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押し迫っても止まないM&Aの嵐、TsinghuaのSPILはじめ買収攻勢の波紋

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2015年もあと10日と押し迫ってきたが、半導体業界のM&A旋風は一向に収まる気配となっていない。特に、中国政府の半導体業界の自立化に向けた動きが一層渦巻いており、M&Aに動くTsinghua Unigroupが台湾の実装&テストのNo.2であるSiliconware Precision Industries(SPIL)のstake買収に向かっているのを受けて、No.1のAdvanced Semiconductor Engineering(ASE)がSPILの全株式を買収するという反転の動きが見られている。TSMCが12-インチfabの中国での自前の工場進出の意向を固めたばかりであるが、台湾そして中国各々の出方に注目せざるを得ない年越し&新年となってきている。

≪分かれる台湾内のスタンス≫

中国・Tsinghua Unigroupが、SPILはじめ台湾の実装&テストの3社に以下の通り買収攻勢をかけている。

◇Should Taiwan open its IC design industry to China capital? (12月14日付け DIGITIMES)
→台湾はそのIC設計業界を中国投資に開放すべきかどうか、転換期にきている旨。この問題は、中国のTsinghua Unigroupが台湾のIC testing/packagingメーカー3社、Powertech Technology(PTI), Siliconware Precision Industries(SPIL)およびChipMOS Technologiesそれぞれの25% stakeを買いたいとして、生じている旨。IC packagersは半導体製造ecosystemの下流サプライヤであるけれども、台湾・Ministry of Economic Affairs(MOEA)は、中国の台湾IC設計業界への投資の禁を解く可能性を評価するときTsinghuaの3社への投資計画を考慮する、としている旨。

◇Tsinghua Unigroup looking to buy stakes in SPIL and ChipMOS (12月14日付け DIGITIMES)
→中国・Tsinghua Unigroupが、ChipMOS Technologies TaiwanおよびSiliconware Precision Industries(SPIL)におけるstakes買収に総額約$2 billion充てる計画の旨。

ASEがこれに対抗、SPILの全株式の買収に動いて市場の波紋が沸き上がっている。

◇ASE Proposes Full Purchase of SPIL, Trumping Tsinghua Deal (12月14日付け Bloomberg)
→Advanced Semiconductor Engineering(ASE)社が、ライバルの台湾半導体packager、Siliconware Precision Industries Co.(SPIL)に対する敵対的買収の入札、先週の中国・Tsinghua Unigroupによる取引を負かす$3.9 billionの規模、両社の株価が上昇の旨。

◇ASE proposes to acquire all SPIL shares (12月14日付け DIGITIMES)
→Advanced Semiconductor Engineering(ASE)が、Siliconware Precision Industries(SPIL)の発行済株式すべてのNT$55($1.67)/株での買収を提案、ASEは現在SPILの25% stakeを有している旨。ASEの敵対的買収提示は、SPILが1.03 billionの新株をTsinghua UnigroupにNT$55、ASE提示と同じ価格で売る計画を発表したのを受けて出ている旨。

◇ASE raises its bid to acquire Siliconware Precision Industries (12月15日付け The China Post)

◇Bidding War for SPIL Heats Up (12月16日付け EE Times)
→半導体テスト&組立サービスプロバイダー、Advanced Semiconductor Engineering(ASE)社が、ライバルのSiliconware Precision Industries Co. Ltd.(SPIL)の買収について、中国・Tsinghua Unigroup Ltd.のSPILへのminority投資合意後、入札価格を上げている件。

ASEの提示に対するSPILの反応が見られている。

◇Advanced Semiconductor Engineering Keeps Up Pursuit of Taiwan Rival-ASE offers $3.9B for the rest of SPIL, outflanking Tsinghua bid (12月15日付け The New York Times)
→Siliconware Precision Industries(SPIL)が25% equity stakeをTsinghua Unigroupに約$1.7 billionで売却する取引を発表して僅か数日、Advanced Semiconductor Engineering(ASE)が月曜14日、ASEが所有していないSPILの75%を約$3.9 billion in cashで買収すると提示の旨。「我々には他に多くの競合があり、顧客側からすれば2社が合併してもどちらかというと引きつけるものはなく、ビジネスが他の代替に渡ることになる。」(SPILのspokesman、Mike Ma氏)

