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ナノテクの工業化には計測、製造モニター技術も重要

今年も1月30日〜2月1日に東京ビッグサイトでnano tech 2013(参考資料1)が開催された。年々充実され、盛況になっていくのが肌で感じられるのは喜ばしい。昨年も記述(参考資料2)したが、専門家や、研究機構の室長あるいは大学教授クラスまでが説明員としてブースに立ち、懇切丁寧に話をしてくれるのもこの展示会の特徴である。筆者のように組織を退職し、わからないことを気楽に聞ける環境を失った者にとって、日頃の不明な点を専門家の説明で一挙に解消し、かつ思い浮かばなかった点についても気付かされることがあるのは、大変ありがたいことでもあり、楽しいことでもある。

今回も、不勉強の証かもしれないが、例えば局所的なイオン移動を利用する抵抗変化型素子で、「脳型記憶機能」を作り出す研究(参考資料3)など、筆者にとって斬新な知見が得られた。ただし、筆者のような見学者は商談には結びつかないので、主催者側にとっては余計者にすぎないだろう。この種の展示会を見学する度に、その点をいつも心苦しく思っているが、それは脇に置かせて頂いて、以下感想を述べたい。

ナノテクの代表例の一つに量子ドット(参考資料4)がある。量子ドットの製法としては自己組織化を用いた方法(参考資料5)やバイオミネライゼーションテクノロジーを用いた製法(参考資料6)、あるいはソリューションプラズマの活用(参考資料7)など、いろいろ多数報告されている。この展示会でもパルスレーザー光を照射して球状粒子を簡便に合成する技術(参考資料8)が発表されていた。

一方、その量子ドットの特性に対するドット寸法依存性(参考資料9,10) も既にいろいろな所で報告されている。そもそも量子ドットそのものが微小なので、その寸法ばらつきの抑制には、量子ドットの寸法よりはるかに微小寸法領域での、精密な製法コントロールが要求される。果たしてそのようなコントロールが今の製造技術で十分と言えるほど可能なのであろうか。また計測技術や工程のモニター技術が整っているといえるのであろうか。

ナノテク製造技術の内、原子や分子を組み立ててナノスケールの物質を作り出すボトムアップ法(参考資料11)では「ゆらぎ」を逃れることは難しい。一方、微細加工でナノスケールを得るトップダウン法(参考資料11)では既に肉眼では観察困難な領域に入っており、電子線などで観測してもチャージアップの問題もある。個人的には現場でのモニター計測技術としては光学を用いる技術などが有力候補と思う。またコンピュータで予め計算しておいて、そのサイズに対応する光の波長の検出によるモニターなどもあるだろう。しかしそこにも光照射と発熱との関連など、課題山積と思う。

素材や部品の工業化は再現性の追求であると言っても過言ではない。素材製造時にナノサイズの大きさや物理的特性をモニターする機器や計測技術の開発も重要になる。展示会でも単に材料のみでなく、製造方法や計測技術のパネルも見られたのは心強い。しかし半導体工業に携わった身から見ると、工業化に必要な準備が整っている、あるいはそれに向かって進んでいるとはまだ言えないと思う。

図1に、工業として地に足を着けた発展のために必要な多くの他部門との連携関係を、半導体工業を例に示す。工業化のためには人材、素材・インフラ、生産設備、資金、環境配慮、その他と、バランスのとれた生産技術の確立が必要である。その中の生産設備関連、中でも計測、モニター技術の開発が喫緊の産業課題ではないかと、展示会を見学して感じた。出来上がった素材の測定技術の発表例はあるものの、工程中のモニター技術や検査技術が、製造する場合にはどうしても必要になる。当然、新規な機器の開発に関しては、素材開発や応用分野の研究者との連携も必要であろう。


図1 例として半導体工場稼働に至るまでのお世話になる企業、機関、省庁をまとめた

図1 例として半導体工場稼働に至るまでのお世話になる企業、機関、省庁をまとめた
筆者が半導体の英国工場建設に当たり、ご協力ご支援頂いた経験を整理した。図中、枠で囲んだ生産設備の項目の生産設備会社、保守部品会社、機械保守サービス会社と、その他の項の分析、解析業と記した企業や機関が、製造設備やそれをコントロールする計測機器、モニター機器を主に提供する。


言うまでもなく、計測・製造モニター技術だけが今後必要と言っているのではない。素材の基礎技術開発自体ももちろん引き続き重要である。量子ドットの寸法制御は難しいが、分子レベルならそれが可能であるとして、量子ドットの高密度化可能という長所を謳った分子デバイスのパネル(参考資料 )もあった。

また量子ドットだけがナノテクではない。しかし計測技術やモニター技術が製造上重要なのは、例えばナノカーボン材やそれを使うデバイス分野など他のナノテクでも同様である。ナノテクの産業化促進を念願する者として、基礎技術開発と共に、バランスよく生産技術を開発して、工業化を急いでいただきたいと思う。

