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驚きの米国大統領選挙勝利、乱れてはならない半導体業界の進展

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米国大統領選挙の意外な結末の余韻、インパクトが、世界中に続いている。
半導体業界においては、前回の本欄で取り上げたように、米国政府、White Houseより米国の半導体業界に影響を与える最重要課題を調べるグループが招集されたばかりである。中国の台頭、Moore則以後に加え、連邦予算、移民人材などのキーワードが挙げられている。世界の半導体を主導、牽引する米国であり、絶え間ない微細化の工夫、事業規模の拡大・多角化を積み重ねてきている業界の進展に乱れなきよう、一層必要な注目である。

≪ますます目が離せない展開≫

投票直前には以下の動きがあって、前評判通りかと思っていたところである。

◇クリントン氏訴追求めず、FBI、捜査終了 (11月7日付け 日経 電子版)
→米大統領選の民主党候補、ヒラリー・クリントン前米国務長官の私用メール問題をめぐり、米連邦捜査局(FBI)のコミー長官は6日、再捜査の結果を明らかにし、7月の訴追を求めない方針に変わりはないと米議会に書簡で伝えた旨。8日投開票の大統領選の情勢に大きな影響を与えたFBIの再捜査は事実上、終わった旨。クリントン氏の追い風になる可能性もある旨。

蓋を開けてみると、意外や意外、トランプ氏の優勢が続いて、あっけなく同氏の勝利宣言に至っている。各紙の表わし方を時間経緯で追ったもの、以下の通りである。

◇Trump wins presidency, defeats Clinton in historic election upset (11月8日付け FoxNews.com)

◇Donald Trump wins the presidency in stunning upset over Clinton-Trump takes the White House (11月9日付け The Washington Post)
→Donald Trump氏が驚きの勝利、準郊外およびいなか地域の白人有権者が彼に集まり、都会地域およびminority有権者でのHillary Clinton氏の優位性を鈍らせている旨。歓喜の勝利演説でTrump氏は、Clinton氏から敗北を認める電話があったとし、Americansに対し"一体になって進もう"と呼びかけた旨。

Donald Trump Is Elected President in Stunning Repudiation of the Establishment (11月9日付け The New York Times)

◇Donald Trump elected 45th president of U.S. in epic upset of Hillary Clinton-Billionaire businessman upends Clinton dynasty, pre-election polls (11月9日付け The Washington Times)

◇トランプ氏の勝利確実、米大統領選、接戦制す (11月9日付け 日経 電子版:16時47分)
→米大統領選は8日、全米各州で投票、即日開票され、異端の共和党候補、ドナルド・トランプ氏(70才)が「女性初」を目指した民主党候補、ヒラリー・クリントン前米国務長官(69才)を接戦の末破った旨。激戦州のオハイオ、フロリダ、ノースカロライナなどを制したのが勝因、米国民は異端候補に米国の再生を託した旨。米メディアの集計によると、選挙人の獲得数はトランプ氏は過半数の270人に達する見込みになった旨。

トランプ氏の勝利を受けて、以下の動きが続いている現時点である。

◇米トランプ政権へ移行準備始まる、来年1月就任 (11月10日付け 日経 電子版:6時19分)
→米大統領選が共和党のドナルド・トランプ氏の勝利に終わり、来年1月の政権移行に向けた準備が始まった旨。オバマ大統領は9日昼(日本時間10日未明)、ホワイトハウスで声明を読み上げて「党派は関係ない。国家が第一だ」と円滑な政権移行を進めると表明した旨。

◇反トランプデモ全米各地に、続く分断、遠い団結 (11月10日付け 日経 電子版:18時10分)
→米国大統領選挙の結果に納得できない民主党支持の若者らによる反トランプモが全米に広がっている旨。国を二分した対立による混乱はしばらく続きそうな旨。

◇円滑な政権移行で一致、トランプ、オバマ両氏 (11月11日付け 日経 電子版:5時23分)
→米国のトランプ次期大統領が10日昼(日本時間11日未明)、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談、円滑に政権移行を進めることで一致した旨。オバマ氏は外交、内政の重要事項を話し合ったと明らかにしたうえで「これから2カ月間の最優先事項は政権移行を円滑に進めることだ」と述べた旨。
トランプ氏も「困難な状況を含むさまざまな事柄を話し合った」と述べた旨。

この渦中前後での業界関連の動き、反応を追うと、まずは、冒頭で述べたWhite Houseによる半導体working group打ち上げである。

◇President's Council launches semiconductor working group (11月8日付け ELECTROIQ)

