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イタリア発の電池は飛躍的に発展した!!〜リチウムイオンのもたらすインパクト

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「半導体や液晶の材料が注目されるのはわかりますけど、今後の焦点はリチウムイオン電池の材料なのよ。それにしても、電池という技術はあの女好きのイタリア男から始まったということを知らない人が多いわ」。みずほインベスターズ証券にあって、電子材料系のアナリストとして売り出し中の山鹿亜紀子(やまがあきこ)氏の談話である。

思えば、私たちの生活のかなりの部分が電池によって支えられている。パソコン、携帯電話、デジタルカメラを始めとする身の回りのIT機器はおろか、自動車のリモコンキーや腕時計にも電池が入っており、もはやこれなしでは生活インフラが成り立たない状況となっている。ところで山鹿氏が指摘するとおりに、電池はイタリア発の技術であり、ボルタという人が1800年に発明している。驚くなかれ、実に200年以上前に電池の概念はスタートしていたのだ。

もっとも現在のような乾電池が発明されたのはそれから80年以上も経った1880年代であり、ここからすべての電化製品が持ち歩きのできる物に変化していった。電池を発明したのはボルタであるが、電池の原理そのものは1791年、やはりイタリアのガルバーニが発見している。水銀電池、アルカリ乾電池、空気亜鉛電池などさまざまな電池が1900年代後半に入って開発され、しかも乾電池(1次電池)から充電池(2次電池)への急速な発展がみられ、現状ではリチウムイオン電池が充電池の主役の座に上ろうとしている。

既に2006年度段階でリチウムイオン電池の世界販売個数は20億個前後に達しており、2015年段階では30億個を突破するとみられている。リチウムイオン電池の世界シェアは三洋電機がトップで約3割を持ち、2位がソニー、3位がパナソニックエナジーであり、この3社で世界シェアの約7割を占めているのだ。半導体メモリーやTFT液晶の覇者として知られるサムスンもこの分野では日本勢の後塵を拝しており、シェアは9%台に過ぎない。

ここに来て、雨あられの設備投資計画が続々と発表されている。トップをいく三洋はリチウムイオン電池月産7000万個、ニッカド電池同4200万個、ニッケル水素電池同4000万個の生産能力を持ち、いわゆる2次電池の世界チャンピオンとなっている。三洋は徳島、兵庫県南あわじ、同洲本市、大阪府貝塚市の工場を順次増設中であり、2010年までに1000億円の投資計画を決めている。ソニーは携帯電話向けリチウムイオンポリマー電池で、高いシェアを持ち福島県郡山と本宮に3年間で400億円を投じ、リチウムイオンの月産能力を現行の4100万個から8割増の7400万個に引き上げる。携帯ノートPC以外の需要開拓で、電動工具などに展開していく。パナソニックエナジーは、リチウム、ニッケル水素、自動車用鉛蓄電池などの2次電池を手掛け、売上げ3000億円超。大阪市住之江の14万7000平方メートルに1000億円を投じ、延べ15万平方メートルの新工場を建設する。東芝も300億円を投じ、新潟県柏崎にリチウムイオン電池の新工場の建設を発表した。

最近では、自動車用に向けた開発競争も激化している。ハイブリッド車、さらにはプラグインハイブリッド車や電気自動車に大量のリチウムイオン電池が搭載されることは確実だ。トヨタ自動車とパナソニックの共同出資会社であるパナソニックEVエナジー社は約1000億円を投じ、宮城県下に2010年稼働の新工場建設を計画している。日産自動車はNECと連合軍を形成し、300億円の投資を発表、中長期的には新工場立地を構えており、さらに1000億円の新工場建設を打ち出す考えだ。この他にも三洋電機とフォルクスワーゲン、GSユアサと三菱自動車のように電池メーカーと自動車メーカーが連携して研究開発を急ピッチで進めている。また、太陽電池を得意とするシャープも慶応義塾大学発のベンチャーであるエリーパワーと共同で自動車向けの大型リチウムイオン電池の開発促進に余念がない。

リチウムイオン電池の大型投資が急速に立ち上がっている現状において、次の争点は主要な材料メーカーに集まってきた。電解液は宇部興産がトップをいき、正極材については日本化学工業が首位をいく。負極材は日立化成がトップシェアを固めつつあり、セパレーターについては旭化成が断然のシェアを有している。総合化学トップの三菱化学はこの4大材料のいずれの分野でも2位以下に甘んじており、威信に関わるとして大型投資を断行する。同社の場合、4大材料すべてを持つ唯一のメーカーであることが強みだ。

リチウムイオン電池の過充電や過電流を保護するICの世界も今後の大増産に向けて準備が進む。セイコーインスツルは、この分野の電池保護ICの世界チャンピオンであり、マーケットシェアは実に4割に達している。携帯電池のワンセル用からノートPCのフォーセル用までラインアップしていることが強みだ。最近の携帯電話では、1台あたり数個搭載されており、今後も需要は底堅いものがある。ミツミ電機は、このリチウムイオン電池保護ICと8ビットマイコン、EEPROM、周辺アナログ半導体をモジュール化したCOBを強化している。この増産のために06年度には、フィリピン・セブ島で設備を増強した。携帯電話向けに月産2000万個弱まで増産できる体制を整えた。

リチウムイオン電池の市場が急拡大し、ここに使われる半導体が重要な意味を持つようになるのであれば、アナログ系に強い海外の半導体メーカーは黙っているわけはない。日、米、欧を巻き込んだリチウムイオン電池の部品戦争の幕が切って落とされた、と言ってよいだろう。


産業タイムズ社 専務取締役 編集局長 泉谷渉

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