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航空機関連産業は成長の機会〜三菱重工、川崎重工など大型投資相次ぐ

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「三菱重工業やホンダの小型ジェット機の国産化が話題になっている。しかしながら、なにゆえに値段のはる戦闘機や大型旅客機を日本は作らせてもらえないのか。誠に不思議である」。筆者が、シェールガス革命の一大インパクトで航空機産業が爆発する、というテーマで講演していた時に、会場から出た素朴な質問であった。

この時筆者は苦笑いしながら次のように答えた。「かつて零戦や隼を作った日本の航空機の技術力は世界が認めている。昭和20年の終戦直前に作られた紫電改は当時世界最強の戦闘機であり、実戦ではたった60数機しか使われなかったが、戦後米国がこれを分解してのけぞった。こんなに凄い技術力をもつ日本に二度と戦闘機を作らせてはならない、と彼らはうなるように言ったのだ。答えにならないかもしれないが、これが答えです」。

別に何かの法律があるわけではない。また具体的に日本が戦闘機や大型旅客機を作ってはいけない、という世界的な決まりがあるわけでもない。ただ戦艦大和をはじめとする日本のかつての軍事技術を知っている世界中の国が、眼を光らせて日本がその方向に向かうことを抑止しているというしかない。もっとも、戦闘機を作っていたエンジニアの多くは戦後、自動車メーカーに生きる道を見つけて我が国を世界一の自動車立国にしていったという歴史はある。

さて、航空宇宙産業は、近い将来に300兆円の巨大マーケットを築くといわれている(編集室注)。乗客数で現状の10倍以上、航空産業ハードで現状の5倍以上には膨れ上がると見られているのだ。これを反映して、三菱重工業はいよいよ国産ジェットのMRJの量産に向けた構想をまとめ、名古屋空港隣接地に300〜400億円を投じる新工場建設を構想し始めた。また川崎重工業も愛知県下で300億円以上投じる航空機エンジン関連の新工場建設を計画している。

こうした航空機メーカーおよびこの関連産業は今後も期待できるわけであり、日本航空電子、パナソニック、ジャムコ、富士重工業、ミネベア、ブリヂストン、横浜ゴム、東レ、横河電機、日機装などの各関連部材メーカーは、いずれも設備投資計画を策定中であり、メーカーによっては新工場立地も出てくるだろう。このうちブリヂストンは北九州工場がかなり狭隘化していく見通しであり、いずれかの時点で用地手当てをしていくと推定される。東レは場合によっては50万m2以上の用地手当に出るとも言われている。

今のところは愛知・長野を中心とする航空機コンソーシアムが大活躍しており、東北では秋田県のコンソーシアムの活躍が目立ち始めた。各都道府県は次世代産業としての航空産業にフォーカスしなければならないだろう。産官学連携による研究開発、新たな素材や部品の開発に伴う中小企業の活性化、さらにはこの関連の企業誘致を進めるための魅力ある特別プロジェクトなどの策定が急がれるところだ。

ところで戦闘機や大型旅客機を作らせてもらえないならば、日本の行く道は部品・素材およびITシステム、さらには半導体、ディスプレイなどで儲けるしかない。ボーイング787は今のところ不安定な飛行機であるが人気は高い。計画によれば850機を作ることになっており、1機あたりの値段は200億円と推定されるだけに、ボーイング787だけで生産金額は17兆円に上るのだ。このうち約30〜40%の部品や素材を日本企業に発注するとも言われている。そうなればおおよそ6兆円の金が日本企業に転がり込むことになる。

ちなみにわが日本の半導体産業の2013年度生産額はおそらく32社合わせて3兆円強といったところだ。日本の総力を挙げて売り上げる半導体の金額を、ボーイング787たった1機種の日本企業への発注額が上回ってしまう。まさに時代の節目というか、裂け目が見えてきたといってよいだろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉 (2014/03/11)


編集室注)
2008年から2028年までの累計で300兆円という新規需要の数字はあるが、1年間の市場規模ではない。ちなみに日本の航空機産業の生産額は2009年で1.2兆円だという。宇宙産業の世界市場は2008年に15兆円。
参考資料:http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100423a05j.pdf

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