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経産省の日の丸半導体復活戦略、過去の失敗を繰り返すな!

経済産業省の萩生田大臣は、昨年末に開催された衆議院予算委員会や経済産業委員会などで、与野党両方の議員から「半導体の失われた30年」(参考資料1)の原因を問われ、以下のように繰り返し答弁した。

経産省は過去の半導体政策の失敗を真摯に反省
「我が国の半導体産業は、1980年代には世界一の売上高を誇っていたものの、その後、競争力を落としていくことになります。この原因のひとつは、当時の政府が、世界の半導体産業の潮流を見極めることができず、適切かつ十分な政策を講じなかったことであり、この点は真摯に反省した上で次へ進んでいかなきゃいけないと思っています。その他の原因として、1980年代、日米の貿易摩擦を契機に積極的な産業政策を後退させたこと、1990年代以降、ロジック半導体の重要性が高まる中で、半導体の設計と製造を分業する世界的なビジネスモデルの大転換を読み切れず、産業界を導くことができなかったこと、また、日の丸自前主義ともいうべき国内企業再編に注力し、イノベーション力の向上や販路開拓において有力な海外企業との国際連携を推進できなかったこと、バブル経済崩壊後の長期不況において民間投資が後退する中、諸外国が国を挙げて積極的な投資支援を行う一方で、我が国は国策としての半導体産業基盤整備を十分に進めてこなかったこと、経済社会のデジタル化を十分に進めることができず、半導体の需要家となるデジタル産業が十分に育たなかったことなどが挙げられます。」(衆議院委員会議事速記録による)

なぜ、経産大臣が、かくも素直に過去の数々の失策に対して反省の弁を述べたかというと、先に経済産業省が熊本に誘致した台湾TSMCの半導体ファブに複数年度にわたり数千億円の補助金を支給するためには法律を改正する必要があり、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法(通称、5G促進法及びNEDO法)の一部を改正する法律案」をすんなりと成立させるためであり、思惑通り原案通り可決成立した。

経産省が年初に半導体産業復活の基本戦略発表

萩生田大臣は「過去の反省も踏まえた上で、我が国の強みを生かしつつ、国策としての半導体製造基盤整備のための大胆かつ総合的な支援や、国際連携による先端技術の共同研究開発など、我が国半導体産業の基盤確立に向けた取組をしっかりと進めてまいりたいと思います。」と述べた。どのように進めるかについて、経済産業省は、2022年年初めに半導体産業復活の基本戦略」を発表した(参考資料2)。この戦略は次のような3段階の構成になっている。

ステップ1:IoT用半導体生産基盤の緊急強化
ステップ2:日米連携による次世代半導体技術基盤の強化
ステップ3:グローバル連携による将来技術基盤の強化

ステップ1は、経済安全保障上先端半導体(ロジック、メモリ)を安定確保するために海外半導体ファブを国内に誘致し、複数年度にわたり継続的に資金的支援を行うとともに、既存製造基盤の刷新と強靭化を図る段階。
ステップ2は、つくばの産業総合研究所による「Beyond 2nmプロセス開発」に向けた研究開発コンソーシアム形成に賛助会員としてIntelやIBMに参画してもらうなど、日米連携による次世代半導体技術開発をさらに強化していく段階。
ステップ3は、さらなる微細な領域である次世代の光融合技術の研究開発に取り込む。光融合技術は、2030年以降、ゲームチェンジャーになる可能性があり、第3次研究開発国家プロジェクトを開始し、第4次以降も継続した技術開発が必要であるとしている。

経産省の戦略は過去の失敗を教訓にしていないのではないか?

この「半導体産業復活の基本戦略」のすべてのステップに共通しているのは海外勢の誘致や招致である。筆者は、以前本欄で指摘したように、歴代の半導体・ハイテク担当官僚は「外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか」(参考資料3)と疑問に感じている。

まず、ステップ1に関して;経済産業省が台TSMCを熊本に招致した結果、TSMCがソニーとの合弁工場を建設することを決めたが、両社の商談で決まったAppleなどに向けた大判イメージセンサの追加量産が目的のようである。イメージセンサにとっては、最新の28nmプロセスであるが、競争の激しいロジック業界から見ると、2024年末の工場稼働時点で10年以上前のレガシープロセスである。

経済産業省が狙っていたポスト5G通信向けの先端半導体製造基盤の整備(「5G促進法」の趣旨)とはかけ離れている。この辺を経済産業省がどうつじつま合わせするのだろうか。経産省の担当者は、当初からポスト5Gに向けて最先端ロジック半導体のファブを誘致するはずだったが、すべてTSMC/ソニーのペースで決まってしまっている。週刊ダイヤモンドは「ソニーだけが高笑い!血税4千億円で誘致したTSMC熊本工場の大矛盾」という記事を掲載しているほどだ。外国企業に補助金を出すことは国益にかなうかとの懸念を払しょくするためにソニーに少額出資させて形ばかりの合弁会社として体裁を整えたとの見方が有力である。海外企業の工場誘致が目的化しているような気がしてならない。

ステップ2に関して;経産大臣までが今までの自前主義を反省と言うが、そんなことはなく、実際にはEUV関連の国家プロジェクトとして以前、半導体コンソーシアムを組織化したが、そこにも米Intel、韓Samsung、台TSMCなど海外勢を加入させ、盛んに国際的組織であることを宣伝し、そのことを日本経済新聞は1面トップで伝えていた。EUVについては、これら外国勢はその成果を持ち帰り実用化させたが、日本勢はEUVリソグラフィを活用できず仕舞いだった(参考資料3)。これらのプロジェクトは全て書類上では成功裏に終わっていることになっているから、誰も反省のしようがないのかもしれないが。

ステップ3に関して;光融合は、欧米の先端研究機関でも研究されており、結果的には上述のように税金を投入して研究はしたものの実用化は5Gで先進する海外勢がはるかに先という状況になりかねない。

かつて筆者は本欄で、ベルギーimecや米国Albany NanoTechを視察した経産省の歴代の半導体担当課長や審議官は10年以上前から自前主義をやめてオープンイノベーションの国際連携を声高に叫んでいた事実を紹介し、「外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか」(参考資料2)と述べた。経産省の半導体戦略が再び失敗せぬようにもう一度ここで指摘しておきたい。

参考資料
1. 服部毅、「国家ビジョンなき半導体政策では日本を救えない:まず何をすべきか」、セミコンポータル (2021/07/02)
2. 服部毅、「経産省が打ち出した日本半導体復活に向けた基本戦略 - インターネプコン2022基調講演から」、マイナビニュースTECH+ (2022/01/31)
3. 服部毅、「外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか」、セミコンポータル (2021/10/13)
 

Hattori Consulting International 代表 服部毅

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