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FPDの市場鈍化に対し様々なトライアル〜湾曲・透明・バイオディスプレイ

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電子ディスプレイの市場規模はディスプレイサーチによると、2014年段階で1620億ドルに達する見込みであり、半導体市場の約半分を占めると予想されている。しかしながら、この市場調査会社の調べでは2010年から2020年までの10年間の伸び率は、7.4%と鈍化する見込みだ。

これまで爆発的に伸びてきた電子ディスプレイ市場に少し陰りが見えてきたのだ。液晶テレビは2億3000万台程度の水準をこの5年間も続けるといわれ、要するに頭打ちになってきた。また、パソコンの世界も数年前の4億台から3億台に下がってきた。スマートフォンだけが元気であり、2013年は10億台となり、前年の7億台から急成長した。しかし、これも20億台に近づくに従って成長が鈍化するといわれている。こうした状況下で、ディスプレイ大手の今後の開発に世界の人たちが注目するのは当然のことなのだ。

「液晶、有機ELなどFPDの技術はここにきて急速に進化している。皆さんの家庭を映画館状態にしてしまう湾曲ディスプレイ、家庭の家具や窓ガラスとしても使える透明ディスプレイは、もう実用化段階だ」。こう語るのは、サムスンディスプレイにあって副社長を務めるHaksun Kim氏である。

電子ディスプレイ業界で世界最大級の展示会であるファインテックジャパン(会場=東京ビッグサイト)に招かれたKim氏は基調講演でトップバッターを務め、驚くべきFPDの将来を語って見せた。いまや有機ELディスプレイを搭載したサムスンのスマホGalaxyは世界を席巻しており、液晶テレビにおいても世界チャンピオンであるサムスンのディスプレイ部門の研究開発トップが語る言葉であるから、みな大いに注目したのだ。

「今やFPDは見るだけの世界ではなく、世の中のすべてを見る窓口になっている。これからは、においを感じるセンサー、人間の眼にあたるセンサー、さらにはマイクロスピーカーなどもパネルに内蔵するオールインワンディスプレイが登場してくるだろう」(Kim副社長)。

ファインテック基調講演で2番手に登場したAUOのHong-Jye Hong副社長は、サムスンと同様に湾曲テレビの開発に全力を上げていることを強調した。つまりは、眼の生理現象からみてカーブを描いた大型映像のテレビこそが、もっとも眼に優しく没入的な視聴体験ができるというのだ。

しかし大型テレビに応用するのであればいくつかのボトルネックがある。まず第1にガラスは曲がらない。第2に高性能なフィルムを使うが、温度変化に強い接着剤が必要になる。偏光板にも工夫が必要で、ITO膜も折れないタイプがいるのだ。また、液晶ではなく有機ELでこの湾曲テレビを実現しようとするならば、むしろ色を減らした方が良いことがわかってきた。映画館のような臨場感を持つ湾曲型の大型テレビはヒット間違いなしとみられるが、まだまだ技術的な解決課題が多い。

湾曲テレビの登場で皆さんの家庭が映画館になってしまう、というサムスンやAUOの主張には全くうなずくところが多い。しかして筆者はヘソ曲がりであるから、映画館の中で起きている観客の小さなため息、そしてしのび笑い、さらには暗闇が隠してくれる感動の涙の筋だけは、決して映画館のようには行かないと考えてしまう。ましてや、あっと驚くシーンの館内におけるざわめきや、喜びや悲しみを共有している群集の雰囲気はどうあっても家庭におけるテレビでは再現できない。

一方、透明型ディスプレイは家庭やオフィスの大きな窓に採用すれば、これがすなわち電子ディスプレイになってしまう。また、透明なガラス状のテーブルにこの透明ディスプレイを応用すればテーブル上で映像を見たり、どこかの誰かとメールをやり取りしたりすることもできるようになる。さらには、点いていないテレビが置かれているのは邪魔くさいという人は、普段は透明なガラス板のようなテレビを置いて部屋のデザインの一つにしてしまえばよい。今少しブームとなってきた商業看板のデジタルサイネージにも透明型ディスプレイは大いに役に立つのだ。サムスンやAUOはこの分野においても先頭を走っていく構えだ。

さて、韓国、台湾のFPDのエース達が示して見せた次世代ディスプレイの世界は実に面白かった。ITの成熟化をブレークして見せる気概が強く感じられたのだ。それにしても、サムスンのKim副社長が述べていた「女の小じわをなくす波長を発信するバイオディスプレイ」には驚かせられた。当然のことであるが、会場にいた女性たちはそこのくだりは、とりわけ熱心にメモを取っていた。

(株)産業タイムズ社 代表取締役 泉谷 渉

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