロからスタートし、大きな成長を誇る旬の企業が現れた。それは製造業ではないが、このセミコンポータルの記事でも取り上げたソフトバンク社だ(参考資料1)。

そのパフォーマンスを時価総額で見てみたい。時価総額とは、株式市場におけるある会社の株価に株式総数を掛けた金額。その企業が理論上は市場で株を通じて購入できる金額である。このため、これは会社のスケールを通貨に換算する有効な指標である。日本経済新聞社が提示するデータによれば、ソフトバンクは今年8月初旬のオールジャパンの時価総額ランキングでは第3位だ。1位がトヨタ、そして2位の三菱UFJ銀行が続いている。ソフトバンクの時価総額は、約8兆2845億円だ。時価総額で見る限りソフトバンクは、JT、NTT、ホンダ、日産、JR東日本、日立そして東芝、NEC等の一流どころを大きく超えている。

上記セミコンダクタポータルの昨年12月の記事は、ソフトバンクが米国通信オペレータ第3位のスプリント・ネクステル社を買収する案件を分析していて大変に興味深い。買収の結論は7月11日に出た。紆余曲折あったが買収は成功した。社長の孫正義(敬称略)は、7月23日都内で講演し買収に関してその成功の結論のみを簡単に述べた。簡単にしか言わなかったのは理由があって次の内容を詳しく述べるためだった。

講演で孫は半導体技術の近未来を予測している。人間の脳細胞をトランジスタに換算して300億個相当になると述べ、1チップLSIが搭載するトランジスタの数が300億個を越える時点を2018年としている。即ち、今から5年後だ。このように孫は半導体技術を信頼し、かつ大きく期待している。LSIがこのような規模になった暁にはどんなインパクトを社会に与えるのだろうか?講演の主旨はむしろこのテーマにあった。2018年に達成される300億トランジスタで構築する1チップLSIは将来の重要なテーマである。孫は、迷った時ほど遠くを見よ、と心から考えている、と話した。だから遠くを見ている、例えば30年後の世界はどうなるかを考えている。いま、50歳以下の人なら健康に生きて30年後を経験できるはずだ。

それによれば、30年後にはCPU上のトランジスタ数は、今の100万倍の3000兆個。メモリ容量は、今の32GBの100万倍で30ペタバイト(ペタは10の15乗)。通信速度は、今の1Gbpsの300万倍で3ペタビット/sとなろう。

30年後の実力を3万円のデジタル端末でコンテンツ保存すると考えると、楽曲は、現状1.2万曲だが30年後には5000億曲が保存できる。新聞の保存は、現状8年分だが、計算上3.5億年分が保存可能になる(注1)。ドラマ(動画)の保存は、現状8時間分だが30年後の将来は3万年分になる(注2)。

この結果、ネットのスピードは超高速になり、かつ実現するクラウドの数や容量は、事実上、無限大と考えてよい。ライフスタイルは劇的な変化を遂げるだろう。30年後はかくもすごい世界がやって来る。

孫によれば「挑戦する者にのみ未来は開かれる」としている。ソフトバンクの成功はこの挑戦する精神が原動力になっていると筆者は感じている。

筆者注1)3.5億年は意味がないが仮に世界中の重要な新聞1,000種から過去の記事100年分をデジタル保存できるか?と、考えればその累計は100,000年であって可能になる。
筆者注2)これでは意味がないのでドラマの動画一シネマ当り2時間のモデルで考えると、3万年分は、シネマの数1億3140万本になる。世界中の過去の全シネマは録画しても十分に余裕があり、人々はそこから選んで映画を楽しめる。

参考資料
1. ソフトバンクの米通信企業買収の分析記事相次ぐ (2012/10/22)

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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