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半導体国際会議での投稿・採択件数減少で薄れゆく日本勢の存在感に歯止めを!

日米の学会が主催して1981年からから京都とハワイで開催されているVLSIシンポジウムは、2022年6月中旬、ハワイ開催としては4年ぶりに、オンディマンドを交えたハイブリッド形式で開催される(編集注1)。このシンポジウムへの地域・国別投稿・採択状況を調べることで、各国の半導体研究開発力を評価してみよう。なお、論文件数の分類は、筆頭著者の所属する組織の所在する地域・国による。

日本の投稿・採択件数は米韓台欧よりも少ない

今年のVLSIシンポジウムには、580件の応募があり198件採択された(図1参照)。採択率は34%と例年通り狭き門である。米韓中台欧がそれぞれ134〜72件応募したのに対して米国と並ぶシンポジウム主催国である日本の投稿数は32件と他の主要国の半分以下だった。採択件件数では、日本は、米韓欧台についで、かろうじて中国を上回る17件だった(表1参照)。しかし、「日本の採択率は53%と高く、高得点の論文が多かった」と日本のプログラム委員会は胸を張る。確かに、日本の採択率は、他より高い。しかし、極めて限られた企業と大学・研究機関だけが発表しているにすぎず、絶対数はきわめて少ない。


地域別投稿・採択論文数(Circuits/Technology計)

図1 2022年VLSIシンポジウムにおける地域・国別投稿・採択件数 出典:VLSIテクノロジーシンポジウム・プログラム委員会


これに対して、中国と韓国の応募数が急増している点が注目される。10年前(2012年)の会議と比較して、日本は95件から32件へと1/3に減少しているのに比べて韓国は79件から124件に増え、中国は25件から99件へと4倍増えている。今回の中国勢の採択率はわずか13%だが、応募件数の多さは力であり、中国から投稿された多数の論文うち、上位に位置する複数の論文は、世界トップレベルである。VLSIシンポジウムのプログラム委員会が選んだ今年の注目論文20件ほどの中に、中国通信機器メーカーの雄であるHuaweiの論文(IGZO FETを用いた3次元 DRAM)(参考資料1)と清華大学の論文(先進5Gトランシーバー)が含まれる。Huawei は、このほか筆頭著者ではないものの、中国科学院やベルギーimecの採択論文に名を連ね、幅広い先端半導体研究を行っていることが窺える。


表1 2022年VLSIシンポジウムにおける地域・国別採択件数 出典:共同プログラム委員会提供データをもとに著者作表

表1 2022年VLSIシンポジウムにおける地域・国別採択件数 出典:共同プログラム委員会提供データをもとに著者作表


中国半導体工業会(CSIA)の調べでは、2021年末現在、中国には2810社もの半導体ファブレス・IC設計会社が存在しており(参考資料2)、激しい生存競争のなかで切磋琢磨している。すでにHuawei子会社のHiSiliconや紫光集団傘下のUNISOCは世界レベルのファブレスに成長している。中国ファブレスの世界市場シェアは9%にまで成長してきている。これに対して、日本のファブレスの世界シェアは1%にも満たず、日本勢の存在感はほとんどない。

ISSCC2022でも同じ日本凋落傾向

次に、去る2月に開催された半導体回路・システムのオリンピックといわれる国際固体回路会議(ISSCC)について見てみよう(編集注2)。ISSCC 2022の投稿論文数は前年比12%増の651本で、採択論文数は200本、採択率は31%の狭き門だった。採択論文の地域別割合は、アジアが約50%でトップ、北米が36%、欧州が14%と続く。国別では、アメリカが69件でトップ、次いで韓国41件、中国30件、台湾15件で、日本はわずか7件だった。VLSIシンポジウム同様、韓国や中国が目覚ましく件数を増やしているなか、日本勢は長期にわたり件数減少に歯止めがかからず、2015年に比べて1/3以下に減ってきている(図2参照)。


国別採択論文数の推移 / ISSCC日本プログラム委員会記者会見配布資料

図2 ISSCC2022の地域・国別採択論文数の過去8年の推移 出典:ISSCC日本プログラム委員会記者会見配布資料


半導体人材大量輩出に向け教育の抜本的改革を

この図から明らかなように、日本はアジアで一人負け状態となっている。日本は、国策での半導体製造力強化にばかり目が行きがちであるが、製造は台湾のTSMCに任せるのなら、むしろ国を挙げた半導体企画・設計力および最終製品開発力強化策やそのための専門人材育成・教育に注力する必要があろう。

しかるに、現在、九州では、高専のカリキュラム見直しや大学の半導体関連授業の増加など小手先の手直しが検討されているというが、製造支援中心であり、近隣アジア諸国の総合的な半導体人材育成強化策に比べてはるかに見劣りしているといわざるを得ない。韓国のシステム半導体契約学科制度の全国展開(参考資料3)とか、中国の主要大学での集積回路学部の新設(参考資料4)とか、台湾教育部(=文部省)の主要大学半導体専門大学院の設置(参考資料5)や半導体人材毎年1万人輩出計画などを見習って半導体人材大量輩出のための大胆な教育改革が必要であろう。

参考資料
1. 服部毅、「VLSIシンポジウムプレビュー:Huaweiが3D-DRAM技術、Metaが超低消費電力SRAMを発表予定」、マイナビニュースTECH+ (2022/05/30)
2. 服部毅、「VLSI シンポジウム2022プレビュー:Haweiが3D-DRAM技術、Metaが超低消費電力SRAMを発表予定」、マイナビニュースTECH+(2022.5.23.)
3. 服部毅、「ソウル大での半導体契約学科開設で競うSamsungとSK Hynix」、マイナビニュースTECH+ (2022/05/10)
4. 服部毅、「北京大学が『集積回路学部』を発足、中国政府の要請で他大学でも発足相次ぐ」、マイナビニュースTECH+ (2021/07/28)
5. 服部毅、「国立台湾大学に半導体研究専門の大学院が誕生、高度な半導体研究人材育成を強化」、マイナビニュースTECH+ (2021/12/28)

Hattori Consulting International 代表 服部 毅

編集注
1. VLSI Symposium 2022の概要はセミコンポータルの記事「VLSI Symposia2022、回路とテクノロジーが合体、基調講演から見えるもの」を参照
2. ISSCC 2022の概要はセミコンポータルの記事「ISSCC 2022のテーマは持続可能な社会に向けたインテリジェントな半導体」を参照

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