ASEの提示を受けて、SPILの株式が急騰している。

◇Share price of SPIL surges on news of ASE offer (12月15日付け Focus Taiwan News)
→台湾第2のIC実装&テスト・プロバイダー、Siliconware Precision Industries Co.(SPIL)の株価が、ライバル、ASEの買収提示から1日、火曜15日の取引開始で10%高と最大の上げ幅となった旨。

台湾の半導体業界として見ると、設計業界の生産額が来年は減るという見方も出てきている。

◇Production value of IC businesses expected to drop (12月14日付け Taipei Times)
→Topology Research Institute(TRI:台湾)発。台湾のIC設計業界は引き続き弱含みのグローバル需要に直面する可能性、来年のその生産額が1%以上減少すると見る旨。

台湾政府としては、中国の投資に対して早まることはしないとのスタンスを表明している。

◇Taiwan's doors not to be rashly opened to Chinese investors: MOEA (12月14日付け Focus Taiwan News)
→台湾・Ministry of Economic Affairs(MOEA)のofficialsが月曜14日、反対論が湧き上がる渦中、コンセンサスに達するまでは台湾のIC設計分野への中国の投資に対して早まってドアを開けることはないと誓約の旨。

◇Taiwan Government to Cautiously Examine Tsinghua's Investment in SPIL and ChipMOS (12月14日付け CTIMES)

Tsinghua Unigroupは、中国にある台湾メーカーの子会社の買収攻勢も進めている。

◇Tsinghua Unigroup looking to invest in Phison China subsidiary, says report (12月16日付け DIGITIMES)
→最近の中国語Commercial Times発。中国・Tsinghua Unigroupが、台湾のNANDフラッシュデバイスコントローラ・サプライヤ、Phison Electronicsの中国・安徽省合肥市(Hefei of China's Anhui Province)にある子会社の51% stakeを買収する意向、Phisonは2015年7月にsolid-state drive(SSD)コントローラ技術開発に特化した子会社をHefeiにオープンしている旨。

このTsinghua Unigroupの買収攻勢に対して、台湾の中のスタンスが分かれている。産業界から良い機会、チャンスと捉えるStan Shih氏である。

◇Tsinghua Unigroup investment plans an opportunity, says Acer founder (12月16日付け DIGITIMES)
→Acerのfounder、Stan Shih氏が、中国・Tsinghua Unigroupの台湾半導体メーカー3社へのstake投資提案を巡る公開討論で応答、該投資は台湾のメーカーへの驚異というよりopportunitiesと見るべきと示した旨。Shih氏は、日本がかつて中国を驚異と考えたが、態度を変えて今では中国をopportunityと見ている、と特に言及の旨。

年明け早々1月16日に行われる台湾の総統選挙を控えて、有力候補の2人は揃って、台湾の産業界に脅威として反対の立場を表明している。

◇Tsai, Chu oppose SPIL share sale plan (12月16日付け Taipei Times)
→台湾の2大政党の来る総統選候補者、民主進歩党(民進党)の蔡英文(Tsai Ing-wen)氏と与党・国民党の朱立倫(Eric Chu)氏が、Siliconware Precision Industries Co Ltd(SPIL)の中国・Tsinghua Unigroup Ltd(清華紫光)への株式売却計画に対して揃って反対を表明、中国の投資が台湾の業界に重大な脅威となる可能性の旨。

今後の成り行きに注目であるが、Tsinghua Unigroupの親会社の取り組むスタンスが以下の通り表わされている。

◇Tsinghua Unigroup eyes place at top table-Tsinghua Unigroup hopes new funds will improve its position (12月17日付け China Daily (Beijing))
→Tsinghua Holdingsは、世界最大の半導体メーカーの1つになろうとしている旨。中国最大の半導体メーカー、Tsinghua Unigroupの親会社として、IC業界での立場強化に$15.45 billionを注ぎ込みたい旨。