地球温暖化対策のCOP22が開催され、我が国の遅ればせの対応が行われた現時点でもある。

◇COP22、モロッコで開幕、18日まで (11月7日付け 日経 電子版)
→地球温暖化対策を話し合う国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)が7日、モロッコのマラケシュで開幕、2020年以降、197カ国・地域の国が参加する「パリ協定」が発効(日本時間11月4日午前8時)して初めての会議の旨。会期は18日までの予定、実効性がある協定にするためのルール作りの議論が本格化する旨。

◇パリ協定を承認、衆院本会議、ルール協議に出遅れ (11月8日付け 日経 電子版)
→2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の承認案が8日午後、衆院本会議で可決された旨。参院では既に全会一致で可決しており、国会の承認手続きが完了した旨。環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案を巡って国会が混乱し、採決が遅れていた旨。協定は発効済みで、近くルール策定の1回目の協議があるが、承認が遅れた日本はオブザーバー参加になる旨。

米国業界の率直な直後の論評が、次の通り表わされている。

◇Trump Win Roils Technology Sector (11月9日付け EE Times/Blog)
→米国の選挙の1日後、Silicon ValleyからのAmericaの視界は、いくらよく見ても確かではない旨。米国大統領選挙のDonald J. Trump氏の番狂わせの勝利は、通商および移民についての彼の立ち位置に大方反対したハイテク分野をかき乱している旨。次期大統領のTrump氏が、法人税法および連邦R&D spendingなどハイテクの重要事項についてどこに位置するかは、まだ明らかではない旨。Semiconductor Industry Association(SIA)は、Trans Pacific Partnership(TPP)など通商取引の自由貿易、およびadvanced STEM degreesの外国人の移民緩和を長らく唱えている旨。選挙キャンペーンでTrump氏は、米国での製造jobsを復活させる期待で現状の通商取引を"破棄"あるいは再交渉したいと明らかにしている旨。かつてAppleのchief executive、Steve Jobs氏はObama大統領に対して、jobsは海外に行っており戻ってこないと言っている旨。

米国・Semiconductor Industry Association(SIA)では、新たな年度に向けてのトップ選出が行われたところで、今後にいろいろ発表が出てくるものと思われる。

◇Maxim Integrated CEO Tunc Doluca Elected Chair of the Semiconductor Industry Association-Mark Durcan, CEO and Director of Micron Technology Inc., Elected SIA Vice Chair (11月10日付け SIA/NEWS)
→半導体製造、設計および研究の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、SIA Board of Directorsにより以下の選出が行なわれた旨。
 SIAの2017年Chair Tunc Doluca氏(Maxim Integrated Products社President and CEO)
 SIAの2017年Vice Chair  Mark Durcan氏(Micron Technology社CEO and Director)

懸案の1つ、環太平洋経済連携協定(TPP)については、早速承認見送りと、米共和党からの打ち上げである。

◇米、TPP承認見送りへ、「年内審議ない」 (11月10日付け 日経 電子版:9時40分)
→米共和党の議会指導部が9日、次期大統領が同党のドナルド・トランプ氏に決まったことで、来週に再開する議会審議で環太平洋経済連携協定(TPP)の承認を見送る考えを表明した旨。トランプ氏は大統領選で反TPPを掲げて勝利し、公約では「就任初日にTPPから撤退する」としていた旨。
日米など12カ国で大筋合意した世界最大規模の通商協定は、実現が見通せなくなった旨。

トランプ氏の政策には現時点警戒感が先立つハイテク分野では、以下の直後の動き、反応であり、引き続き注目である。

◇NY株最高値、でもハイテク株は軟調、トランプ政権に警戒感 (11月11日付け 日経 電子版:10時40分)
→米国株式市場でIT・ハイテク銘柄が弱含んでいる旨。グーグルの持ち株会社アルファベットやフェイスブック、アマゾン・ドット・コムなど代表的な銘柄の下落が続き、米大統領選の開票前より3〜6%程度安い旨。割高感が意識されていたうえ、大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏の政策への警戒感が重荷となっている旨。

◇米アップルCEO、トランプ氏でも「我々は変わらない」 (11月11日付け 日経 電子版:13時34分)
→米アップル最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏が9日(米国時間)、米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことを受けて全従業員にメッセージを送り、「アップルが目指すものは変わらない」と強調した旨。トランプ氏は大統領選中、アップルを非難したり、製品のボイコットを訴えたりしたこともある旨。米国を代表するグローバル企業は、トランプ大統領の誕生に身構えている様相の旨。

