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半導体チップの性能によらずシステム能力を飛躍的に高める二つの「爪」

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自分のことを考えてみればわかると思う。自分ではこなせない量と質の仕事を達成するには他人の力(爪)を借りるしかない。まずは、他人の力が強大であればあるほど達成できる成果は大きくなる。また時間とともに他人の力の質が高くなればなるほど達成できる成果も高度となる。

SFの世界では、スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」に宇宙飛行士と会話する空想上の人工知能コンピュータHALが登場する。最近では、IBMの実在する人工知能「ワトソン」がアメリカのTVクイズ番組で人間を負かしてチャンピオンになった例は有名である。ともにスーパーコンピュータを活用した成果だった。スパコンは最も高価なコンピュータシステムである。とても個人の利用目的でこれらの人工知能は使用できない。

最近ではスマートフォンに音声で質問すると音声で回答が得られるアプリケーションが無料で使われている。Apple社のiOSではアプリケーションSiriであり、Androidでも音声応答が提供されている。隠れた爪はスマートフォン上ではなくクラウド上の処理で行われる。発声された音声をデジタル化するところだけをスマートフォンで実行する。言語認識と意味解析を行うのは計算量が大きいのでクラウドのプログラムに手渡す。iPhoneだとAppleのクラウドサーバーの中で処理が進行する。

発話が解析されると次に自然言語処理が働いて何を質問(知りたいか?)しているのかを解析する。これに対しては汎用の知識エンジン(Wolfram|Alphaなど)で回答を導き出す。この回答に基づいて音声回答をサーバー上で構成して、結果のみをスマートフォンに転送する。この動作が高速に実行されるので、スマートフォンの利用者はあたかも自分のスマートフォン内で処理がリアルタイムで完結して回答が得られる、と錯覚するほどである。

 ウェブ検索も同様である、検索窓に記入されたキーワードはまずクラウド上のエンジンに送られる。Google検索を例にとると、Google社のクラウド上の検索エンジンが機能して検索結果を高速に返してくれる。Googleのクラウドには巨大なウェブデータが日々刻々と蓄積されている。この検索エンジンの使用料は無料であるのでスマートフォン利用者には料金はかからない。Appleの場合はSiriのクラウド処理も無料である。

 最近もう一つの秘密「爪」がこのクラウドアプリに仕掛けられている。この「爪」は時間とともに高精度に成長する。最新の機械学習の成果がこれらの処理に取り入れられている。これまでの学習機能は、ある局面において成功する可能性の高い評価を高速に計算することだった。クイズの解答や将棋の対局はこのような学習機能であった。評価式はシステム作成者が与えるものであり、作成者の能力に比例して人工知能が賢くなる。

最近では評価式を与えずに、大量のデータから評価を含めて自動的に学習する機能が再発見されている。人間の脳の機能を模式した階層型の学習アルゴリズムである。Deep Learningと呼ばれている。システム作成者の意図しない知能を作り出すことが可能である。

音声応答の例だと、認識するための音声データを大量に蓄えて学習データとする。そこから類似の意味機能を持つ単語を自動的に分類する。検索窓の例でいえば、検索するキーワードを蓄積して学習することにより、より高度な結果が得られるようになる。このような学習処理は、クラウド上の利用者のデータ量により学習が進化するので、スタンドアロン型のエンジンに比べて高性能の実現が期待できる。

クラウド処理を行う会社(Google、Apple、Facebook、Microsoft社等はDeep Learning
に取り組んでいる)は、多くの人に無料で開放することで学習によって、アプリをより賢くできる。無料で開放することでより良い成果へのデータを入手できるので、ギブ&テイクの関係が成り立つのである。

 現代のパーソナルアプリケーションは隠れた二つの「爪」で利用者の知能に向けた高いサービスを提供し始めている。これからのコンピューティングではクラウドにおける高い知能処理が豊かなIT社会を構築する手段となる。システム的にはさらなる高速の学習処理と通信、ネットワーク技術が求められてくる。

Agile Tech 技術本部長 河田 勉
(2014/03/18)

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