≪市場実態PickUp≫

【敵対的買収提示】

台湾でのASEの対SPILのような敵対的買収提示の動きが他にも見られている。まずは、Dialog Semiconductorによる買収に合意していたAtmelに対するアプローチである。

◇Atmel Receives Buyout Offer That May Top Dialog's Merger Bid-Atmel gets all-cash offer rivaling Dialog's planned buy (12月11日付け Bloomberg)
→Atmelが金曜11日、同社を$9/株でcash買収する敵対的提示を受け取った旨。Atmelは9月に、Dialog Semiconductorによるcashおよび株式での約$8.81/株買収に合意している旨。Atmelの役員会は、その明らかにされていない買収先とDialog取引に優るかどうか話し合っている旨。

◇Atmel Receives Hostile Buyout Offer of $9 a Share-Bid throws wrench into planned merger with Dialog (12月11日付け The Wall Street Journal)

上記の時点では誰か明らかでなかったが、以下の通りMicrochipではないかと思われる現時点である。

◇Microchip Named as Atmel Bidder (12月17日付け EE Times)
→匿名筋を参照、Reuters発。microcontroller(MCU)ベンダー、Microchip Technology社(Chandler, Ariz.)が、Atmel社(San Jose, Calif.)に向けて$3.8 billionの敵対的買収提示を行った会社である旨。AtmelはすでにDialog Semiconductor plc(London, England)による買収取引に合意しているが、対抗提示を見ていくとしている旨。

もう1つ、ON Semiconductorによる買収が進んでいるFairchildに対してサードパーティ筋からの提示があったが、Fairchildはそれには乗らず、同社株価が下がる動きとなっている。

◇Fairchild Says Competing Bid Unlikely to Result in Superior Proposal-Third-party investor group offering $21.70 a share-Fairchild Semi board decides competing bid isn't superior to ON offer (12月14日付け The Wall Street Journal)
→Fairchild Semiconductor International社発。同社boardが、同社を$21.70/株で買収するという敵対的third-party提案について
ON Semiconductor社による仕掛かり取引に優るものにはなりそうもないと決定づけた旨。

◇Fairchild Semiconductor Falls After Rejecting Higher Offer (12月15日付け Bloomberg)
→Fairchild Semiconductor社が、先週もっと高い敵対的買収提示を受けた後でも、ON Semiconductor社からの事業継承提示に固執、株価が下がった旨。

【Qualcommの事業分離しない決定】

モバイル機器市場の飽和減速で最も業績に煽りを食った感のあるQualcommである。重要株主筋から半導体および特許licensingの事業分離を行うよう求められていたが、以下の流れ、判断のもと分離しないという決定を行っている。

◇Qualcomm Said to Lean Against Breakup Seen Harming Chip Prowess-Report: Qualcomm resists calls to break the company in 2 (12月13日付け Bloomberg)
→ある投資家から半導体および技術licensing事業を分けるよう求められているQualcommが、corporate構造そのままの維持に傾いている旨。「これらは別々には良くはならない2つの事業。最新、最大の議論は分ける一辺倒であり、少し収拾がつかなくなってきている。」(Synovus Securitiesのfund manager、Daniel Morgan氏)

◇Qualcomm Decides Against Breakup-Despite pressure from investor and antitrust authorities, company won't separate design and patent licensing-Qualcomm will remain intact after "rigorous process" (12月15日付け The Wall Street Journal)
→Qualcommが、同社CEO、Steve Mollenkopf氏曰く株主に向けた最善の構造を決定する"厳格なプロセス"を経て、半導体および特許licensingそれぞれの事業を分けて解体しないことを決定の旨。

◇Qualcomm Rejects Split After Completing Strategic Review (12月15日付け Bloomberg)

◇Qualcomm Concludes a Split Would Be Detrimental (12月15日付け The New York Times)

