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中国に見る、世界を狙う科学技術の進展

私はつねづね、日本のITそして半導体業界で働く若者の活躍に期待している。アメリカなどのIT・ハイテク企業で働く若者の活躍を見聞きすると日本の若者にも大きな期待がかかる。若者が大活躍しない国では半導体などハイテクビジネスの将来に期待が持てないのだ。

政府発表では2010年1〜3月期のGDPは年率換算で4.9%増になり、この値は高い。この大きな値に貢献したのは中国などの新興国向けの輸出が増加したためと専門家は言う。これ自体は好ましいことだ。しかし、4.9%の値は瞬間風速であって安定的にたとえ数年ですら連続してこの値が続く訳ではないと考える。理由は、経済の先行きを示す株価は冴えない上に、日本だけが先進国の中でデフレになっているなどである。

2008年末の世界金融危機で冷えた半導体需要が、今年になってその反動で増加しているのが今年のすう勢だと専門家である友人が話してくれた。このため、直近の半導体市場は盛況である。経営者はまず残業を大幅に増やし、従業員を多いに働かせる。残業代が増え従業員の可処分所得は増加するだろう。それでも注文に追い付かないほどの需要が押し寄せたら、経営陣は需要の継続を見極め、継続が見込まれたら契約社員などを増やすことになる。売上が増え利益もある程度増えるだろう。市場では半導体企業の株を買う人が増えるかもしれない。

しかしながらこの好況は一時的だろうと考える。半導体を含む日本の長期的な経済停滞が止まらないのではないか?NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併しIDMの数が減った。わが国のデフレの問題と株安の現状、そして学卒の低就職率に現れている経済の現状などもその要因となる。

長期的に安定して半導体を含むハイテクやIT産業が隆盛を続けるためには新しいパイ、即ち新製品を作って大勢の顧客に消費させることが肝要であることは明らかである。昨今のアップルがiPadなどを開発、繁栄の道を走っているのを見るとますますそう思ってしまう。日本企業はアップルなどに負けずに若者が中心になり新たなパイを調理して市場に登場させて欲しいと願う。

1980年代後半のバブル発生と1991年のバブル崩壊以降、日本経済は長期的に低落している。しかしながら当時はインターネットが大きく認知される、その黎明期だった。

その頃、台湾からの移民の青年、楊致遠はシリコンバレーの中学と高校を卒業した。英語で苦労したが成績は良かった。楊はスタンフォード大学の学士と修士課程を優秀な成績で卒業した。そのうちにインターネットの重要性に気付きネットでは検索が必須になると考えるようになった。スタンフォードの博士課程を自分でドロップアウトした楊は1995年に検索技術をビジネスモデルとしたポータルの会社を創業した。これがYahoo!であり米国では、Jerry Yangとして楊は知られるようになった。博士になるよりYahoo!を経営することを優先させたのだ。ヤフーはポータルとして日本ではそのアクセス数がトップの地位にある。日本ではポータル型のホームページ(HP)は人気がある。グーグルのHPはヤフーと比較し簡潔に過ぎてヤフーよりも人気が低くアクセスが少ない。検索なしではインターネットは役に立たない。インターネットが提供する高いビジネス生産性を、筆者は高く評価している。

インターネット利用に於ける日米の違いは大きい。当時、日本の指導層は検索どころかインターネットは使えないと切り捨てていた。そのことを認めた例として、野口悠紀夫教授に見てみよう。先生は東大、一橋大、スタンフォード大そして早大などの教授を歴任された日本の代表的な指導者であり著書も多い。1996年、先生は東大でネットスケープというブラウザを使っていたが、「インターネットは遅くて使えない」と、評価した。日本の知性の最先端を行く先生がこのような誤ちを犯したと著書「アメリカ型成功者の物語」の中で告白しているが、勇気ある発言である。これを読めば当時の上場企業のトップなどは推して知るべしであって、日本はインターネットの進展で最初から大きく遅れた。事実、2008年のITU(International Telecommunication Union、国際電気通信連合)の統計でも日本のインターネット普及率は低く、スウェーデン、オランダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スイス、韓国、イギリスそしてカナダなどより遅れていて世界ランクは15位である。

ITやハイテクの遅れを取り戻す戦略を作り上げ果敢に実施しないと、国の負債が膨大な日本国は大変なことになる。中国は本気でハイテクに邁進し始めたと筆者は見る。例を2点挙げよう。

その一つはスーパーコンピュータだ。サンノゼマーキュリーニューズ紙5月31日電子版は、中国広東省深圳に所在するNational Supercomputing Centerが開発したスパコンThe Dawning Nebulae(夜明けの星雲を意味する)が1.27ペタFLOPS(ペタは10の15乗を表す。FLOPSはfloating point operations per second )の高速演算を安定に実行した、と報じた。同紙によると、この実力は年に2回更新される日米欧の最新スパコンリストで2位にランクされるものである。成果はドイツ国ハンブルグ市で5月末に開催された国際会議で発表された。日本のITMediaも6月1日に、「世界最速スーパーコンピュータのTop 500ランキングで、中国のシステムがIBMを抜いて2位にランクインした」と、報じている。 世界一は米クレイ社のスパコンであるジャガーで1.75ペタFLOPSだ。マーキュリーニューズ紙は、昨年5位であったThe Dawning Nebulaeが本年2位に浮上したことで、中国のやる気と実力を警戒している。TVのニュースでは政府の事業仕分けで若い国会議員が日本のスパコン開発費を縮小したいとの思惑から「2位ではなぜダメですか?」と、尋ねていた。国際間競争を知らない無邪気な質問でこのような態度では2位は望むべくもないと、筆者は断ぜざるを得ない。日本がトップに立てたのはアースシミュレーターと名付けられた国産スパコンだが一昔前の2002年のことだ。

中国の元気、その二は神舟と名乗る有人宇宙船だ。電子ニュース紙のJapan Press News 2008年9月28日版は次の記事を発表した:
 【北京28日共同】中国初の船外活動を成功させた有人宇宙船「神舟7号」は28日午後5時37分(日本時間同6時37分)、約68時間半の飛行を終え、内モンゴル自治区に着陸、無事に帰還した。3人の宇宙飛行士の健康状態はいずれも良好で、神舟7号の飛行は成功した。

高度に戦略的な仕事をする中国が有人宇宙船を開発して有人宇宙飛行に成功したのは世界でソビエト連邦、アメリカ合衆国に次ぐ3番目で、42年ぶりとなったのだ。紅衛兵と呼ばれた政府公認の破壊部隊が文化を破壊した文化大革命を経験した中華人民共和国はその混乱が1970年代前半まで続いた。だがそれ以降は、豊かになってきた国の資産をバックにその発展が目覚ましい。

高等教育によって有為な若者を育てることに成功し、彼らが国の発展に貢献していると思われる。財部誠一氏のブログ「ビジネス立体思考」6月2日版は、財界人のつぶやきを引用している。「中国の胡錦濤―温家宝コンビは、賢人政治の象徴です。国民から信任を得て誕生した政権ではないけれど、彼らは13億人の民をまとめていくことの難しさをすべて了解したうえで舵取りをしています。韓国の李明博大統領はもともと優れた経営者であり、強いリーダーシップで国をマネージしている」など。科学技術発展競争において、日本が負けるわけに行かない。そのためには若者が活躍できる場をもっと作るべきだ。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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