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農業と半導体産業の融合?!

 東芝とアプライドマテリアルズジャパンの要職を経て、現在は熊本県産業技術センター所長をされている柏木正弘氏より、掲題の講演打診が来たのは2008年6月であった。視野の狭い筆者にとっては想定外のテーマで、一瞬絶句し、「・・・昔は確かに、歩留まりはラインの揺らぎまかせで、半導体はお天道様まかせの農業と同じだという議論もあったが・・・」と言うと、一笑に付され「そうではない。今、地域振興策で農工商連携が重要と言われている。その一環」とのこと。ひとまず、知的財産という切り口なら新規性もあるだろう、まとまるか否か皆目見当も付かないが、調査はしてみようということになった。

 まず農業特許の現状を調べてみると、日米欧の技術分野別三極出願数(注1)を見ても農業の出願件数は半導体や電子部品の出願件数の5%程度と非常に少ない。農業分野の出願件数が少ない点は欧米も同じだが、その中でも特に日本は米国の半分である。しかしそれでも6万件ぐらいはある(注2)。それを個人で全部読破するのは短期では無理なので、FIターム(注3)で農業の日本特許を検索し、特許明細書の抄録と特許請求範囲に「半導体」という言葉が入っている特許を抽出して、特許庁電子図書館で明細書全文を確認する手法で進めることにした(注4)。やってみると2008年6月〜7月時点で、重複を省き対象特許が約100件超あることがわかった。本来なら農業のFIタームと半導体のFIタームでマトリックスを作って調べればよいのだが、個人でそれを行うには限界があるので、取り敢えずその抽出した約100件で予備調査を行うことにした。その結果、半導体は「産業の米」と言われているように、農業分野にもかなり使われており、また今後も野菜工場などで大いに協業できることが予測されるので、以下その一端を紹介する。

 なお、すでに上記検索日から日時を経ている。しかし2009年1月時点で、再度特許庁電子図書館で検索してみると、当初より公表特許件数は増えているものの公開特許件数に大差はない。したがってこのまま議論を進めても支障はないだろう。

 100件を通読してみると、大別して1)半導体材料そのものを利用する技術と、2)半導体デバイスを使う技術、そして3)半導体製造技術で使われている技術を応用したもの、または半導体にも農業にもどちらにも使える技術、などのカテゴリーに分類できる。ここで1)は主に酸化物半導体の光触媒作用による消臭、殺菌効果を使う技術である。この場合の光触媒作用とは光を吸収して活性酸素を作り有機物を分解する作用のことで、酸化チタンなどが代表的な材料として知られている。2)の半導体デバイスには発光素子などの個別半導体から、各種制御機器に使われるマイコン、LSIまで幅広い。3)の共用技術、応用技術には洗浄技術、排水処理技術が含まれている。

 農業を、農機具及び部品(A01B)、植付・播種・施肥(A01C)、収穫・草刈(A01D)、脱穀・貯蔵(A01F)、園芸・栽培(A01G)、増殖(A01H)、保存・殺菌(A01N)、成長、活性(A01P)の各分野〔( )内はFIターム番号〕に分け、それぞれの特許明細書において、「半導体」という言葉が入った特許を上記のカテゴリーごとにまとめたのが、図1のバブル図である。それぞれのバブルの大きさは相対的に件数の多少を意味する。


図1 農業分野への半導体産業の展開
図1 農業分野への半導体産業の展開


 図に示したように園芸・栽培分野での半導体の応用が多く、中でも発光素子を使った照明関係の技術が多かった。次いで排液処理や洗浄技術の活用など半導体技術と共用分野も多く、中でも酸化物半導体光触媒作用の活用などが目立った。酸化物半導体材料はその特長を生かして農産物の保存・殺菌分野にも多く展開されている。

 具体例に触れながら技術の流れをまとめてみよう。図2、図3は主な特許事例による技術動向を示すものである。ただし、この他にも見方によっては重要特許があることも留意しておいて欲しい。


