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サムスン、国家を背負う〜6割減益でも1兆6000億円の巨大新工場建設決定

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「サムスン電子は現在の韓国にあって単なるITの一大企業ではない。GALAXYと液晶テレビで今や世界中がサムスンに注目している。そしてまた、韓国のGDPの20%はサムスングループが占有しており、何と納税額の30%がサムスングループの人たちが払っているのだ」。

眼をらんらんと輝かし、息巻いてこう語るのは、筆者が所属する産業タイムズ社のソウル支局長のオム・ジーハンである。彼は日常的にサムスングループに接触しているだけにその底力を一番知っている記者なのかもしれない。

さて、スマートフォン、液晶テレビ、フラッシュメモリー、DRAMなどの分野で世界チャンピオンの座にあるサムスン電子は、サムスングループの中核を占めるカンパニーとなっている。2013年における連結売り上げは20兆円を超えてきており、日本の電機メーカーにとってその背中は遠くなるばかりだ。「何をやっても勝てない」と悔しげに語る日本のメーカーの幹部の声を聞いたときに、20年前にこのサムスンの巨大な姿を想定した人はいただろうか、と思ってしまう。

ところがここに来て、サムスン電子の業績が大きく下振れしている。2014年7〜9月期の売上高は、前年同期比20%減の47兆ウォンに急落した。営業利益はさらにひどくて4.1兆ウォン(約4100億円)となり、過去最高だった前年同期に比べ6割も減益という状況になってしまった。実は前年同期を下回るのは4四半期連続であり、中核を占めるスマートフォンの不振がさらに加速している。いうまでもなくサムスンの前に立ちはだかる大きな敵は、中国の安物スマホメーカーである。ちなみに同社の半導体部門は、DRAMやフラッシュメモリーなどがデータセンターやパソコン向けに供給量拡大が続き、実はかなり好調なのだ。それでも大黒柱のスマホの不振を埋めることはできなかった。

「こうした状況にあって、それでもサムスンは、果敢に挑戦することを止めない。韓国京幾道平澤市に第1フェーズの投資額だけで15.6兆ウォン(約1兆6000億円)に上る半導体新工場の建設計画をアナウンスした。おそらくこの工場は同社最大規模の生産能力になるだけでなく、世界最大の半導体工場になる可能性もある。厳しい時にこそ歯を食いしばって巨大投資に踏み切る、というのがサムスンの真骨頂なのだ。まさに、恐るべし、サムスンである」。

これは国内半導体業界で著名なアナリストである南川明氏のため息をついての談話である。しかしながら南川氏は、IT産業の成熟化が見え始めてきたこの時期に(編集室注1)、あまりにアクティブすぎる投資とみる向きもあるのだ、と指摘する。要するに供給過剰による半導体市況の乱れを懸念しているのだ。実際のところサムスン電子は、韓国京幾道器興に加え、華城、米テキサス州オースティン、中国西安などに大規模な半導体工場を稼働させており、短期間にキャパシティが不足するとは考えられない。

ただ筆者のつかんだ情報によれば、2015年以降は一時的にパソコンが盛りかえすとの見方も出ているようだ。それはマイクロソフトのウィンドウズを搭載するPCタブレットが本格的に出てくるわけであり、ここではDRAMが大量に搭載されるだろう。また、どこかの時点で、サムスンは他社のスマホのシステムLSIをファンドリ受注することも増えてくるかもしれない。同社によればIoT(Internet of Things)やロボット産業など新規分野に半導体の需要が増加すると判断しており、設備投資であくまでも先行するとの考えなのだ。

今やサムスンは韓国という国家を背負っている重要カンパニーとなっている。一説によれば、こうした積極投資は朴政権の経済活性化政策に迎合する一種のリップサービス、という半導体専門家筋の指摘も出ている。韓国の国内経済は現状で決して良いとはいえない。サムスンの投資に期待する声は数多いのだ。

しかしそれにしても、フラッシュメモリーでサムスンを追撃する東芝が死力を振り絞る四日市のフラッシュメモリー新工場を先ごろアナウンスしたが、この投資額が5000億円である。サムスンの今回の投資は、東芝の新工場の3倍以上のスケールになる。つまりは、いよいよ東芝を突き放す戦略に出た、と見るのが一番正しいのかもしれない。

産業タイムズ社代表取締役社長 泉谷渉

編集室注
1) IT産業は今、ビッグデータ・クラウド・モバイル・ソーシャルという4大トレンドに乗っており、それらのハードウエア・ソフトウエア・サービスが成熟化してきたとは、セミコンポータル編集室では見ていない。クラウド向けの半導体チップはこれから本格的に登場し、ビッグデータを牽引するIoT(Internet of Things)もこれからだ。モバイルの登場でようやく今、ユビキタス時代を迎えた。ソーシャルではピア-ツー-ピアなどの新サービスとRF技術も5G通信と絡む。IT産業の進展は、むしろこれからだと見ている。

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