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半導体産業における「風を読む」V〜2011年半導体ファブの生産能力

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第五回目の「風を読む」は、「半導体ファブの生産能力」市場動向についてである。今回はSICASが2011年2月に2010年Q4の実績データを公表したのを機に、半導体ファブの生産能力(加工精度別と12"ウェーハ)についての数学的相関関係、およびこの数学的相関関係を利用した12"ウェーハ生産能力に対する予測手法、さらに半導体製造装置市場(前工程)と生産能力との数学的相関関係を紹介する。

図1 ウェーハサイズ別の生産能力

図1 ウェーハサイズ別の生産能力


図1は、SICASが公表しているウェーハサイズ別生産能力をMOS ICにつき、ウェーハサイズ12"(12インチ)、8"、8"未満の3グループに別け、2000〜2010年の11年間に渡り、公表された実績値を四半期ベースで図示化したものである。半導体合計としての生産能力は、MOS ICにディスクリートとバイポーラを加えたものであるが、半導体市場における生産能力拡大に寄与しているのがMOS ICであることからMOS ICのみを図示した。SICASの統計データに12"ウェーハの生産能力データは2004年Q1(第1四半期)より公表されたが、実際にはインフィニオンが1999年9月に0.25μmプロセスの64Mbit DRAMをパイロットラインで生産し、2002年1月0.14μmプロセスの256Mbit DRAM を市場投入しており、2004年Q1以前より12"ウェーハの生産能力は存在していた。


図2 加工精度別の生産能力

図2 加工精度別の生産能力


図2はSICASが公表しているMOS ICの加工精度別生産能力を、ハイエンド製品をカバーする 0.08μm未満(2009年Q3〜2010年Q4は0.06μm未満 + 0.06μm以上〜0.08μm未満で表示)、 メデイアムクラス製品をカバーする0.08μm以上〜0.4μm未満、ローエンド製品をカバーする 0.4μm以上の3グループに別け、2000〜2010年の11年間に渡り、公表された実績値を四半期ベースで図示化したものである。また図1で示した12"ウェーハの生産能力を本図に折れ線グラフで加えている。

本図から12"ウェーハの生産能力は、加工精度0.08μm未満(ハイエンド製品)の生産能力とほぼ同一であることが理解できる。SICASの統計データでは、0.08μm未満の生産能力データは2007年Q3より公表されたため、2007年Q3に616.9kpcs/週(8"換算値)という大きな数字が突然現れたようになっているが、実際には0.08μm未満である65nm プロセスにおいてMOSマイクロ系としてインテルが2006年1月MPU (Preslerコア)、メモリー系としてサムスンが2006年7月 8Gbit(1GB) NANDフラッシュ、ロジック系としてTSMCが2006年5月受託生産で市場投入している。各社ともこれらに対する具体的生産能力を公表していないため 生産能力データは不明ではあるが、2007年Q3以前より0.08μm未満の生産能力は存在していた。


図3 加工精度別生産能力の時系列分布

図3 加工精度別生産能力の時系列分布


図3は2000〜2011年の11年間に渡り、四半期ベースでMOS IC全体の生産能力を100%とした時のそれぞれの時期における最先端とされた加工精度の生産能力を%表示で示し、加工精度ごとに2年半(10 x 四半期)の時間軸単位で時系列分布を図示化したものである。本図からMOS IC全体の生産能力を100%とした場合、それぞれの四半期で最先端とされた各加工精度の生産能力が30%前後から始まり、2年半(10 x 四半期)で50%前後に成長する繰り返しパターンであることが理解できる。

現在SICASの統計データ上で示されている最先端加工精度は0.06μm未満であり、2010年Q4までは2011年2月にSICASより公表された実績値より算出した%表示値であり、2011年Q1〜2011年Q4は予測値である。


図4 加工精度別の生産能力

図4 加工精度別の生産能力


図4は、図3から推測した2011年Q1〜Q4における0.06μm未満の生産能力数値に0.06μm 以上0.08μm未満の生産能力数値についても推測したものを加えたものである。0.08μm未満の生産能力数値を予測し、ほぼ同一生産能力を持つ12"ウェーハ生産能力を予測、折れ線グラフで示し、2000〜2011年の12年間に渡り、四半期ベースで図示化している。


図5 ウェーハサイズ別の生産能力

図5 ウェーハサイズ別の生産能力


図5は、図4で予測した2011年Q1〜Q4における12"ウェーハ生産能力に、8"ウェーハは生産能力が微増、8"未満ウェーハは生産能力が微減と推測し、2000〜2011年の12年間に渡り四半期ベースで図示化したものである。


図6 12

図6 12"ウェーハ生産能力(増加分)と半導体製造装置(前工程)市場規模との相関関係


半導体メーカーに納入された半導体製造装置(前工程)は、時間的ずれを持って半導体ファブの生産能力増加に寄与している。図6では当年Q1〜Q4に売り上げのあった半導体製造装置(前工程)が当年Q3〜翌年Q2 の12”ウェーハ生産能力増加分に寄与すると想定している。この図は、SICASデータベースに基づく12”ウェーハ増加分とSEMIデータベースに基づく半導体製造装置(前工程)の市場規模を2005〜2011年の7年間に渡り図示化したものである。 