半導体業界の進展ペースに乱れが生じないよう、世界からの注視が集まる当面ということと思う。


≪市場実態PickUp≫

【ElectronicaよりNXP関係】

第27回国際コンポーネント・システム・アプリケーション専門見本市、Electronica(2016年11月8-11日:Munich)よりNXP Semiconductors関係の2件。まずは、自動運転の利点を示すトラックの隊列走行技術、“platooning”のデモである。

NXP Drives Truck Platooning (11月7日付け EE Times)
→NXP Semiconductorsは、自動運転の利点を示すのにトラック“platooning”(複数台のトラックが互いに通信して隊列走行する技術)に優るものなしとしており、今週のElectronica(2016年11月8-11日:Munich)にて、NXPおよびパートナーがミュンヘンの路上で実演する旨。

◇NXP's new autonomous driving products focus on safety, self-driving trucks-NXP's big rig platooning system promotes safety, saves fuel (11月7日付け TechCrunch)
→NXP Semiconductorsおよびそのパートナーが開発したbig rig(大型トレーラー車両) platooningシステムにより、トラックが50 mphの速度、12 yards(〜10.97m)間隔で互いに走行、燃料節減2%〜11%につながる旨。
該システムは、vehicle-to-vehicle通信システムなど技術の進展を利用、leadトラックの動きを以下に伝えて安全性も増す旨。

次に、最近QualcommによるNXP買収が発表されたなか、今回の場でNXPは新しいIoT Gateway製品を打ち上げている。IoTに向けた両社の補完が以下表わされている。

◇IoT: What NXP Has, What Qualcomm Lacks (11月8日付け EE Times)
→NXP Semiconductorsが今週のMunichでのElectronica、electronics業界最大のtrade fairsの1つにて、Modular IoT Gatewayソリューションを展開、NXPの新しいIoT Gateway製品の打ち上げは、QualcommがNXPを買収する計画を正式発表11日後である旨。Qualcommはcellular connectivityをもってくる一方、NXPは高度データセキュリティをもたらして、両社が合わさると2つのIoT fundamentals、“connectivityおよびsecurity”を取り扱う旨。

【IoT標準&プラットフォーム】

産業用IoT標準について、中国がIndustrial Internet Consortium(IIC)との提携に合意している。グローバルな枠組みの広がりが進んでいる。

◇China Signs IoT Interop Plan-Deal expands network of global agreements-China gets on the industrial IoT bandwagon (11月8日付け EE Times)
→中国が、industrial Internet of Things(IIoT)国家標準について業界主導のIndustrial Internet Consortium(IIC)の作業と提携することに合意の旨。該取引は、IICがIoTに向けたグローバルな枠組みにまとめたいとする最新のものの旨。IICは、中国・Ministry of Industry and Information Technology傘下のacademyとのmemorandum of understanding(MoU)に調印の旨。すでにIndustrie 4.0 initiativeを進めるドイツ当局並びに同様のプログラムの日本の当局と同様の取引を締結している旨。

ワイヤレスIoTアプリ開発を容易にするプラットフォームを、Cypress Semiconductorが更新発表している。

◇Cypress' WICED platform makes it easy to develop wireless Internet of Things apps-Cypress Semiconductor announces IoT platform (11月8日付け VentureBeat)
→Cypress Semiconductorが、internet of things(IoT)機器で用いるのに開発者が統合しやすくなる同社WICEDプラットフォーム更新版を発表、該プラットフォームは、connectivityを最適化するために複数のワイヤレスprotocolsを一緒にする一方、設計を合理化する単一toolとなるよう設計されている旨。

グーグル、サムスンなどが参加するIoT標準化団体、Thread Groupのスペック開発の状況が、以下通りとなっている。

◇Where Are We with Thread IoT? (11月9日付け EE Times)
→IoT標準化団体、Thread Group(グーグル傘下のNest Labs、サムスンなど参加)によるThread networking protocol-ベースIoT製品について。
thermostats, door locks, 歯ブラシ, 警報システム, 照明など、Thread Groupが2016年第二四半期に向けて商用市場打ち上げを約束したThread製品は、実際には何も起きていない旨。Thread Groupは今年始めスペック1.0の改訂を決定、スペック1.1の開発につながって、7月に批准されている旨。

