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水素エネルギー本格採用の時代がやってきた

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水素エネルギーの時代が本格化の様相を見せ始めている。水素エネルギーを活用した燃料電池車(FCV)(編集室注)については、トヨタが早々と2015年の販売をアナウンスしており、燃料電池は従来の20分の1の500万円を目標にしている。ホンダも2015年のFCV投入を予定しており,日産は少し遅れたものの2017年には本格参入を計画しているという。

燃料電池車普及のためには水素ステーション建設は待ったなし、の状況となってきた。日本政府は2030年までには1000カ所の水素ステーションの整備目標を掲げている。しかしながら、現状で設置が決まっているのはたったの41カ所。「こんなことではどうにもならねえ」とばかりにトヨタ自動車は自前で水素ステーションを作っていくことをアナウンスした。さらに、JX日鉱日石エネルギーは究極のエコカーの燃料電池車の可能性を信じて、2018年度をメドに水素ステーションを100カ所設置することを先ごろ決定した。

水素ステーション普及への最大の鍵は、建設コスト低減にある。海外では1カ所1億〜2億円程度であるが、日本では5億円もかかっているのだ。ちなみに、デロイトトーマツコンサルティングによれば、2025年の水素ステーション市場は全世界で3000カ所は行くだろうとしており、そのうち米国はやはり最大の市場であり、全世界の60%以上を押さえるとみているのだ。

燃料電池車ばかりが水素エネルギーの話題を集めるアプリとなっているが、実は発電分野においても脚光を浴びはじめた。周知のように日本においては天然ガス輸入増による貿易赤字が積みあがっており、これを再生可能エネルギーで補うのはあまりに道が遠い。

もちろん日本勢が得意とする薄膜太陽電池普及に向けての努力は行政サイドでも進められている。神奈川県は民間企業の6事業に2014〜15年度の2カ年間で計10億円の補助金を支給し、計7000kWの発電設備設置に思い切った助成を行うことを決めた。この事業を行うのは、ナイス、三菱化学エンジニアリング、ソーラーフロンティア、トノックス、萬世リサイクルシステムズの各社であり、ナイスは2カ所で発電設備を設置する。この事業には薄膜太陽電池を量産するカネカ、三菱化学、ソーラーフロンティア、フジプレアム、パワーバンクシステムのものが採用されるだけにインパクトは大きい。

それはさておき、ただちに効果を出すという大型エネルギーとしては、やはり水素発電の期待度は高いのだ。水素を天然ガスに混ぜて火力発電燃料として活用する水素混焼発電が先行するが、将来は水素燃焼発電も考えられている。川崎市と千代田化工建設は共同で水素ネットワークの確立と商用水素発電所の整備を計画している。また、一方で火力発電所と燃料電池を組み合わせたコンバインドサイクルについても開発は進んでいる。

水素インフラに注力する企業として注目されるのは、前記の千代田化工建設、JX日鉱日石エネルギーのほかに、日立造船、大阪ガス、東邦ガス、大陽日酸、岩谷産業、出光興産、神戸製鋼所、川崎重工業、三菱化工機などがあり、さらに新規参入企業も増えてくるだろう。

地方行政の水素エネルギーへの取り組みとしては、いくつか実のあるものがラインアップされはじめた。福岡県はかなり早い時期に水素エネルギー戦略会議を設置しており、北九州水素タウンプロジェクトを推進している。また宮城県宮古市ではバイオマスから水素を製造する技術に取り組んでいる。

水素ステーションの設置計画を見れば大半が首都圏と愛知県に集中しており、関西、東北、九州、四国は整備計画があまり進んでいない。1億〜2億円で設置でき、移動することも可能な小型施設の普及が今こそ求められているのだ。そしてまた、小型軽量化に貢献するのは、機械加工技術に加え、半導体、電子部品などの採用による工夫が重要になってくる。水素エネルギーは、燃料電池車、水素ステーション、水素発電所の3方向で大きなビジネスチャンスを日本企業にもたらすことになるだろう。

編集室注)燃料電池には電気を溜める役割はなく、水素と酸素の反応により発電する。セルの電圧は1V弱。ただクルマに使う場合にはモータのトルクが十分ではないため、リチウムイオン電池も併用する。リチウムイオン電池は回生ブレーキ用の発電にも使うためモータ制御用インバータ向けパワー半導体や制御用マイコン、絶縁素子などは欠かせない。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

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