図2 主な特許から見た半導体材料活用技術の進展
図2 主な特許から見た半導体材料活用技術の進展


 図2は半導体材料活用技術の流れを示す例であり、鮮度保持に半導体光触媒材料を使う技術、その鮮度保持をする装置の技術、更には半導体技術をビニールハウスなどの農業資材や処理に応用する技術分野でそれぞれ発展してきた。即ち、空調機のフィルタに取り付けて消臭殺菌する技術(注5)から防菌防カビ技術(注6)、さらには挿し木などで有効な植物の切り口などの保護剤技術(注7)が鮮度保持技術である。そしてそれを実現する装置技術としては、減菌浄化装置(注8)や、トラックに付けた保冷庫内の消臭・殺菌装置(注9)などがある。農業資材や処理応用技術としては、その親水性を活用してビニールハウスの曇り防止、結露防止などに使用する例(注10)や、汚れ防止と親水性を利用しビニールハウスの雨センサーの感度を上げる技術も発明されている(注11)。

図3 主な特許から見た半導体デバイス活用技術の進展
図3 主な特許から見た半導体デバイス活用技術の進展


 図3は半導体デバイスの応用技術、特に発光素子による技術の流れである。レーザー光線は長さ測定、距離測定に適しているため、植物の茎の径を測定して成長具合を識別判断し、野菜を間引く装置(注12)や、農作業車の位置測定に使用された例(注13)がある。

 またLEDに代表される発光素子は低消費電力の照明として早くから使われてきた。当初は赤色、遠赤外光を利用する屋内照明技術が主であった(注14)-(注17)。赤色発光ダイオードに関しては、古くから例えば現在、首都大学東京学長の西澤潤一博士と(財)半導体研究振興会半導体研究所を中心とするグループなどで輝度向上の努力が精力的になされてきた(注18)。

 一方、葉緑素は赤と青を吸収し緑を反射するから緑色に見える。したがって吸収する赤と青の光を供給してやれば葉緑素の活動は促進される(注19)。中村修二博士の青色発光ダイオードの発明(注18)から、青色も提供できることになり、図のように赤色と合わせ一段と葉緑素に対する照明技術が進んだことがわかる(注19)-(注23)。そしてただ単に波長を制御して照明するだけでなく、間歇的に照明し、葉緑素に明暗サイクルを付加して発育促進をする技術(注24)も生まれている。

 この他にも夜間、蛾が集まるのを防御する照明法と上記発育促進技術を組み合わせた発明もある(注25)。また照明装置に関する発明も上記の産業用(注24)から鑑賞用(注14)まで幅が広く、件数も多かった。

 現在、野菜工場(注26)の検討が進んでいるが、太陽光発電を利用し、近年進展著しいLEDで照明(注27)をして、LSIや各種センサーで工場内環境を制御するようになると予測されるので、ここにも農業と半導体産業の融合分野が拓かれるだろう。

 半導体産業にも農業にも共通に使える技術には排液処理技術などがある。特に機能水(注28)を用いた技術は、半導体分野では洗浄水として用いられているが、極めて強い酸性にもアルカリ性にもできるので、洗浄、除菌、防黴、消臭、排液処理などにも活用できる(注29)。

 以上の内容をもとに何とか柏木氏との約束を果たし、拙い講演(注30)をこなしたが、農業ロボットではどうか、商標ではどうなっているか、種苗法の適用の実体はどうかなどというご質問も頂いた。検索専門家の力をお借りし、対象範囲を網羅して調査すれば、農業分野への半導体産業技術の協業につき、さらなる知見が得られるものと思われる。

謝辞
 この調査をする機会を与えて下さった熊本県産業技術センター所長の柏木正弘氏と、発表の機会を頂いた熊本知能システム技術研究会【RIST】、農工連携技術検討会幹事でテイラーズ熊本代表取締役社長の中川博文氏、及び熊本県商工観光労働部産業支援課参事田副勝裕氏に感謝する。