◇Thread Group Unveils Developer Resources to Drive IoT Spec Adoption-Thread provides tools for adopting IoT spec (11月9日付け eWeek)

【Qualcomm関連】

Qualcommの2つの動き。まずは、中国のスマートフォンメーカー、Meizuを相手取った特許侵害提訴である。この6月に続く動きとなっている。

◇Qualcomm targets Chinese smartphone maker Meizu with complaints at ITC, foreign courts (11月4日付け IP Watchdog)
→Qualcommが10月14日付けpress releaseで、2003年設立のportable electronicsメーカー、Meizu(Zhuhai[中国広東省珠海市])を相手取って米国・International Trade Commission(ITC)に提訴、これとともにQualcommは、ドイツのMannheim Regional CourtでMeizuを相手取って特許侵害の訴えも起こしており、今後の特許侵害訴訟に備える証拠収集に向けてフランスで侵害差し押えを始めている旨。Qualcommが今年特許侵害の懸念でMeizuを標的にしたのはこれが初めてではなく、6月にQualcommは、Beijing Intellectual Property Courtに提訴している旨。

次に、台湾の経済部(MOEA:日本の経済産業省に相当)とは技術開発協力の覚書に調印、台北技術ラボを設けるとしている。

Qualcomm strikes deal for cooperation with Taiwan MOEA-Qualcomm, ministry will invest in tech lab (11月8日付け DIGITIMES)
→台湾・Ministry of Economic Affairs(MOEA)発。QualcommとMOEAが、IoT, 4Gおよび5Gネットワークスおよびconnected cars向け技術の共同開発などワイヤレス通信分野での協力についてのMoUに調印、Qualcommは台湾にlabも設立の旨。

◇Qualcomm to invest in Taipei technology laboratory (11月8日付け The Taipei Times (Taiwan))

【好調な業績発表】

中国のファウンドリー、SMICが、7-9月四半期で同社最高売上げを記録、中国市場の波にのって10-12月四半期にもさらなる増大を見込んでいる。

◇SMIC expects up to 7% revenue growth in 4Q16-SMIC predicts Q4 revenue growth of 5% to 7% (11月7日付け DIGITIMES)
→中国の専業ファウンドリー、SMICの2016年第三四半期売上げが$774.8 millionと最高を記録、前四半期比12.3%増、前年同期比36%増。第四四半期の売上げは前四半期比5-7%増と見ている旨。

◇SMIC Expects Record Roll to Continue -SMIC forecasts growth for years to come (11月10日付け EE Times)
→SMICの今四半期(10-12月)販売高が、7-9月の最高を記録した売上げ、$774.8 millionから7%増える予想、中国における需要の波に乗って同社事業の強みが続くと見ている旨。

ファウンドリー最大手、TSMCも、この10月売上げが同社史上2番目の月次売上げとなり、本年の1-10月累計が昨年同期を7.6%上回る値となっている。

◇TSMC October revenues increase-Oct. revenues rise to $2.88B at TSMC (11月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの2016年10月連結売上げがNT$91.09 billion($2.88 billion)、前月比1.5%増、前年同月比11.4%増。該10月売上げは、同社2番目に高い月次売上げでもある旨。1-10月累計がNT$776.8 billion、前年同期比7.6%増。

◇TSMC sales hit 2nd-highest level on record (11月11日付け The China Post)

【3D NAND増産の動き】

先行するSamsungに追いつき追い越せと、3D NANDフラッシュメモリの増産を図る動きが続いている。まずは同じ韓国のSK Hynixの48-層量産開始、数量のアップである。

◇SK hynix to mass-produce 48-layer 3D-NAND chips from this month-SK Hynix to pump up 48-layer 3D NAND volume (11月8日付け The Korea Herald (Seoul))
→SK Hynixが今月、48-層3D NANDフラッシュメモリデバイスの量産を開始、NAND半導体12-インチウェーハの月次outputを現状の10,000枚から2016年末までに約20,000〜30,000枚に倍以上増やしていく旨。年内に販売開始予定の旨。

東芝は、独自のBiCS(Bit Cost Scalable)フラッシュの生産拡大に向けて専用の新しいfab建設を打ち上げている。

◇Toshiba to build new fab for 3D flash memory (11月9日付け DIGITIMES)
→東芝が、同社独自の3Dフラッシュメモリ、BiCS FLASHの生産拡大に向けた三重県四日市Operationsでの最先端をいく製造拠点の建設スケジュール概要を発表の旨。新しいBiCS FLASH拠点を建設する意向の3月発表に続いて、東芝は2017年2月での建設開始を決定、該新fabは3Dフラッシュメモリプロセス専用の旨。

