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対中半導体輸出規制強化の元でIntelが強かに中国事業を強化するのはなぜ?

米国政府は、2022年10月に先端半導体関連技術の中国への輸出規制を強化することを発表した。ロジック半導体に関しては、16/14nm以下のトランジスタ構造(つまりFinFETまたはGAA)を備えたチップおよびその製造に使用される装置を規制対象とした。日本も域外規制の対象となっている(参考資料1)。

米国の対中半導体輸出規制強化に呼応して日本も規制強化

日本には、このようなロジックデバイスを製造する能力のある半導体メーカーは存在しないが、装置メーカーは存在するため、経済産業省は、上述の米国規制に呼応するかのように、最先端半導体製造装置など23品目に関し、中国など非友好国への輸出に際しては個別許可を必要とするように省令を改正すると2023年3月31日に発表した。23品目には、成膜装置11品目、EUV/DUV露光装置及び部材4品目、エッチング装置3品目、ドライおよびウエット洗浄装置3品目、熱処理装置1品目、EUVマスク検査装置1品目が含まれる。東京エレクトロン、ニコン、SCREEN、レーザーテックはじめ10社ほどの企業が影響を受けそうだという(参考資料2)。


Intel CEOのGelsinger氏が電撃訪中、政府要人と会談

このように対中半導体輸出規制がますます強化されるなか、Intel CEOのPat Gelsinger氏は、先週、中国を電撃訪問し、中国中央政府No.2の韓正 国家副主席、商務部の王文濤部長(日本の大臣に相当)ら政府要人と次々と会談した(参考資料3)。
韓副主席は、Gelsinger氏に、「経済のグローバル化は誰も抗うことができない。Intelが中国市場に積極的に関与し、米中の経済および貿易協力を促進し、世界の産業およびサプライチェーンの安定に貢献することを歓迎する」と述べ、Intelの中国での事業強化を促したという。これに対して、Gelsinger氏は「中国市場の見通しについて楽観的であり、引き続き投資を増やし、中国との協力を深める」と返答したという。韓氏も「中国は先進的な製造業の発展を重視しており、外資の進出に好条件を提供する」とGelsinger 氏に中国事業の拡大を促したという。Intel米国本社は、これらの事実を公表していない。


Intel自社イベントで中国ビジネス強化をアピール

Gelsinger CEOは、先週、北京にて開催された自社イベント「Intel Sustainability Summit」において基調講演し、Intelの持続可能な開発戦略における中国の重要性を強調するとともに、中国パートナー各社との戦略的協力関係の強化など、中国でのビジネス強化に向けた取り組みをアピールしたという。


Gelsinger CEOとIntel China社員 / Intel China

図1 Gelsinger CEO(前列中央)とIntel China社員との記念写真 出典:Intel China


中国EVメーカーと共同開発の戦略的協力

Gelsinger氏は、先週、中国のGeely Holding Group(浙江吉利控股集団)傘下で高級電気自動車(EV)ブランドZeekrを手掛けるZeekr Intelligent Technology(浙江極気智能科技)とIntelとの新エネルギー車NEV共同開発に向けた戦略的協力覚書の調印式にも立ち会った。Intelは、高性能コンピューティング能力を統合したハードとソフトをZeekrに供給し、中国のNEVがデジタル化、インテリジェント化し、環境保護を促進するように戦略的に協業することにした。2021年のZeekr設立に際しては、Intelのベンチャ投資会社である米Intel Capitalが出資していたが、共同開発へと提携を深めるという。なお、このニュースは、Intel中国本土向け簡体字中国語ウェブサイトに掲載された。


Intel and Zeekr, Strategic Cooperation MOU Signing Ceremony / Intel China

図2 浙江省杭州でのIntelとZeekrの戦略的協力覚書の調印式の様子 左からIntel米国本社上席副社長兼Intel China 会長のWang Li氏、Intel CEOのPat Gelsinger氏、Geely Holding Group 会長Li Shuf氏、Geely Holding Group 社長兼 Zeekr Intelligent Technology CEOの An Conghui氏 出典:Intel China


中国での事業発展なくして米国半導体企業は成長できない

2022年に、米国半導体企業として中国本土での売上額が最高のQualcommの中国市場での売上高は、前年比28%増の281億ドル規模だった。これとは対照的に、Intelの中国市場での売上は、前年比25%減の171億ドルに留まった。PCやデータセンター向けプロセッサ不振で経営状態がますます悪化しているIntelにとって、中国市場を失うことは死活問題である。両社だけではなく多くの米国半導体企業や製造装置メーカーにとって、中国は世界最大の市場であり、今後も長期にわたり成長が期待される市場である。そのため多くの米国企業が、米国政府の対中半導体輸出規制下でも、好機を逃すまいと研究開発面での協力や、販売面においても中国向けモデルを用意するなど、中国での事業を発展させようとしている。Gelsinger氏も、なんとか中国ビジネスを伸ばそうと必死である。

参考資料
1. 服部毅、「米国政府が中国向け先端半導体と製造装置の輸出規制強化」、マイナビニュースTECH+ (2022/10/11)
2. 服部毅、「経産省が半導体製造装置など23品目の輸出を2023年7月より規制、その中身を読み解く」、マイナビニュースTECH+ (2023/04/03)
3. 服部毅、「IntelのGelsinger CEOが中国を訪問し政府要人と会談、中国事業を強化か」、マイナビニュースTECH+ (2023/04/17)

国際技術ジャーナリスト 服部毅
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