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シェールガス革命の一大インパクト〜日本の重化学工業復活を意味する

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つい先ごろ、筆者は『シェールガス革命で世界は激変する』という本を執筆させていただいた。長谷川慶太郎先生との共同執筆となるものであり、版元は東洋経済新報社。12月10日に書店に一斉に並んだが、ただちに重版が決まるというほどのメガヒットぶりに、いささか驚いている。しかして、シェールガス登場で未来はどうなるのか、という関心を持つ読者が多いということの証左だろう。

なにしろ、kWhあたりのコストが、石油10円、風力20円、太陽光35円というのに対し、シェールガスはたったの6円なのだ(編集室注)。しかも埋蔵量が少なくとも150年分、実際には300年以上もあるともいわれている。なおかつCO2排出量は石炭に対し40%、石油に対し15%も少ないのだ。米国はこのシェールガスの取り出しについて独占的な知財権で固めており、ピンポイントで見つけ出し、堀り上げ、精製まで持ち込むすべての工法を確立している。世界のシェールガスの4割はアメリカにあるといわれている。中国をはじめ、世界各地にはシェールガスはあるものの、前記の事情でアメリカが一気に最先行することになる。

しかして、わが国日本ではシェールガスはほとんど出てこない。わずかに秋田県由利本荘でシェールオイルが見つかった程度である。それならシェールガス革命は米国に最大の恩恵をもたらすが、日本にはそれほどのメリットはない、と考える人たちも多い。ところが、実はそうではないのだ。結論を先に言えば、シェールガス革命で日本の企業には莫大なメリットが生じてくる。

シェールガスを取り出すためには2000mも掘り下げる訳であり、この圧力に耐えられる鋼管パイプは、新日鉄住金など日本の鉄鋼メーカー以外には作れない。シェールガスを精製して気体から液体、液体から気体へとリサイクルを行うが、このプラントは住友精密工業と神戸製鋼しか作れない。一番難しいのはアルミの穴あけなのだ。技能オリンピックで十数年連続金メダルを取る日本の「匠」の技術の一つである。シェールガスを収納する圧力容器には炭素繊維が使われる。この分野は東レ、帝人、三菱レイヨンの国内勢が世界シェアの70%を握っており、ここにも強い追い風が吹くのだ。

シェールガスは大型タンカーで輸送することになるが、ここでモノをいうのがアルミの厚板であり、これまた古河スカイなど日本勢しか作れない。地中から引き上げてきたシェールガスの原材料に対し、大量の水を使うが、この水量全体を減らすために膨大な窒素を使用することになる。材料ガス国内最大手の大陽日酸に聞いたところ、間違いなく窒素の出荷量は急増してきたという。さらにいえば、シェールガス採掘に伴う工事は土木であり、大型ブルドーザー、各種ショベル、大型トラックが必要になる。日立建機やコマツにもまた注目が集まるだろう。そしてまた、これらの建機に使用する超大型タイヤは、世界でただ一つブリヂストンにしか作れないのだ。

と、まあ、こうしてシェールガス関連で、儲かると思われる企業名を列記してきたが、要するに株の推奨銘柄を言っているようなものなのだ。しかして残念ながら、泉谷クンは株が買えない。業界でいうところのインサイダーであり、株を買えば、懲役3年の刑罰が加えられるわけであり、買えなくて悔しいから皆さまに推奨株を申し上げているのであります。

さて、東京都は400億円のファンドを積んで、東京湾岸に火力発電10基を作る計画を打ち出している。猪瀬新知事は必ずや断行するだろう。ここにもシェールガスを中心とする天然ガスが採用される。原発稼働や着工が難しい現状にあって、火力発電こそが日本の中心的なエネルギーになるだろう。世界的に見ても火力発電こそが主力、という声が多いのだ。こうなれば、原発プラントで世界トップシェアを持つ東芝は、その持てる技術をシェールガスに転用して稼ぐだろう。また、ガスタービンでは世界ナンバーワンの折り紙つきの三菱重工業にも福音がもたらされることになる。

これでおわかりであろう。シェールガス革命によって、昭和30年代から50年代にかけて大活躍した鉄鋼、重電、化学などニッポンの重化学工業が華麗にも大復活することになるのだ。時あたかも、日本の家電産業の全軍総崩れ、半導体産業の一気凋落という状況を迎えている。しかしながら、シェールガス火力発電さらにはシェールガスハイブリッド車などの動きが加速すれば、マイコン、システムLSI、メモリー、パワーデバイスなどの新たな半導体技術が求められることになる。そしてまた、シェールガス関連の部品、材料などの産業も大きく勃興してくることになるのだ。シェールガス革命は日本に最大の追い風をもたらすという認識を、キッチリと持っていただきたいと切に願っている。

産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷 渉

編集室注)
米国が強固な岩盤を砕く技術を開発、シェールガスが注目されているが、日本にとって低価格で米国から入手できるかどうかは全くの未知数である。

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