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ウェビナーを視聴して見えてきたもの

2020年6月の拙文(参考資料1)を投稿した時、編集長の津田建二氏より以下の趣旨のメール(参考資料2)を頂いた。「最近は自宅でのテレワークが多い。しかしビデオ会議による取材や会見、オンラインセミナーなどを多用するようになると、情報が入らないとか、遅れそうだ、など焦りを感じなくなった。シリコンバレーでは20年近く前からテレワークは日常化しているので、米国ではそれほど大きなギャップはなかったと思うが、日本ではコロナ収束後のニューノーマルで、テレワークを多用する働き方が急速に加わり、大きなステップに直面したと感じている。でもオンライン化で効率がもっと上がるのではないかと思われ、何か、新しい時代の夜明けを感じ、わくわくする」。

ちょうど、武田計測先端知財団で職員間のSkype Meetingを始めた時期でもあり、端末での設定に四苦八苦していたので、半信半疑であったが、Zoomを使うウェビナー(Webinar)を聴講し始めて、津田氏の言う意味がよく理解できた。

以下にまずはAIに関する分野に近いIEEE東京支部のウェビナーを2編と、IEEE EDS (Electron Device Society) ウェビナーを2編視聴したので、その印象をまとめてみたい。前報(参考資料1)で将来予測をまとめたので、先ずはその分野からと思ったからである。またこのブログは学会報告ではないので、学術的な詳細については、雰囲気を知って頂くためだけの最小限に留め、主にウェビナー視聴の結果受けた筆者の印象と、ウェビナー視聴の注意点を中心にまとめる。

2.IEEE東京支部の講演会参考資料3

2.1 「顔認証とAIの最前線」参考資料4)2020年7月27日(月) 15:00〜17:00

まず手始めにIEEE東京支部の講演会を視聴して味を占めた。Zoomは設定が簡単で、しかも居ながらにして会場出席者の気分になれる。

講師はNECフェローの今岡 仁氏である。正確さを記すため参考資料4の文章を引用すると「NECの顔認証は米国国立標準技術研究所により実施された評価プログラムにおいて5回トップを獲得し、製品は世界70ヵ国で採用されている」ので、この講演では「顔認証における最新トピックを紹介する」という背景と講演目的の説明がなされた。

講演を視聴し、1) 顔認証は次元の縮小に主成分分析法を多用していること、2) 本人と似ているが実は他人である場合、その違いを最大限に誇張して機械学習を行う、そして3) セキュリティ確保のため、特徴量を秘匿化してリスクを最小にする、などの諸技術は、専門が少し異なる筆者には、なるほどそうかと思う新鮮な知見であった。この分野の専門家には当然なのかもしれないが、あらためてそう言われると、そうだったのかとうなずいてしまう。
 
最近、頓(とみ)に人の名前と顔が一致しない、会っても名前が思い出せないということが多くなっている身には、もしカメラ付き端末を使って瞬時に相手の名前などの情報が出てくるデバイスが手元にあれば、便利だろうと思った。偶然、道で会って対話をしている相手がこちらを知っていて、こちらが相手を失念している場合が、最も始末が悪い。そのような小さなデバイスがあれば、もう会話をしながら相手に悟られないように「誰だったろう、誰?誰?」と、苦悩することもなくなるだろう。

2.2 「シリコン単電子デバイスを用いた極限エレクトロニス」参考資料5) 8月28日(金) 15:00〜17:00

これはNTT物性科学基礎研究所上席特別研究員でIEEEフェローの藤原聡 氏の講演である。藤原氏は長年単電子デバイスの研究をされており、その功績で2018年にIEEEよりフェローの称号を受けられた。

ここでも間違いを避けるため、参考資料5の文章を引用させて頂くと、藤原氏の講演内容は「シリコン単電子デバイスは、電子1個1個の正確な操作や検出を可能とするものであり、量子電気標準、高感度センサ、量子ビットへの応用が期待されている。本講演では、量子計測三角形の完成を目指した電流標準応用、マクスウェルの悪魔の実証実験、超高速単電子コヒーレント振動の観測など最近の研究の進捗を紹介する」ものであった。