図1〜5が2000〜2011年の12年間に渡り図示化し分析しているのに対し、図6において7年間の時間軸となっているのはSICASが12”ウェーハ生産能力の統計データを公表したのが2004年Q1からであり、12”ウェーハ生産能力増加分の算出が2005年分よりしかできないためである。

本図において半導体製造装置(前工程)の市場規模は、12”ウェーハ増加分から下記Inoue Formulaで知ることができる。

Inoue Formula  = α x ( 12"ウェーハ増加分 + β)  --- 数式A

定数αβに対する論理的な算出は、現状できていないが、経験則として2005〜2008年については「α=3.8, β=2000」、2009〜2011年については「α=7.9, β= -520」を採用する。

具体例として、2011年の半導体製造装置(前工程)市場規模は下記のようになる。

7.9 x (4,780 +(- 520)) = US$ 33,650 million (2010年(暦年)比 +14% )


なお 上記数式Aは一次方程式であるが、これは計算を容易にするためであり、より一層の近似性を求めるのであれば、二次元方程式、三次元方程式と、より多次元化することにより数学的に表現することは可能である。

また、2005〜2006年には、8"未満、8"ウェーハへの設備投資が含まれていることが一因しているのか論理的算出がまだできていないが、 2005〜2011年の7年間に渡る半導体製造装置(前工程)市場規模と12”ウェーハ増加分との相関関係を示す、一つの式としてのパラメータ(α、β)を見つけておらず二つのパラメータで示した。今後、一つの式としてのパラメータを見つけた時点で上記二つのパラメータを一つのパラメータに変更する。

図7 12

図7 12"ウェーハ 1k枚/月当りの半導体製造装置(前工程)規模


図7はSICASデータベースに基づく12"ウェーハの生産能力増加分とSEMIデータベースに基づく半導体製造装置(前工程)の市場規模を12"ウェーハの生産能力増加分で割り、12"ウェーハ1k枚/月当りの半導体製造装置(前工程)規模を2007〜2011年の5年間に渡り図示化したものである。

12"ウェーハ1k枚/月当りの半導体製造装置(前工程)の表示を2007年よりとしているのは、8"未満ウェーハ、8"ウェーハ、12"ウェーハの各年での生産能力増加分を見た場合、2007年以降12"ウェーハが大部分を占め、市場投入された半導体製造装置(前工程)は、12"ウェーハの生産能力拡大に費やされたと想定しても支障がないとしたからである。

12"ウェーハ 1k枚/月当りの生産能力を増加させるのに必要な半導体製造装置(前工程)の単価が2007年より上昇している要因として、時間の経過と伴に 90nm⇒65nm⇒45nmなどと生産プロセスが微細化するごとに生産プロセスが複雑化し、プロセス数が増加したことが挙げられる。また、露光機技術においても、光を利用した露光技術でありながら従来のドライから液浸など新しく高価な設備投資を必要とするなどが挙げられる。

90nmまでのプロセスは、中規模の半導体メーカーであっても設備投資金額が投資可能なレンジであったため、多くの半導体メーカーが参入していた。しかし、1k枚/月当りの12”ウェーハ生産能力を増加させる半導体製造装置(前工程)単価が上昇したことにより、65nm以降は半導体メーカーの設備投資金額の負担を大きくした。さらにギガファブという名称が出るほどファブの生産規模が巨大化したことも加わり、莫大な設備投資ができる資金力を持った半導体メーカーだけが先端プロセスを持つことを可能としている。

過去、半導体メーカー間の競争は、プロセス開発力と生産技術が中心であったが、今や競争力の最初のハードルは設備投資のための資金力となった。資金力のない半導体メーカーは競争から振り落とされ、資金力のある半導体メーカーが競争から脱落したシェアを吸収することにより、さらに強大となり半導体業界における寡占化がますます進行する状態となっている。現在開発が進められているEUV露光装置が実際に導入される際には、この傾向がより顕著になると想定される。

一方で、従来から使用されているシリコンではなく、プラスチックフィルム基材を利用したLSI生産、また従来から使用されている光を利用した露光技術ではなく、印刷技術を利用したLSI生産の開発も進められている。現在進行している半導体製造装置メーカーをも含めた業界の寡占化に対し、半導体メーカーと半導体製造装置メーカーの両者が今後どのように協調し、どのようなアプローチで半導体産業を成長させてゆくのか、特に半導体製造装置メーカーと半導体関連材料メーカーの多い日本が今後、莫大な投資能力を必要としない新しい生産技術を開発・実現し、どのような発展を見せ、地位を再び築いていくのか、期待を持って見つめたい。
 
参考資料
1. 世界半導体生産キャパシテイ統計(Semiconductor International Capacity Statistics-SICAS) ホームページ
2. 国際半導体製造装置材料協会(Semiconductor Equipment and Materials International-SEMI) ホームページ
3. 半導体産業における「風を読む」IV〜2011年のシリコンウェーハ出荷面積の動向
4. 半導体産業における「風を読む」III〜半導体製造装置市場動向
5. 半導体産業における「風を読む」II〜GDPと半導体市場との相関関係から導く
6. 半導体産業における「風を読む」I

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