しかし、「何か技術を発表すると、飛んでくるのは外国企業の研究者、技術者で、日本企業は来ないか、来てもお付き合いですよ」と言っていた(独)物質・材料研究機構の説明員の嘆きが気になった。この点はこのコラムで禿節史氏も(独)産業技術総合研究所を訪問した折に耳にした言葉として指摘している(参考資料 )。

学会や展示会で貪欲に情報を収集し、何か自分の仕事に使えないか、応用できないかという目で日頃から知識を磨き、アンテナを高くしておくことは技術者の初歩的な使命である。まずはこのような研究者や技術者がすぐ飛んで行くべきだと思う。

また技術の芽を事業にするには、リーダーの力が欠かせない。次の研究課題を見つけ、それに沿ってグループをまとめていける中間リーダー層の育成も重要であるし、上司への提言力を磨くのもリーダー層の務めである。

その提言を取捨選択し、集中と選択をするのは経営層である。それだけではなく組織内の覇気を涵養するのも経営層の役目である。そして経営層こそが、図1のようにバランスよく事業化を進めることができる権限と能力をお持ちのはずである。

このたび、古書ではあるが、柳田邦男氏の「ガン回廊の炎」(参考資料 )を読み返し、富士フイルム株式会社のX線デジタル画像解析技術FCR(Fuji Computed digital Radiography)開発経緯を思い起こす機会があった。そこには上記の技術者―リーダー―経営者の各層がそれぞれ役割を全うし、現在のCR技術の礎を築いたという経緯が詳細に記されている。ぜひ早急なナノテク産業の振興を期待したい。

<謝辞>
一般財団法人武田計測先端知財団の唐津治夢理事長はじめ財団職員の方々には日頃より切磋琢磨の御指導頂いている。また参考資料4の執筆に当たっては財団常任理事 垂井康夫先生に大変お世話になった。そして今回も津田編集長には原稿のチェックを頂いた。合わせ厚く御礼申し上げる。

一般財団法人武田計測先端知財団 プログラムスペシャリスト 鴨志田 元孝




参考資料

1. nano tech 2013 第12回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議
2. 鴨志田元孝、"ナノテクノロジーの産業振興を急ごう"、semiconpotal (2012.2.28)
3. 寺部一弥、"局所的なイオン移動を利用して動作するナノイオニクスデバイス"、(独)物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のパネル、nano tech 2013 (2013,1.30)
4. 例えば鴨志田元孝、"第1章荒川泰彦 量子ドットデバイスの提案と実現"、垂井康夫・赤城三男共編、「世界を先駆ける日本のイノベーター」、オーム社刊(2013年1月25日)pp.1-36
5. 例えば荒川泰彦、"第2章 量子ドットが拓く未来技術"、武田計測先端知財団編、「自己組織化で生まれる秩序」ケイ・ディー・ネオブック発行、化学同人発売(2012年9月10日)、pp.29-56の図2-2
6. 例えばS. Kumagai, H. Murase, S. Miyachi, N. Kojima, Y. Ohshita, M. Yamaguchi, I. Yamashita, Y. Uraoka, and M. Sasaki, "Improving Crystallinity of Thin Si Film for Low-Energy-Loss Micro/Nano-Electromechanical Systems Devices by Metal-Induced Lateral Crystallization Using Biomineralized Ni Nanoparticles," Jpn. J. Appl. Phys. 51, 11PA03 (2012)
7. 例えば上野智永、是津信行、齋藤永宏、"ソリューションプラズマによるナノクラスター合成"、OPTRONICS No.366(6), pp.94-97 (2012)
8. 越崎直人、"サブミクロン球状粒子の簡便合成技術、"(独)産業技術総合研究所のパネル、nano tech 2013 (2013)
9. 例えばD. J. Norris and M. G. Bawendi, "Measurement and Assignment of the Size-Dependent Optical Spectrum in CdSe Quantam Dots," Phys. Rev. B 53, No. 24, pp.16338-16346 (1996)
10. J. Gao, J. M. Luther, O. E. Semonin, R. J. Ellingson, A. J. Nozik, and M. C. Beard, "Quantum Dot Size Dependent J-V Characteristics in Heterojunction ZnO/PbS Quantum Dot Solar Cells," Nano Lett. 11(3), pp1002-1008 (2011)
11. ボトムアップ/トップダウンに関しては、例えば(独)産業技術総合研究所のホームページにて、産総研サイエンス・タウン>未来の科学者のために>ナノテクノロジーの"ナノテクノロジー関連用語"の一つとして詳細な説明がなされている.
12. 若山 裕、早川竜馬、"分子メモリを目指した単一電子素子"、(独)物質・材料研究機構、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のパネル、nano tech 2013 (2013)
13. 禿 節史、"イノベーションの推進が企業成長のための最良の戦略"、semiconportal (2011.3.1)
14. 柳田邦男、「ガン回廊の炎」、講談社刊(1989)、pp.97-138

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