熊本県産業技術アドバイザー 鴨志田元孝


参考文献

注1:特許庁、「特許行政年次報告書2007年版」、p.72
注2: 石塚悟史、“知的財産権を用いた農業保護と活性化―過去30年間の出願動向から見た課題―”、産学官連携ジャーナル、Vol.4(No.3)、p.25 (2008) http://sangakukann.jp/journal/
注3: 国際特許分類(IPC)を更に再分類した日本独自の分類
注4:特許マップ作成に関しては、例えば山崎拓哉監修、鴨志田元孝編著、武 信文、「これからの知的財産実務」、税務研究会刊(2007)
注5:角田照夫、中礼司、亀田富吉、川島正栄、「消臭防菌装置付空気調和機」、日立製作所出願、特開S62-255741、
注6:柳井康一、「防菌防カビ剤」、ゼオン化成出願、特開平8-268824
注7:二宮博文、野口良平、森川光雄、富所貴雄、「植物保護用ペースト」、三菱レイヨン、シールック出願、特開2003-63903
注8:鎌田博文、「滅菌浄化装置」、鎌田バイオエンジニアリング出願、特開2000-237758
注9:石川栄、三丸和也、吉野豊、片山茂和、中山益男、平田守、「生鮮物等の収納庫」、盛和工業、矢野特殊自動車、ジャルカーゴーセールス出願、特開2004-337114
注10:川信、渡部俊也、「ビニールハウス天井及び結露集中防止方法」、東陶機器、特開平9-224490
注11:石松賢治、宮川隆二、久保田弘、中川博文、「光触媒を用いた雨センサ」、熊本県(工業試験所)、テイラーズ熊本出願、特開2003-2779664
注12:坂上修、太田栄一、沢田和成、「間引き装置」、野菜・茶業試験場長出願、特開平5-30884
注13:平塚哉、足立正、「作業車の位置情報検出装置」、クボタ出願、特開平10-123249
注14:遠藤政弘、渡邊博之、村瀬誠、「屋内植物栽培方法」、三菱化学出願、特開平8-37930
注15:渡辺博之、吉野徹、田中史宏「短日開花性植物の電照栽培方法」、三菱化学出願、特開平8-228599
注16:田中史宏、渡辺博之、村瀬誠、「植物の可食部増量法」、三菱化学出願、特開平8-275681
注17:岡本研正、田中道男、渡辺博之、「組織培養苗の培養方法」、三菱化学出願、特開平9-98
注18:例えば 西澤潤一、中村修二、「赤の発見・青の発見」、白日社刊 (2001)
注19:例えば 川上養一、藤田茂夫、島田順一、「植物育成用LED光源」、関西ティエルオー出願、特開2002-27831
注20:土屋広司、霞原敏夫、山崎文、「植物栽培方法」、浜松ホトニクス出願、特開平11-196671
注21:岡本研正、「植物栽培用光源、植物栽培方法及び植物栽培用容器」、テクノネットワーク四国出願、特開2002-281830
注22:山田万祐子、秋草文、土屋広司、「蘭の栽培方法」、浜松ホトニクス出願、特開2005-46072
注23:氏原史郎、藤安健太郎、大杉實、渡辺修治、「アブラナ科植物の花芽誘導方法及びアブラナ科植物の花芽誘導装置」、やまと興業出願、特開2005-211052
注24:例えば本間孝宣、宮島博文、山崎文、土屋広司、菅博文、「植物栽培装置」、生物系特定産業技術研究推進機構 / 浜松ホトニクス出願、特開2001-128571
注25:森山厳與、「発光装置及び照明装置」、東芝ライテック出願、特開2004-93
注26:例えばNHK 1月11日放映 http://www3.nhk.or.jp/news/k10013494121000.html#
注27:“三菱化学、太陽電池とLEDを組み合わせた植物工場のコンセプトをPVJapan2008に展示“、TechOn、http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080730/155764/
注28:例えば特集「最近の機能水を取り巻く状況」、BREAK THROUGH (2001.10) http://www.realize-se.co.jp/items/bt/183.pdf
注29:前島孝弘、中野鉄五郎、「機能水」、アリカコーポレーション、サンテック出願、特開2008-114138
注30:鴨志田元孝、“農業と半導体産業の連携―知的財産権の調査から―”、平成20年度熊本知能システム技術研究会【RIST】・「農工連携」第4回技術検討会(2009年1月22日)

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