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機械学習、AI技術、IoTを活用したマーケティング技術を〜最近の展示会から

大勢の同僚に囲まれている職場や、同じ研究に取り組んでいる仲間と話をする機会が多い環境にいる場合は、常に新鮮な情報が入ってきて、刺激を受けることができる。筆者もNECやNECグループ会社時代は幸いにもそうであった。しかし一旦退職して独りになると、そのような刺激は望むべくもない。先ず実験装置を動かすことはもちろん、同僚の生データを見る機会がなくなる。従って議論する機会がなくなり、専門分野でも理解が疎かになる場合が生じる。正しい知識を積み重ねるためにも、以て自戒すべきと思っている。

筆者はサラリーマン退職後、細々と続けている現在の仕事上、机上の論文を読むことが多いが、理解できない所を自分の知識に基づいて推量で読むため、そのような所をどうしても誤解したまま先に進んでしまいやすい。そうなるとゼロをいくつ足しても価値が増えないのと同じである。後にその著者や関係者の講演を聞いて、そうか、あそこはそう意味だったのかと知ることも多々ある。そのため事情の許す範囲で学会参加や各種展示会見学が欠かせなくなる。以下最近の展示会見学印象をまとめてみた。

2018年4月4〜6日に東京ビッグサイトで開催された第2回AI・人工知能EXPO(参考資料1)を見学した。昨年の第1回は主催者が参加者数の予測を誤ったのではないかと思うほどの混雑であったが、今年も多数の参加者が溢れていた。

この分野の進展はわずか1年でも眼を見張るばかりである。昨年はソフトウェアに長じた元同僚が同じ展示会を、チャットボットを中心に見て回って、今後の動向などを教えてくれたが、筆者はソフト技術に関しては門外漢であり、担当している講義の関係で、どうしてもハード面、特にボード上でLSIがどう配置されているかなどを見て歩くことになる。もともとこの展示会ではこのような実機の内部までの展示が少なく、LSIや半導体デバイスを組み込んだ装置の説明を受けられるブースは少ない。それでも丹念に見て歩くと、GPUを搭載したボードを覗く機会に遭遇できる。

昨年は、大きな基板に搭載されたN社製のGPUがその周囲をぎっしり冷却装置で固められているのを見て、これでは扇風機と空冷用フィン、そして冷媒による冷却装置の塊で、半導体デバイス基板というよりは冷却装置搭載基板ではないかと思ったものであった。説明員に尋ねると、「ディープラーニングで、GPUを無理しながらもガンガン使うため、発熱量も多いのです。GPUそのものも消耗品ですよ」とのことであった。

しかし今年見た実機はそれと同じ機能のものなのかは不明であるが、面積では昨年比で半分ぐらいの大きさの基板が2段重ねに使われており、非常にコンパクトになってきた感じがした。説明員によると、やはり「小型化が急速に進んでいます。」とのことで、デバイス性能向上の努力とともに、システム設計や実装技術の改善が一段と進んでいるとの印象を受けた。展示会の性格上、写真撮影も憚られるので、同一企業の同種装置の比較をしたという自信は無い。あくまでも記憶だけに頼った筆者個人の大雑把な「印象」である。

またデスクトップのパソコンと同じくらいの大きさのAI用サーバーが多数展示されていたのも印象的であった。AIというと大型コンピュータでないと対応できない世界から、急速に手軽にオープンイノベーションができる時代に入ってきていると感じた。その内ビッグとは言わずとも、個人で集めたちょっとしたデータをインプットすれば、コンピュータがディープラーニングしてくれて、傾向や動向を即座に教えてくれる時代になるのだろう。

続いて2018年5月9〜11日に、やはり東京ビッグサイトで開催された第7回IoT/M2M展(参考資料2)を見学した。工場内にIoTエッジデバイスを配置してネットを展開し、AI技術で工場管理をするパネルも多くみられるようになった。筆者はこの種のパネルを2016年の設計製造ソリューション(DMS)展(参考資料3)で見たのが最初だったと記憶している。NECグループのブースにて、(株)NEC情報システムズのソリューションビジネス事業部がIoTゲートウェイコーナーでAIを活用した管理技術のパネルを1枚展示していた。このような技術が使われるようになると、例えば半導体製造技術において、FMEA(参考資料4)などを実施する場合、「瞬時に」とまでは行かなくても、格段に速くFMEA分析ができ、実験計画も作成できるようになるだろうと、当時、鮮烈に思った。

同年9月にその時の説明員の計らいで同社を訪問する機会を頂き、意見交換の場を設定頂いたのは、今でも幸運だったと思っている。今回の見学は展示会こそ違えども、その後わずか2年しか経過していない。その間、工場管理技術、工場内の検査工程の技術、更には高速道路の路面や橋梁など社会インフラの老朽化診断など、AI技術やIoTを用いてこの種の技術が急速に進んでいるのを、このIoT/M2M展のNECグループのブースで見学できた。画像処理技術の進展も素晴らしいものがあるので、これまでの製造技術が大きく変わるのではないかと予測している(参考資料5)。もう工場に関わらなくなった身では、それを実際に指揮したり、結果をこの目で確認できないのが残念である。