◇Qualcomm Rejects Company Break Up (12月16日付け EE Times)
→Qualcomm社(San Diego, Calif.)が、同社事業運営の包括的見直しを完了、現在のcorporateおよび財務構造で変えずに続ける計画の旨。苦境の年にあった同社は、重要株主でactivist hedge fund投資家のJANA Partners LLCから、ある代替構造で株主にとっての価値が実現されるかどうかということで同社の構造を見直すよう求められていた旨。

【Appleの小型半導体fab買収】

Appleが、San Jose北部にあるアナログおよびmixed-signal半導体ベンダー、Maxim Integrated Products社の小さな半導体fabを買収、その場所は、A9プロセッサを作っているSamsung Semiconductorのすぐそばでもあるという立地関係である。

◇Exclusive: Apple buys former chip fab in North San Jose (12月14日付け Silicon Valley Business Journal)

◇Apple just paid $18 million to buy a small chipmaking factory-Report: Apple buys chip factory in Calif. for $18M (12月14日付け Business Insider)
→Silicon Valley Business Journal発。Appleが先週、新しい半導体モデルの設計&テストに向けてMaxim Integrated Productsから小さな半導体製造工場を$18.2 millionで買収、該70,000 square-foot拠点はまた、AppleのA9プロセッサを作っているSamsung Semiconductorのすぐそばでもある旨。

◇Apple Buys Wafer Fab in San Jose (12月16日付け EE Times)
→Silicon Valley Business Journal発。Apple社が、アナログおよびmixed-signal半導体ベンダー、Maxim Integrated Products社からNorth First Street, San Jose, Calif.にあるウェーハfabを買収の旨。

◇Could Apple be looking to turn into a chipmaker?-Purchase of semiconductor plant is latest part of San Jose expansion (12月16日付け TechRadar)

何のために?、と憶測を呼ぶところであるが、MEMSあるいはmix-signalデバイスなど以下の反応が見られている。

◇What's Apple Want With an Old Maxim Fab? (12月17日付け EE Times/Blog)
→200mm R&D fabとして、MEMSあるいはmix-signalデバイスの試作&構築に用いられる様相の旨。

◇Apple Fab Buy: Biometrics, RF MEMS in Play?-Apple's Maxim fab purchase stirs storm of speculation (12月17日付け EE Times)
→Appleが最近Maximから8-inch R&D fabを購入、業界アナリストの反応として、“当惑させるもの”(Tirias Research)から、Appleが同社のworld phonesに向けて必要とする新しいbiometricセンサ and/or RFスイッチをそこで“prototyping”の可能性(Semico Research)まである旨。一方、Appleは話しをやめている旨。

【Micronが台湾合弁の全株取得】

メモリ半導体の米国・Micron Technology社が、台湾のDRAM最大手、Nanya Technology社とのDRAM合弁、Inotera Memories社の全株式を取得、全額出資子会社としている。

◇Micron to Pay $4 Billion for Remaining Stake in Inotera (12月14日付け EE Times)
→メモリ半導体ベンダー、Micron Technology社が月曜14日、Nanya Technology社との台湾DRAM合弁、Inotera Memories社における残りの持分権を約$4 billionで買収する合意に調印の旨。MicronはすでにInoteraの約33%をもっており、残る67%を約92 cents/株で買収する旨。

◇Micron Technology to Buy All of Taiwanese Chip Company Inotera-Micron’s deal follows a spate of consolidation moves in the chip sector-Micron to buy 67% of Inotera Memories for $3.2B (12月14日付け The Wall Street Journal)

◇Micron to acquire Inotera remaining shares (12月14日付け DIGITIMES)
→Micron TechnologyとInotera Memoriesが合意調印、MicronがInoteraの残る株式を買収する旨。Micronは現在Inoteraの約33%を所有、これは約$3.2 billionの取引額となる旨。

◇米マイクロンが全株取得、台湾DRAM最大手との合弁 (12月15日付け 日経)
→台湾のDRAM最大手、南亜科技(Nanya Technology)が14日、同業大手の米マイクロン・テクノロジーと合弁で設立したDRAMメーカー、台湾・華亜科技(Inotera memories)の24.2%の株式をマイクロンにすべて売却すると発表、総額は476億台湾ドル(約1760億円)の旨。マイクロンは市場でも株式を買い付け、イノテラを全額出資子会社にする旨。