単電子トランジスタはクーロンブロッケード(参考資料6)の最も良い例として説明されている。講演では、電子を1個ずつ個別に取り出したり、送り出したりする操作ができるという基礎的な解説から入り、それを用いて現在はSI単位系の電流の定義が改訂され、電流標準として採用された(参考資料7)との説明がなされた。これは藤原氏にとって大きな喜びになったとのことである。

また電子を1個1個送るといわゆるMaxwellの悪魔(参考資料8)が実証できるのではないかという話もあった。更にまた、サブテラヘルツ領域で動作する電子1個の量子的な挙動に関して、量子的な超高速コヒーレント振動の観察に関する説明がなされた。これはNTTより既にニュースリリースされている(参考資料9)。そこでもいろいろな応用が提示されているので、もし興味があれば、詳細は参考資料9などをご覧頂きたい。

講演会では最後の質問に「ノーベル賞を仮定した場合、何が達成されたら授与されるとお考えか」という質問が出た。講師は笑いながら「量子計測三角形(参考資料10)ができれば」との返事であったが、ぜひノーベル賞を目指して頑張って頂きたいと思った。

3.IEEE EDS ウェビナー

3.1「Materials and Device Technologies for Quantum Information Sciences」, 5 August 2020, 11 AM - 12 PM (日本時間2020年8月6日0:00-01:00)

講師はペンシルバニア大学電気・システム工学部助教(Assistant Professor in Department of Electrical and Systems Engineering at the University of Pennsylvania (Penn))のDeep Jariwala先生(参考資料11)である。題名の通り量子情報通信に使われる材料とデバイスに関する講義であった。

まず量子情報通信の基礎的解説がなされ、1989年のH. DehmeltとW.Paul(参考資料12)、そして2012年のS. HarocheとD. J. Winelandのノーベル物理学賞受賞(参考資料13)が、量子情報通信スタートの歴史的な技術背景であるとの説明があった。

続いて量子情報通信技術や量子コンピュータ技術の基礎は量子ビット(Qubit)(参考資料14)であるとして、量子もつれによる量子ビット(entangled qubits)の概念説明が、ブロッホ球(Bloch Sphere)(参考資料15)を使ってなされた。量子ビットを実現する手法としてはいろいろ知られているが、ここでは主としてイオントラップによる量子ビット(Trapped Ion Qubits)と超電導による量子ビット(Superconducting Qubits)について、それぞれの長所短所を比較している。

今後の発展のためには短所の克服が重要なので、そこだけ大急ぎで書きとった。前者の短所は、レーザー光を使うためスケーリングが困難なことと、ゲートのスピードが遅いことを上げている。後者はゲート接続に限界がある(limited gate connectivity)点と、コヒーレンス時間が短い、そして極低温が必要であることを指摘していた。

2000年から2015年にかけてこのコヒーレンス時間(coherence time)が指数関数的に年々伸びており、そこにもムーアの法則が成り立っている。このことは、筆者は不勉強で知らなかったが、知る人ぞ知るで、Google の画像検索でcoherence timeとMoore’s lawを入力すると、講演に使われた図面(参考資料16)がすぐ検索できる。

材料としてはSi/SiGe系、GaAs/AlGaAs系、そしてトンネル絶縁膜ではAl2O3 など、我々半導体専門分野でも馴染みの材料が登場した。最後にIntel 、IBM、Googleなどで行われている研究の現状と将来予測がなされていた。いずれもウェブから容易に情報が得られるので、ここでは省略する。

このウェビナーを生で視聴する場合は、時差の関係で日本では真夜中になる。録音したものでもよければ後日IEEE EDSのアーカイブで公開(参考資料17)されており、しかも講義当日にはなかった字幕まであるので、英語が母国語でない身には至れり尽くせりである。

3.2 「Introducing Layered Dielectrics in solid-state microelectronic devices」
、19 August 2020  11 AM - 12 N (EDT - New Jersey) (日本時間2020年8月20日0.00-01:00)

講師は中国Soochow大学(Soochow University)(参考資料18)の Mario Lanza教授である(参考資料19)。このウェビナーは米国から発信されたが、これも講演1週間後にEDSアーカイブ(参考資料20)に録画が公開されている。