話が前後するが、以上の展示会の前、2018年2月14〜16日に開催されたNano Tech 2018(参考資料6)を見学した印象では、この分野も昔のナノ材料を入れた小瓶の展示から、今はすっかり実機の展示に代わってきて、遅々とではあるが、いよいよ産業になって来たと実感できた。以前のNano Tech展示会の報告(参考資料7)で述べてきたが、このような素材メーカーや、それを応用する製造業者もお客様あってのことである。顧客の動向をいつも把握してマーケティングを怠らないよう願いたい。

これも以前書いたこと(参考資料8)と重複するが、マーケティング研究大学院大学のような研究機関は望むことはできないのだろうか。ディープラーニングや人工知能技術の普及と共に、マーケティング技術もかなり進化していると思われる。しかもIoTプラットフォームでビッグデータが容易に集積されやすくなると、その解析結果の活用次第ではマーケティング活動の方法も革新的なものになるのではないかと思う。各社の戦略が絡むマーケティング分野にも、そこには基礎的共通的な課題があるはずで、マーケティング専門家同士の切磋琢磨する場があってもよいのではなかろうか。AIやIoTで大きく変わる時期だからこそ、このような切磋琢磨の場が必要だと思う。

「基礎的共通的」といえば東京農工大学名誉教授垂井康夫先生が、超LSI共同研究所(参考資料9)を設立、運営された時の指導方針を思い出す。垂井先生はこれが超LSI共同研究所の成功要因だったと述べておられる(参考資料10)。2018年1月に創刊されたnature electronics誌にカーネギーメロン大学のHassan N. Khan先生、David A. Hounshell先生、Erica R. H. Fuchs先生が、「ムーアの法則の終焉時における科学と研究の方針(Science and research policy at the end of Moore’s law)」と題して興味深い論文(参考資料11)を発表している。

そこではMooreの法則前の時代での半導体研究と時代背景、そしてその後のMooreの法則と工業界が牽引した40年間のイノベーション、更にまたMooreの法則後の技術動向が時代を追って順次まとめられており、最後にMooreとMoreを掛けて“Policy for Mo〔o〕re”という見出しで今後の指針が述べられている。その最後の章で、「基礎的」研究をやると同時に、従来の半導体関連のみならず、Google、Facebook、Microsoft、Amazonなどコンピュータ業界をも網羅した研究者で構成する共同研究の道が提示されている。そしてそこは、半官半民(semi-coordinated government funding effort)で、すべての米国内の国立研究所を横断した組織となるべきであり、そのような所で次世代トランジスタ技術開発に焦点を絞った研究開発を行おうという提案である。

筆者が興味を引いたのは、従来の政府機関と半導体業界のみでなく、コンピュータ業界をも巻き込んで半導体研究の方向を考えていこうという姿勢である。これぞ正しく顧客と共に市場動向の認識を共有しながら開発研究を行おうという、マーケティングの神髄を究めた提案ではないかと思ったからである。

謝辞:常日頃自己研鑽の機会を頂き、ご指導頂く武田計測先端知財団唐津理事長はじめ職員の皆様に感謝します。またいつも原稿のご査読を賜る元NECの工藤修氏とセミコンポータル編集長津田建二氏に御礼申し上げます。

武田計測先端知財団プログラムオフィサー
東京大学大規模集積システム設計教育研究センター
客員研究員
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻
非常勤講師
鴨志田元孝

参考資料
1. 当日の詳細は第2回AI・人工知能EXPO
2. 他の併設展示会と合わせて、会場の様子は2018 Japan IT Week 春 ビッグサイト 開催報告
3. 大田区の業務報告書の中に当時の開催記録がある。
4. FMEA(Failure Mode and Effect Analysisは工場内で発生した故障や不具合を記録して残し、以後の同種の装置やプロセスを新規に導入するときなどにそれを纏めて分析し、同種の事故や不具合が生じないよう予防する技術である。
詳しくは鴨志田元孝,「(改訂版第2刷」ナノスケール半導体実践工学」丸善(2013)の第10章10.1.3, pp.301-306
5. 詳細は例えばNECグループ総覧2018年 NEC組込みビジネス営業本部カタログ「組込みシステムソリューション」
6. https://www.jetro.go.jp/j-messe/tradefair/nanotech_56010
7. 2012年2013年のNanotech展示会報告はそれぞれ鴨志田元孝, セミコンポータル
8. 鴨志田元孝, セミコンポータル“電子立国復活で未来を拓け、”2015年10月
9. 垂井康夫、“第1章超LSI共同研究所―共同研究所の元祖”、垂井康夫編著「世界をリー
ドする半導体研究プロジェクト」、工業調査会刊(2008)、pp.13-42.
10. 同上p.2
11. H. N. Khan, D. A. Hounshell, and E. R. H. Fuchs, “Science and Research Policy at the End of Moore’s Law,” Nature Electronics vol.1, pp.14-21 (2018)

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