◇Toshiba catching up with Samsung in 3-D NAND chips-Toshiba plans wafer fab facility for 3D NAND (11月10日付け Yonhap News Agency (South Korea))
→東芝が、3D NANDフラッシュメモリデバイスを製造するウェーハfab拠点の建設を開始の旨。DRAMeXchangeの評価では、Samsung ElectronicsがNANDフラッシュメモリ世界市場の36.3%を占め、東芝が20.1%である旨。


≪グローバル雑学王−436≫

ここまでアフリカに惚れ込んだ方がいらっしゃるとは、と感じ入る人生である。商社に入ってひとりアフリカ勤務に手を挙げたのがきっかけで、仕事にそして自分で開いた柔道場に、多々摩擦がありながら溶け込んでいく方の経緯を

『なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか』
 (布施 克彦/大賀 敏子 著:PHP新書 1055) …2016年7月29日 第一版第一刷

より、一気に読み進めている。日本での生活は合わず、アフリカの人々、自然に心底魅了された経緯が示されているが、章のタイトルにある通り、不慮の交通事故で65年の生涯をアフリカの地で終えられている。現地の人々の心を動かすまでにはこれほどまでに、と改めて考えさせられる。

第6章 アフリカの土になった商社マン

◆「あんな人とは二度と会えないだろう」
・本章で紹介する清水孝さん
 →2006年1月、ウガンダの首都、カンパラ近郊で交通事故、65年の生涯
 →筆者(布施氏)の大学・商社を通じての先輩
・筆者は2010年2月、タンザニアのダルエスサラームへ
 →清水さんの足跡を追うため
 →タンザニア滞在中の面倒を見てくれたJ・P・ラジャニ
  …清水さんがタンザニアでビジネスを通して知り合い、親しい付き合いに
  …インドの出身、現地社会への貢献活動にも熱心
 →ラジャニが提供してくれた車で、案内してくれたのは、ハルファーニという男
  …清水さんのことを最大の恩人と思い続けている
・ハルファーニが案内してくれたところ
 →清水さんが開いた柔道場のあった場所…彼は柔道の弟子
 →清水さんが好んで買い物をした海沿いのマーケット
 →船遊びをしたというインド洋に面したビーチ
 →清水さんが住んだ家
  …清水さんは自宅に柔道の門下生たちを招いて、時折バーベキュー大会
・筆者はその後、タンザニア政府の立法府が置かれた、首都機能を持つ街、ドドマへ
 …ダルエスサラームから西に500km弱
 →タンザニアの元首相、J・S・マルチェラと会った
 →ラジャニがすべてを手配
 →彼の息子が清水さんの柔道場の門下生だった縁
 →多忙ななかにも拘らず、筆者のインタビューに対応
 →清水さんのことを鮮明に覚えており、種々の貢献について、驚くべき記憶力で
・清水さんが鮮明な記憶を遠い国の人々に残したことには、それなりの理由

◆手を挙げたのは彼ひとり
・清水孝さんは、三菱商事に入り、最初の海外勤務地がアフリカ
 →清水さんの独特の人生が始まることに
 →社内公募となったザイール(現コンゴ民主共和国)の首都、キンシャサの駐在員に手を挙げたのは彼ひとり
・待っていたのは、予想以上に厳しい生活
 →しかし、それを忘れるほど、アフリカの魅力に取りつかれてゆく
  …アフリカで最もアフリカらしい今後の大自然
  …そこに住む大らかで素朴な現地の人々との触れ合いも新鮮
・コンゴはベルギーの旧植民地、商社マンとしては、肝心な地元コンゴ人との仕事上の付き合いは、至って希薄

◆清水道場の誕生
・そこで清水さんは、コンゴの人たちに柔道を教えることを思いついた
 →大学時代、ずっと柔道部に所属
 →空き地に集めて、柔道の手ほどき
・見物人の多くが、柔道をやりたいと申し出た
 →キンシャサの下町の青空市場設営地の一隅を、使わせてもらうことに
 →青天井の道場だから、雨の日は使えない。皆で、間に合わせの畳をつくることに
 →稽古の後は、皆でマットを繕うことが日課に
・門下生のなかには医者や国会議員もいたが、多くが貧しい若者
 →稽古の後は道場に車座となり、バナナ酒を酌み交わしながら、大いに語り合った
・今自分が住むコンゴで、そこに住む人たちと一体化できていることに、充実感