内容は題名のように2次元デバイスに使われる誘電体層に関するものであった。もちろん、そこには絶縁層として使われる場合も含まれている。2次元デバイスに関しては既にこのブログでも報告(参考資料21)している。この2次元デバイスの草分け時代には、製造技術で分子線エピ(MBE)や原子層堆積(ALD)で日本人の貢献(参考資料22)も大であったし、Si単一層のシリセンに関して先鞭をつけたのも日本人である(参考資料23)。筆者の拙い講義の資料で恐縮であるが、図1のようにその後、中国系の科学者達の活躍が目覚ましく、多くの材料が研究された(参考資料24)。


図1 中国における二次元デバイスの研究(参考資料24)

図1 中国における二次元デバイスの研究(参考資料24)


図1でも誘電体、あるいは絶縁層として六方晶系窒化ボロン(h-BN)(参考資料25)の例が示されている。このウェビナーでは主に講師のグループで行われたh-BNの研究成果が報告された。

2次元材料では一般にin-planeでは共有結合であり、out-of-planeではvan der Waals力が働いていて、動作解析は複雑である。この種の材料をデバイスに使う場合は、良好な熱伝導率と高い絶縁耐圧(dielectric strength)が求められる。しかし一般に使用されるhigh-k材料は、他の2次元材料との界面特性が良くない。

そこで講師は、バンドギャップが5.9eV、機械的な強さが500N/m、熱伝導率600W/mK、そして1500°Cまで耐えられるh-BNに注目して研究を進めている。この講演では、機械的な劈開法(mechanical exfoliation)、Cu上にCVDで成膜する方法、そして液相中の劈開(liquid-phase exfoliation)法で作った3種の試料で特性評価を行っている。詳細は省略するが、上記で課題として指摘した界面をランダムテレグラフノイズ特性で調べた結果と、更に電極間の誘電体膜内に発生するフィラメントの形成が説明された。そしてメモリスタを作って、その特性説明と、更にニューロデバイスを作製する話が続いた。

筆者が最も興味深かったのは、2次元デバイス用のhigh-k 誘電体として、250°CでMBE法により成長させたCaF2が、一様な結晶という観点で良好な結晶性を示しており、しかも熱酸化SiO2やALD成膜TiO2、そしてCVDによるh-BNと比較すると、リーク電流が最も少なく、絶縁耐圧も最も高い(27.8MV/cm)という。論文発表前のようだが、なぜ4者の中で格段に優れた特性を示しているのか、その理由を知りたいところである。

4.まとめ

コロナ感染対策で展示会が縮小され、代わりにウェビナーが多用されるようになった。上記のようにウェビナーにもいろいろあり、例えば第2章で述べたIEEE日本支部では、その分野で功なり名を遂げた立派な業績を達成している講師によるレビューと今後の動向などの解説が多い。

それに対して第3章のIEEE EDS ウェビナーでは、もちろんFull Professorの講演もあるが、過去のEDSアーカイブを調べると、どちらかというとむしろ若く元気のよいAssistant Professorレベルの研究成果を基にした講演が多いようである。視聴していて、1970年代、筆者がカリフォルニア工科大学に留学していた頃、教授、准教授にまじって、カジュアルなスタイルの若いAssistant Professorが講義をしているのを目にして、当時の日本の大学との違いに驚いたことを思い出した。日本では謹厳な教授による講義が一般的だったからである。教室では背広姿の教授から、コートを脱ぐように注意された学生もいたほどであった。助手は学生実験や演習の時間にしか登壇しなかった時代であった。

展示会を毎年見学していると、2-3時間ざっと見て歩くだけで、新しいことは何か、技術動向はどちらに進んでいるかを肌で知ることができるようになる。しかしウェビナーでは論文を読むのと同じ時間を要するので、2つ3つ聞いただけで、短時間で技術動向を感じ取るのは困難である。そのため、えてして木を見て森が見えないことになりかねないと感じた。

技術動向を見失わず、しっかり把握するためには、多数のウェビナーを視聴しなければならないとすると、ドライアイを心配しながらウェビナー漬けに陥るだけである。幸い学会の学術講演会もオンライン開催になったので、広く浅い全体の把握にはそちらも活用すべきだと思っている。

もちろん、特定の分野の深い知見を得るには、本稿にまとめた例のようなウェビナーは大変便利である。従ってそのウェビナーが誰を対象としているか、どのような性格なのかを理解してかからねばならないということだろう。オンラインのメリットを享受するには、送信側の、受講者に魅力ある、受講者を惹き付ける講演にする努力と共に、受信側にもそれなりの工夫と注意が必要である。

