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限りなく落ちていく「よろこび」はあるのか!〜未来の産業に夢をかけるべき

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「ギリシャに端を発するEUの経済クライシスがいまだ解決がつかない。北朝鮮では将軍様も亡くなってしまった。韓国などは厳戒態勢にあるというのに、東京・銀座を闊歩する若い女性たちの朗らかな顔といったらない。我が国ニッポンはいつからこんなに危機感のない国になってしまったのか」。

銀座ならぬ日暮里の薄汚い居酒屋で、筆者のような初老のオジサンが呟いていた言葉ではある。太平洋戦争が終結して以降の我が国は、日米安保条約の傘の元に守られてきた。要するに防衛のところは全てアメリカにおんぶに抱っこであり、日本はひたすら経済成長のことだけを考えていればよいという幸運に恵まれすぎていた。韓国のように徴兵制がないから、若者たちは軍事訓練を受けることもなく、遊んでいられる。

半導体の世界においても、ニッポンを取り巻く情勢は厳しいのに、どうも切羽詰まった危機感を感じられない。なんとかなるさ、明日があるといった言葉で語られるほどに、日本の半導体産業はもはや能天気ではいられない。おそらく2011 年の世界半導体市場は1%前後の成長であると思われるが、国内メーカーについてはそれどころではない。7〜8%のマイナス成長はほぼ確実であり、またもニッポン一人負けの様相を呈している。バックトゥーザフューチャーではないが、生産においてもマーケットにおいても、我が日本は7〜8年前に逆戻りしてしまったような感じもあるのだ。

しかし個別の製品や個別のメーカーを見てみれば、決して日本勢が負けているわけではない。次世代のiPhoneに使われるCMOSセンサーはソニーがほぼ圧勝という情勢であり、この2年間で3000億円以上の巨額の設備投資を断行するという。NANDフラッシュメモリーについては東芝が数量面でサムスンを追い抜いており、世界トップの水準だ。東芝の場合はメモリーカードや民生用途が多いために生産金額が低く、サムスンの場合はサーバーなど高価格帯に強いために、金額面では東芝はサムスンを抜けない。しかしながら東芝が頑張っていることには違いない。最先端パワー半導体IGBTの分野では三菱電機が世界チャンピオンの座にあり、LEDについては日亜化学がいまだに世界トップを走っている。業績の悪いルネサスにしても、車載用マイコンだけを取れば世界シェア43%を握っているのだ。それでも全体としては負ける。

「製品戦略における絞り込み、さらにはリストラもやっており、日本メーカーもこの間、再上昇に向けての努力はしてきた。しかしながら、成熟化してきたITの分野では、いかに日本メーカーの品質が良くても、コストで戦えない」。呻くように、唸るように、酒も飲まず、場末のラーメンを食いながら国内半導体関係者の幹部が放った言葉である。

しかしながら筆者はこう思うのだ。成熟化した世界ではなく、これから開けてくる未来の産業に夢をかけることだってできるのに、なぜその設計図を描けないのかと。常に世界初の製品、世界初の技術を送り続けた日本のエレクトロニクスのスピリッツは、どこへ行ってしまったのか。なぜアジア勢と同じステージで戦うのだろう。アジア勢には及びもつかない新しい世界はいくらでもある。ロボット産業、最先端医療機器産業、航空宇宙産業、次世代環境車、地熱発電+ヒートポンプなど、枚挙にいとまがない。ため息をついているだけでは新しい世界は開けないのだ。

そう呟きながら五杯目のハイボールを注文したときに、隣のつぶやきオジサンは、またも素晴らしい言葉を吐き出した。「落ちていく喜びだってあるのさ。いたぶられる楽しさもある。40〜50年前のみすぼらしく貧しかった日本に回帰していく快楽は、成長する新興国には分からないものだろう。ちくしょうめ」。

この夜、酔いは一気にまわってきたのであった。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

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