◆社長に直訴してアフリカに戻る
・清水さんに大阪支社への転勤命令
 →キンシャサ駐在4年を終えて、帰国せざるを得なくなった
・日本での会社生活に、清水さんはすぐに飽きてしまった
 →今度は新設のタンザニア・ダルエスサラーム事務所への転勤を強引に実現、再びアフリカの地を踏むことに
・ダルエスサラームで、再び柔道場を開設、今度は屋根付きの建物に道場を確保、畳や柔道着も調達
 →柔道場は街の名物に
・清水さんがダルエスサラーム滞在中に行った最大のイベントは、ケニアへの柔道遠征
 →ケニアの首都、ナイロビは、東アフリカの人たちにとっては、憧れの都
 →30名が参加を希望、全員が乗れるマイクロバスを借りて、ケニアまで往復することに
 →当時タンザニアとケニアの関係が悪化、陸路の国境が封鎖
 →清水さんは、タンザニア政府の担当部局への日参を開始
 →遂に手にした国境通過許可証
・一昼夜かけてナイロビに到着、ケニアの柔道チームとの試合に
 →正統派の柔道を鍛えられていたケニアの選手たちに、タンザニア選手の繰り出す変則技や奇襲戦法、予想を覆すタンザニア側の圧勝
・遠征最後の日、清水さんは全員とショッピングに繰り出し、みやげを買ってやると申し出
 →門下生たちは声を揃え、「運動靴が欲しい!」

◆三菱商事を退社し、ケニアで事業を始める
・清水さんはタンザニアから帰国後、今度はケニア・ナイロビ事務所の責任者に
 →アフリカ専門家としての社内評価は確立
 →ナイロビでも柔道場を開き、ケニアの若者たちと密なる交流
 →この間、貧民街で活動する名もなき合唱団の歌声に聴き惚れ、日本に送って各地で公演を成功させるという離れ業も
・ナイロビ駐在を終えいったん帰国した清水さんは、今度はアフリカのヨハネスブルグ駐在員に
 →1995年、31年間勤めた三菱商事を退社、再びナイロビに渡る
 →日本からの中古自動車の輸入・販売業とお持ち帰り中心のファストフード店の事業を始めた。54才のとき。
・両事業とも当初順調に推移したが、その後に試練
 →激しい競争のなか、この地と人を愛する清水さんの違いを、ケニア人の多くが感じ取った
・事業が安定したころ、登山にはまり出した
 →魅力に取りつかれ、キリマンジャロに5回
 →アフリカ第2の高峰、ケニア山にも2度
・登山仲間の間で、ウガンダとコンゴ民主共和国の国境にそびえるルウェンゾリ山への登頂計画が持ち上がった
 →清水さんはいち早くこの計画に乗り、自ら下調べに行くことに
 →用事を済ませ、翌日の仕事の打ち合わせのため、危険なアフリカでの夜のドライブ
 →大破した清水さんの乗った車が見つかったのは、翌朝。清水さんは即死

◆アフリカ人の心を動かす
・一介のビジネスパーソンとしてアフリカに渡りながら、結果としてアフリカ人の心を動かした
 →清水さんの行為は、誰もができることではない
・アフリカ特有の共同体社会は、北から侵入してきたヨーロッパ人やアラブ人によって大きく破壊され、それが今日まで、アフリカの尾を引く根源的な問題に
 →よそ者に対しての、根深い猜疑心が、アフリカの人々の心の中に
 →清水さんは、アフリカ社会の同じ仲間として認められるまでに、気の遠くなるような努力
・違っていた清水さん
 →家に侵入してきた泥棒から身の上話を聞き、まさに盗人に追い銭を実行、小遣いを渡して帰し、そのあと柔道クラブの門下生に

◆なぜそこまでしたのか
・清水さんは幾度も煮え湯を飲まされた。それでも、彼はアフリカを愛し続けた
・人生の半分以上を捧げたにもかかわらず、清水さんはアフリカに、輝かしいものは何も残していない
 →それでも彼は、大いなるものを残していると思う
 →彼と接したアフリカの人々の心に深く刻まれた彼の記憶
 →彼自身の行為を、アフリカ人の心に残した
・なぜそこまでしたのか
 →彼がアフリカで、心底魅せられた「ホンモノ」に出合ったからなのだ、と思う

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