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スマートグリッド、追いかける日本

7月7日の記事で筆者は「スマートグリッドは半導体の新しい市場になるか」を論じた。スマートグリッドの情報は最初米国から発信された。これは半導体の大きな市場となることができると、筆者はますます考えるに到った。さて、わが国の状況はどうなっているのだろうか?

日本では関西電力が立ち上がる。その広報担当者(プライベートコミュニケーション)によるとスマートメーターの実用化試験が2010年から開始される予定である。同社は大阪府堺市やシャープ、蓄電池開発会社のエリーパワー(東京都)などと協力して2010年度にもスマートグリッドの実証実験を実施すると述べた。太陽光発電システムを設置した堺市内の住宅と同社実験室をインターネットで結ぶ計画だ。

その実験家屋の電力ユースポイントにデジタル積算電力計の試作品を設置し電力使用データを自動的に読み取る実験である。実験では現行のマニュアル計測器と読取値を厳密に比較できるはずだ。デジタル積算電力計が日本中のユースポイントに使われれば大きな半導体市場になるだろう。将来は米国や中国でも日本製のデジタル積算電力計が多数導入されるように目指すべきだろう。

関西電力はその実験グリッドに蓄電池も導入する。実験家屋の太陽光発電が出力する電力を商用電力網に供給すればその分の電力を販売できる。ただし太陽からの発電電力は直流である上、曇り空などでは不安定になる。このためどうしても蓄電池とインバータが必要になる。

蓄電電力が十分に得られた時、半導体インバータを使って交流を発生させ、その電力を商用電力網に供給することができる。この時、商用電力とインバータからの電力の位相を同じにする必要があるが、それは半導体センサー回路が得意とする所だ。家庭で余った太陽光発電の電力を将来は堺市内の次世代型路面電車(LRT)などに供給する計画もある、とのことで期待をする。

電気自動車も蓄電池電源に

もし上記のようなシステムに電気自動車を持込み、電気自動車の蓄電池を流用してもよい。家人は電気自動車を充電モードにすることもできるはずだ。充電が終われば電気自動車は使える。夜間の充電は太陽発電が使えないから商用電力を使うことになろう。

関西電力の実験は第一段階では成功するような気がする。理由は、現在のわが国の技術を使えば大きな障害が考えにくいからだ。すると10年くらいで新しい家庭配電設備(ホームグリッド)が実現すると筆者は考える。即ちホームグリッドとは現行の家庭配電設備に加えて太陽発電システムを接続しインバータと蓄電池を備える。他に充電回路を有し太陽発電の直流を蓄える、あるいは商用の交流を直流に変えて蓄電池を充電する。電気自動車向けのポートも備えるのである。

このようにして上記をまとめて見るとホームグリッドではエネルギーは両方向に流れる。従来と同じ電力購入の流れと、新しく太陽光発電の電力を販売する時のエネルギーの流れであり、後者は前者と逆向きになる。そして第3のケースは充電である。充電時の電力エネルギー源は太陽と商用電力の二つの場合が存在する。

そして蓄電池は2カ所に置くことになろう。第一は電気自動車で第二は固定電池だ。この状況で家人が何をしたいか。明日使う電気自動車に充電するのか、あるいは販売するために固定電池から電力を放電するのか、などの選択肢が考えられる。

こうして見るとホームグリッドシステムの動きは単純ではないのでセントラルプロセッサエレクトロニクスが必要になるだろう。セントラルプロセッサエレクトロニクスは半導体の独壇場であると考えるべきだ。日本はこの市場を果敢に取りに行って欲しい。

野村證券はこの7月22日に「スマートグリッド… 国の取り組みでは劣るが、技術力では決して譲らない」を、発表した。その中で蓄電池や超電導ケーブルといった分野は日本企業が優れた技術を持つ旨を指摘した。日本は1990年代電力網に積極投資をした結果、効率や信頼性が世界一であり、雷王国なのにもかかわらず停電は最も少ない国であるという。このため大勢の意見の中にはスマートグリッド不要論もある。その結果、現状では欧米に遅れてしまう。このままでは法制の整備や技術標準化で取残される心配がある、とする。

沖縄でグリーン・ニューディールの実験を提唱

一方、東大の宮田秀明教授のグループは沖縄で電気自動車を実用化するための社会実験を始めた。 教授の考えではグリーン・ニューディールの新しい動きとは最初は行政が主導し、次の段階では徐々に民間のビジネスとして成立させ、5〜10年後にはこの分野の民間ビジネスが成長していくようにすることが成功につながる。このための経営力とノウハウや知的財産が一番大切になるので、これを他国に先駆けて実際に養ったり創造したりすることが、国際競争に勝つために重要であり、その舞台として沖縄が日本国中で最適の地域になるのだそうだ。

このビジネスモデルでは、まず観光県沖縄にある約2万台のレンタカーを電気自動車に替えていく。そのためにレンタカー会社とホテルに充電スタンドを設置し、県内に50カ所ほど急速充電スタンドを作る。細長い島だから設置の問題は難しくない。

同時に行うのは、自然再生エネルギー利用の推進、即ち風力発電と太陽光発電の施設を建設する。近いうちに返還される普天間基地は4.8平方キロメートルの面積があり、ここを自然エネルギー発電基地にしただけで、沖縄の電力需要の3〜4%を賄うことができる、とのことだ。もちろん、自然エネルギー発電の最終的な効率は二次電池を利用して蓄電することが必要であることは、上述の関西電力のケースと同じだ。

宮田教授は、グリーン・ニューディールの国際競争では、ビジネスモデルの創造競争に勝つことが一番大切とするが筆者も同感である。そのためには日本の技術や知的所有権が広く世界で使われる必要を強調したい。他国で類似の発明がなされ国際的な協議が進み、他国の技術が世界標準になれば日本モデルのスマートグリッドは世界に広がらずに日本国内だけの市場になる。最も知られた卑近な例は携帯電話のiモードとハイビジョンテレビである。この轍を踏んではいけない。そうならないように官民が英知を絞り戦略的な進め方を編み出さなくてはならない。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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