一方、NanyaはMicronに以下の通り出資を行って、両社の連携をむしろ強めていくとしている。

◇Nanya to invest up to NT$31.5 billion in Micron-Nanya will spend up to $958M on Micron shares (12月14日付け DIGITIMES)
→Nanya Technology(台湾)が、Micron Technologyにequity買収で最大NT$31.5 billion($958 million)投資する計画を発表、この投資計画はNanyaの役員会が承認している旨。該投資はNanyaのMicronとのつながりをさらに強めるものと、Nanyaは示している旨。

【セミコン・ジャパンから】

恒例のセミコン・ジャパン2015(12月16-18日:東京ビッグサイト)が開催され、本年のキーワードとして「200mm」、「IoT仕様」を受け止めている。
新たな応用の波が最先端技術の模様替えを引き起こす感じ方がある。

◇「セミコンジャパン2015」開幕−200mmウエハーに脚光 (12月16日付け 日刊工業)
→半導体製造装置・材料の展示会「セミコンジャパン2015」(米SEMI主催)が、東京・有明の東京ビッグサイトで16日開幕する旨。創業間もないベンチャー企業と投資家を結びつけるイベント「イノベーションビレッジ」を初開催するほか、需要が復調傾向にある200mmウエハー関連に着目したパビリオンを新設する旨。昨年より7増の732社・団体が出展、前年比約8%増の6万5000人の来場を見込む旨。

◇半導体装置「IoT仕様」、セミコン・ジャパン開幕―日立ハイテク、小口径に対応 (12月17日付け 日経産業)
→これまで半導体装置の進化軸は回路線幅を縮小する「微細化」とウエハーを大きくする「大口径化」の2つが中心だったが、IoTではセンサやパワー半導体など、微細化や大口径化を必ずしも必要としないデバイスも多いことから、IoT市場を狙う装置の中には、それとは逆行するものも多い旨。
日立ハイテクノロジーズは直径100mm、150mm、200mmの小口径ウエハーに対応した測長SEM(走査型電子顕微鏡)の新製品「CS4800」を出展、小口径ウエハーに対応した測長SEMの新製品を出すのは、「15年ぶり」(同社)の旨。


≪グローバル雑学王−389≫

アメリカのエネルギー安全保障政策の推移、そして2000年代に入ってからのシェール革命がもたらした世界の誰も予想しなかった速度の変化を、

『国際エネルギー情勢と日本』
 (小山 堅・久谷 一朗 著:エネルギーフォーラム新書 034) …2015年9月11日 第一刷発行

より繰り返しながら見ていくことにする。原油価格の下落がシェールオイルの生産量に与える影響が懸念されるが、しばらくは増産傾向が続くとの見方もあるとのこと。我が国はもちろん、世界に与える影響が大きく、注目を続ける必要のあるアメリカのエネルギー情勢&事情ということと思う。


第三章 シェール革命とアメリカの変化

・シェール革命によって、当のアメリカはもちろん、世界の誰も予想しなかった速度の変化

■アメリカのエネルギー安全保障政策
・アメリカのエネルギー自給率(1次エネルギー供給のうち自国の生産で賄っている割合)
 →2012年時点で85%近く、過去を振り返ってみても70%以上の高水準
・石炭と天然ガスが昔から高い自給率の一方、石油の自給率は時とともに急速に低下
 →石油の輸入依存度を下げることがエネルギー安全保障政策の重点
・1960年代に入るまで、アメリカのエネルギー環境は平穏
 →それを大きく変化させたのが、1973年の第1次石油危機
 →当時のニクソン政権(1969年〜1974年)は、1980年までにエネルギー自給体制確立を目標とする「プロジェクト・インディペンデンス」を制定
・1970年代 …エネルギー安全保障に対する関心が非常に高まり、積極的な政策がとられた
・1980年代から1990年代 …エネルギー安全保障に対する懸念が薄れ、市場の自由化が進められた
・2000年代に入り、エネルギー安全保障に対する懸念が再燃
 →カリフォルニア州電力危機(2000年と2001年)、世界的な原油価格の高騰(2000年代半ば以降)
 →長期的なエネルギー安全保障政策の重要性の見直し
・オバマ政権(2009年〜現在)では、石油などのエネルギー供給の輸入依存度を減らそうという政策
 →再生可能エネルギー、クリーンエネルギー技術開発、省エネルギー
・日本と同様なアメリカのエネルギー安全保障政策の取り組みの推移