<謝辞>
いつもながら編集長の津田氏には今回も原稿の査読の労を賜った。筆者も満80歳を超し、周囲に原稿を見てくれる方も少なくなったので、独断と偏見に陥らないよう、第三者の査読は必須である。その意味で津田氏の査読にはいつも感謝し、頼りにしている。

技術コンサルタント 鴨志田元孝

                           
参考資料
1. 鴨志田元孝 2050年の技術予測―課題はやはりIoT、人工知能(AI)、深層学習関連か セミコンポータル (2020/06/02)
2. 津田建二氏私信 (2020/05/20 20:47)
3. IEEE東京支部の講演会は同会ホームページに掲載されている。
4. 顔認証とAIの最前線
5. シリコン単電子デバイスを用いた極限エレクトロニス
6. クーロンブロッケードに関してはウィキペディア
7. 2019年5月20日からSI単位系が器物に依存せず、量子力学に基づいて定義されるようになった。詳細は例えば金子晋久、改訂国際単位系による電気標準
8. Maxwell’s Demonと呼ばれる思考実験。詳細はウィキペディア
9. 詳細はNTTからの2019年11月5日ニュースリリースに記されている。
10. 量子計測三角形に関しては科学研究費補助金「基盤研究(S)単電子制御による量子標準・極限計測技術の開発」を参照。
11. Stacy Lehotzky(Committee Administrator, IEEE Electron Devices Executive Office)からのEDS会員宛開催アナウンスメール (2020/08/01)
12. Hans G. Dehmelt とWolfgang Paulの「Development of the ion trap technique」に対するノーベル物理学賞
13. Serge Haroche と David J. Wineland の "ground-breaking experimental methods that enable measuring and manipulation of individual quantum systems" に対するノーベル物理学賞
14. 量子ビットの判りやすい説明は、例えばhttps://ferret-plus.com/9474
15. ブロッホ球(Bloch Sphere)に関してはウィキペディア
16. 例えばGoogleにcoherence timeとMoore’s lawを入力して画像検索するとhttps://www.researchgate.net/figure/Color-online-The-Moores-low-for-the-coherence-time-of-superconducting-qubits_fig3_320077062
17. IEEE EDSのアーカイブ
18. Soochow Univ.
19. Stacy Lehotzky(Committee Administrator, IEEE Electron Devices Executive Office)からのEDS会員宛開催アナウンスメール (2020/08/14)
  講師略歴
20. IEEE EDSアーカイブ
21. 鴨志田元孝、先頭集団で走り続けるためにも、ときには戦略的に、あるいは大胆に挑戦を セミコンポータル (2017/04/07)
22. 例えばSiに関するALDに関しては、西澤潤一先生の業績が東工大名誉教授松村正清先生らのS. Imai, S. Takagi, O. Sugiura, M. Matsumura, “A Novel Atomic Layer Epitaxy Method of Silicon,” Jpn. J. Appl. Phys. 30(No. 12B), pp. 3646-3651 (1991) に詳しく述べられている。
またR. L. Puurunen, “A Short History of Atomic Layer Deposition: Tuomo Suntola’s Atomic Layer Epitaxy,” Chem. Vap. Deposition 20, 332-344 (2014)には、The First International Symposium on Atomic Layer Epitaxy in Espoo, June 11–13, 1990に西澤先生と他日本人1名が招待されていたことが記述されている。
23. 例えばK. Takeda and K. Shiraishi , “Theoretical possibility of stage corrugation in Si and Ge analogs of graphite,” Phys. Rev. B 50, 14916 (1994)。
この件はWu Ke-Hui(吴克辉), “A review of the growth and structures of silicene on Ag (111),” Chin. Phys. B Vol. 24, No. 8, 086802 (2015) にも詳しく述べられている。
24. Quhe Ru-Ge(屈贺如歌), Wang Yang-Yang(王洋洋), and Lu Jin(吕劲), “Silicene transistors- A review,” Chin. Phys. B、Vol. 24, No. 8 (2015)、088105
25. Hexagonal Boron Nitrideの略号。 例えば鈴木哲、「グラフェン状物質 六方晶窒化ホウ素」、NTT技術ジャーナル 2013年6月 pp.12-14

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