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スマートグリッド、スマートメーターは半導体の新しい市場になるか

スマートグリッドの開発が始まっている。スマートグリッドとは、「電力供給をおこなう新しい技術であって、エネルギーとコストを節約しつつ、ITや通信技術を用いて供給者と消費者の間にある問題を全体最適化するシステム」とここでは定義して見よう。スマートグリッドは半導体の新しい市場になるのだろうか?

まず開発の背景にある事情から述べる。昨年の夏、シリコンバレーで車を運転中の突然の出来事だった。信号が四方向全てにおいてあたかも発振しているようにフラッシュ状態になって驚いた。これは電力会社が停電時に処置する非常手段だ。シリコンバレーではこのところ10年ほど、夏に停電が発生するのは何も珍しくない。理由ははっきりしていて電力需要に供給が追い付かないためだ。住宅やオフィスが増加しそれにつれて電力消費も増加している。電力消費はクーラーやTVなど生活面のみならず、オフィスで使用するPCやOA機器そして大きいのはサーバーで発生する。

サーバーは大量の半導体を搭載していてサーバーが増えるのは半導体産業にとって大変に好ましいことである。サーバーの増殖はITの進化にも起因する。YouTubeなどの流行で動画の利用が急拡大している。動画をアーカイブサーバーに大量に保存しておきユーザーからのデマンドで配信する仕掛である。動画は静止画と異なり、データ量が膨大で1秒間に30画面を包含する。

サーバーの数を増やしている更なる理由は、クラウドとSaaSの躍進も無視できない。SaaSとは、ユーザーがソフトウェアをインストールしなくとも事業者がブラウザを使って同等のサービスを提供する仕掛である。クラウドは文字どおり雲であってイメージとしてはSaaSやサーバーが雲の彼方にあるので、利用者は基本的にはPCとブラウザそしてネット環境があれば表計算などのソフトを購入せずに使用できる。利用者はPCと接続機能さえ管理すればネットを通じソフトを使えるという気安さがある。すなわち、クラウドとは大きなネットワークである。

世界レベルのサーバー設置台数について、今年1月29日都内での講演でIBMが発表している。それによると1996年は550万台であった設置台数データはきれいに右肩上りを示し2008年には3500万台になった。この勢いはすさまじくCARR(累積年間成長)で12%を越えている。サーバーはMPUやDRAM、それにフラッシュメモリーなど大量の半導体を使う半導体の重要顧客だ。

もちろん、ITシステムを停止できない企業にとって、万全の電源対策は欠かせない。電源障害によってシステムがダウンすると、業務がストップするだけでなく、コンピュータ機器のデータ損失やハードディスクの破損を引き起こし、企業活動に深刻な打撃を与えかねない。このような情勢のもと、次世代電力網への期待と高まりは当然と言える。

ハイテク企業が集積するシリコンバレーでなぜ不安定な電力事情が放置されて来たのだろうか?短期的に十分に料金収入が増えないと見ている電力会社は投資効率の観点から新たな発電所を作ることに前向きではない。しかしスマートグリッドなら問題の解決になりそうだというので、その開発機運が高まってきた。米国は国土も広く送電網への投資は難事業であり過去に十分な投資が行なわれなかった。米国ではそもそも、電力網の老朽化という問題もあり、「どうせ新しくするのであれば、より進化したものに」という発想もあったのだろうと考えられる。

停電を起こす電力欠乏地帯がある。一方同時に、電力余剰の地帯もある。スマートグリッドではITや通信技術で電力需給をうまく制御することに期待が集まる。余剰地帯の電力をリアルタイムで欠乏地帯に送電できるのだ。日本経済新聞6月30日朝刊は米政府の動きを報じた。

商務省とエネルギー省が共催で会合を開いた。招かれたのは電力会社はもちろん、通信やハイテク企業のうち日本からも招かれたらしい。何を話し合ったか?参加各社が勝手にバラバラに動かないように技術標準化を先行させるというのだ。これは当然だ。グローバルスタンダードから外れたら惨めな結果になるのは日本の携帯電話が良い例だ。世界一の技術レベルなのに輸出貢献がほとんどない。理由は簡単で、高額な上に広い世界の規格から外れている。もちろん日本では問題なく使える。世界で売りまくるには、技術標準化はこのように重要である。

スマートグリッドの基本はデータ収集にある。そのためにはスマートメーターが使われる。だが日本も米国も現状は事務所や家庭など電力のユースポイントにアナログの積算メーターが配備されている。東京電力は社員を派遣し毎月この積算計を読ませてデータを集積し各月の電気代集金の根拠とする。この時代に人海戦術で大変なことをしているのである。これをIT化したらどうなるか?スマートメーターの役割を次のように考えよう。まず電力積算値を自動読取させる。ラストワンマイルの地点に送受信機を置き、数百数千の家庭から電力積算値やIDを自動的に読み取った後、無線インターネット経由で電力会社などのサーバーに送り蓄積する。電力会社はその集積されたデータをインターネットで読みにいく。こうすれば人海戦術は解消する。このようなメーターはデジタル機器として半導体を満載することが予想される。

実はスマートメーターの伏兵が欧州イタリアにいる。それはEnel SpA社である。エネル社は2700万の顧客数を誇る欧州第2の電力会社だ。そのホームページによるとスマートメーターに関しては2000年から設置を始め2005年には設置をほぼ完結している。エネル社のスマートメーターは半導体デジタル回路にて動作し双方向性のインターネットプロトコールの通信機能を備えユースポイントの電力消費をリアルタイムで測定する。料金を支払わない客や盗電に対しては遠隔指令でもって電力供給を遮断できると言うものだ。わが国はこの面でイタリアに大きく遅れたが、米国と共に同一標準で進めるのが懸命だろう。スマートグリッドに期待している。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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