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海水を真水に変える逆浸透膜が一気上昇〜半導体で培った技術が環境に向かう〜

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「海水を真水に変えるというのは人類にとって長い間の夢であった。以前より海水を蒸発させて真水を得る方法はあったが、今日において、私たちの技術がより効果的にそれを可能としたことは、喜ばしい限りだ。この技術は高分子分離膜(メンブレン)という新素材の登場で可能になった。膜ろ過により溶液に含まれる物質を分離、精製、濃縮するというものだが、実はこの技術のベースを作ってくれたのは、半導体産業なのだ。」こう語るのは、日東電工 メンブレン事業部滋賀事業所の所長・田坂謙太郎氏である。

日東電工におけるメンブレン事業は、20年前の1980年代前半に、ブレイクする時がやってきた。半導体製造の超純水向けに需要が一気に急増した。80年前半といえば、16K〜64KビットDRAMというメモリーが、急爆発の時代を迎え、半導体の一大ブームが到来した。日本メーカーもDRAM量産に注力し、80年代後半には、DRAMをコアに半導体の世界シェア53%を握るまでに成長した。日本メーカーの半導体工場建設は、この頃まさに雨後のたけのこのようであった。そこに使われる超純水も急増した。メンブレン技術は約10年間にわたって、半導体の超純水メーカー(栗田工業、オルガノ、野村マイクロサイエンスなど)向けに需要が拡大し一時代を築く。田坂氏は、半導体こそ、メンブレンの育て親だとして次のように述べる。

「もし、日本における半導体産業の急成長がなかったら、今日の海水の淡水化につなげられなかったかもしれない。半導体に続いて、液晶向けの超純水に展開したことで、さらに需要は拡大した。現時点でも、メンブレンの売り上げは全社の数%ではあるが、今後最も成長の期待のかかる部門の一つだ」。

さて、メンブレン技術を応用する逆浸透膜とはどのような技術なのだろう。逆浸透膜の仕組みは、通常、濃度の高い液体と濃度の低い液体を半透膜で仕切ると、純水は濃度の低い方から高い方へ移動する。しかし、濃度の高い液体に圧力をかけると、純水は逆に濃度の高い方から低い方へ導かれる。そこで、高圧ポンプにより、塩分濃度の高い原水を直径100万分の1mmと微細な穴を持つ逆浸透膜に浸透させると、塩分や不純物が除去され、真水ができるというわけだ。

さて、ここにきて世界人口の増大が続いている。現在の60億人が2015年には80億人にもなるといわれており、11億人の人が水不足に悩むと推測されるのだ。地球上に存在する水の97.5%は、海水であり淡水はわずか2.5%しかない。さらにその内利用可能な淡水はほんの一握りにすぎない。近い将来には世界の人口の3分の2が深刻な水不足に見舞われるという警告さえ出ている。海水を淡水化する逆浸透膜は、まさに世界を救う新技術といっても過言ではないだろう。

ちなみに、この逆浸透膜は1960年代にケネディ大統領の命令により米国で開発が始まった。当然のことながら、米国メーカーが先行したが、半導体製造用超純水用途で力をつけた日本メーカーがぐんぐん伸び、いまや世界シェアは50%はあるという。海水淡水化用逆浸透膜のシェアは日東電工がトップであり、ダウケミカル、東レ、東洋紡としのぎを削っている。他の用途を含む逆浸透膜全体では、ダウケミカルが31%、日東電工が28%、東レが15%、東洋紡が5%のシェアとなっている。各社とも需要急増で能力いっぱいの状況にあるという。今後、この分野で大型投資が起きてくるのは必至の情勢にあると言えるだろう。

そして、多くのメーカーにおいて、半導体で培った技術が環境ビジネスに向かうケースがまた急増してくることになるだろう。


産業タイムズ社 専務取締役 編集局長 泉谷 渉

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