■シェール革命によるアメリカのエネルギー市場の変化
・「シェール」…天然ガスや石油が含まれる地層の一つ、頁岩とも
 →アメリカで技術革新が進み、2000年代に入るとシェール層の開発のカギを握る技術が確立
 →「水平坑井(こうせい)」と「水圧破砕」
 →シェールオイル、シェールガスの開発・生産が爆発的に増えることに
・オバマ政権は天然ガスをより積極的に利用する方針を打ち出し
 →再生可能エネルギーを含む非化石エネルギーの広範な普及が実現するまでの橋渡しとしての役割
・シェール革命によるアメリカ国内での変化
 →アメリカの国内ガス価格は2008年のピークから4分の1にまで落ち込み
  →一部の小さな原子力発電所は経済性の観点から閉鎖する事態にも
  →自動車や鉄道といった輸送部門での天然ガス活用への期待も
 →原油の輸入量も減少
  →アメリカのエネルギー安全保障にとって唯一最大の弱点が次第に克服へ
  →輸入が減っているのは「軽質原油」、中東地域からの「重質原油」の輸入量は大きく変わらず
   →中東地域の重要性はいまのところ変わっていない

■原油価格の下落によるシェール開発への影響
・原油価格の下落にともない、アメリカにおけるシェール開発が停滞するのではないか、という懸念
 →シェールオイル開発は生産地によって開発にかかるコストが異なるため、損益分岐点も異なる
・アメリカ国内で稼働中の原油掘削リグ(地下に眠る資源を掘り出すための装置)の数
 →2014年10月にピークの1308基に達した後、急速に減少
・原油生産量は、2015年4月に過去最高の日量約561万バレル
 →開発企業はより生産性の高い油井に投資を集中させながら、開発を行っている
・シェールオイルの生産の特徴
 →生産量の増加の速度が速い一方、生産量が減少する速度も速い
・最近では、2020年を越えてもしばらくの間はシェールオイルの増産傾向が続くという見方も、アメリカで出てきているところ

■シェール革命が世界に与える影響
・シェール革命は、日本を含む世界のエネルギー市場にも影響
 →エネルギー輸出国への影響 …アメリカに代わる新たな輸出先を探す必要
 →エネルギー輸入国にも影響 …輸入先の選択肢が増える
・日本にとって、シェール革命とそれに伴う世界のエネルギー貿易の変化は、望ましい変化
 →日本の「存在感」が薄れたり、日本が追加的な防衛に関する負担を求められる可能性も

■アメリカにおける電力、ガス市場の自由化
・2015年7月現在、日本では電力システム改革が進められている
 →発電と送配電部門の分離、小売りの全面自由化の来年からの実施が予定
・アメリカの電気事業の規制改革
 →そもそも、日本と大きく異なるアメリカでの電力会社の数
 →現在、全50州のうち全面自由化をしているのは17の州とコロンビア特別区と、少数派
・ガス事業についても、連邦と州で管轄が異なる
 →州をまたぐ天然ガスの輸送や売買、「州際取引」…連邦が管轄
 →州内で完結する「州内取引」…各州が管轄
・電力、ガスのいずれについても、小売り市場を自由化している州は少数派、しかもその潮流は現在では停滞
 →カリフォルニア電力危機や北東部大停電を踏まえ、自由化を中断する流れ
・アメリカでは環境規制の強化による化石燃料を使った火力発電所の運転停止が予想される
 →主に大気汚染や水質汚染、二酸化炭素排出の対策
 →有害物質の排出を規制
・これから自由化を進める日本は、アメリカの事例を、課題や教訓を含めて十分に吟味することが必要

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