セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

新素材グラフェンを用いたトランジスタに期待

グラフェン(Graphene)と称する新材料の応用研究が熱を帯びて来た。その名は炭素素材のグラファイトに由来し語尾のeneは二重結合を意味する。グラフェンはゲルマニウムやシリコンと同じ周期律表の四族である炭素のみで構成されるが、ダイヤモンドとは大きく異なり3次元結晶体ではない。

その構造式はベンゼン環から出来ている。ベンゼン環は、よく知られているが6つの炭素原子から成り炭素—炭素の共有結合は一つおきに二重結合であり、すなわち一つおきに一重結合になっている。そのベンゼン環を2次元平面に結合させて広げて展開するとグラフェンになる。グラフェンはモノレイヤーである、即ち炭素原子一層のみの薄いシートである。したがってグラフェンは2次元原子結晶などと言われることもある。その対称性は大きいので安定な薄膜であろうことが想定される。諸文献ではその厚さが0.38nm、かつ原子間距離は、0.142nmとされ、シリコンなどと比べても原子間距離の値は小さく緻密な素材であることが想定される。

グラフェンのバンドギャップはほぼ零とされる。したがってその電気伝導は金属に近いモードである。電流を運ぶ電子の移動度は驚くほど大きく15,000cm2/Vsほどもあり理論的な結果と矛盾しないことが報告(参考資料1)されている。一方で超LSIに多用されるシリコンは電子が1500 cm2/Vs、正孔が600 cm2/Vsである。驚くべきはP型グラフェンでは正孔の移動度も同様に高く15,000 cm2/Vsである。このためデバイスが作られればその高速性が期待される。

高伝導率が特徴のグラフェンはLSIの配線材料として適性がある可能性があると筆者は思う。もちろん、薄膜のままでは厚さが不足していて電流を流す断面積が大きくならないため積層化することが必要になるのだが。移動度が高いゆえに電子が原子と衝突する事が少ないためエレクトロマイグレーションが少ないと考えられる。緻密な特徴も耐マイグレーションを高めるだろう。さらにグラフェンの場合、銅はもちろん、銀をも超える高伝導度ゆえに比較的薄い配線材料に使えるだろう。LSI配線は薄ければ段差が小さく好都合だ。

現在アクティブマトリックスLCDには透明電極としてITOが使われている。ITOはインジウムと錫の酸化物であるが透明で高い電気伝導性を保有する。ただしITOの難点はインジウムがレアアースであって我が国では産出しない。もとよりレアと言われ、世界でも産出が少ない。レアアースはある国では産出するが戦略的に輸出禁止をしていて、一般論だが、我が国が入手するのは容易ではない。しかし、グラフェンにはその問題がない。

透明性が高くないグラフェンだが、高い伝導度ゆえに薄いまま使えれば可能性が出て来るかも知れない。サムスンは名城大の飯島澄男教授と連名で130μm厚のグラフェンのシート(参考資料2)を作って発表した。シートに電極材を印刷して切断しタッチパネルを作った。光透過率は97.4%に達している。別に作った4層の積層フィルムは光透過率がおよそ90%であった。この値はITOを越えていると、報告者らは主張している。シート抵抗値も単位断面積30Ωが得られた。

英国マンチェスター大学の研究室では最小サイズのトランジスタ(参考資料3)をグラフェンで実現しようとしている。サイズは分子並みとしている。近年ムーアの法則からの乖離も見られシリコンデバイスのサイズを減らす難しさが散見されるようになって来たのは周知の事実だ。グラフェンの層は単一炭素原子膜で薄い。公表の仕方が巧みでよく解らないが彼らの目指すトランジスタは厚さが一原子層で長さがグラフェン二次元結晶で10原子程度を目指している。ここでぶつかる難関は、上述のようにグラフェンのバンドギャップがゼロである事実だ。バンドギャップがゼロでは金属なので半導体ではない。どうしたら解決するか?問題の解決を目指してマンチェスター大学の研究室ではグラフェンを引っ張った、即ち引張応力を加えて見た。結果バンドギャップはゼロから有限な値に変わった、としている。これによって科学者らは最小サイズのトランジスタがグラフェンで実現すると期待している。

富士通研究所は昨年11月27日のプレス発表で「大基板全面にグラフェントランジスタを低温で直接形成する技術を開発」したと発表した。要旨は、次世代トランジスタの材料として期待されるグラフェンを、一般的な半導体製造プロセスであるCVD法を用いて絶縁基板上に低温で直接形成する技術を開発し、大基板の全面にトランジスタを形成することに世界で初めて成功した。開発した新技術により、大基板の全面にグラフェントランジスタを形成することが可能になり、形成したトップゲート・トランジスタのドレイン電流のゲート電圧依存性はグラフェンに特徴的な両極特性を得た、というものであった。

そして、IBMはグラフェン膜で高速で動作するトランジスタを作製し、そのデモ実験の結果を報じた。IBMの方法はSiCのウェーハを使ったことに特徴がある。具体的には秘密のようだが、熱分解によってSiCの表層のシリコンを除去し表層には炭素だけを残す。残ったカーボンはSiCウェーハ上でグラフェンになるのだ。作ったトランジスタはMIS型電界効果トランジスタであり金属のトップゲートの下にはポリマー由来の高誘電率絶縁膜を配備した。ゲート長は240nmとそれほど微細ではない。シリコンの場合240nm長のゲートでは遮断周波数40GHz程度がトップデータだが、初期のグラフェントランジスタでも同様な値が得られた。科学者らは最適化をすることでグラフェントランジスタは最新の報告では遂に100GHzの成果(参考資料4)を得ている。

グラフェンはバンドギャップゼロなので金属伝導特性をもつためマンチェスター大学では苦労している。一方、富士通やIBMはその難問を解決しているような気がする。
世界でグラフェンの実用化を競い始めている。日本が負けるわけには行かない。


参考資料:
1. Akin Akturk, et. al., J. Appl. Phys. 103, 053702 (2008)
2. http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100622/183669/
3. http://www.manchester.ac.uk/aboutus/news/display/?id=3529
4. http://www.newscom.com/cgi-bin/prnh/20100205/NY50316

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.